18.これがお仕事なんですもの
翌日、いよいよ大事なパーティの前日となったので私とルーベルンはまずキャンベング家へ行きマリアと作戦の最終打ち合わせをした。
以前より少し明るい雰囲気になっているキャンベング家だが、私とルーベルンはシュナイツァーの件もあってキョロキョロキョロキョロ。
首が疲れるくらいにおかしな所は無いか、不思議なものは歩いてないか飛んでないか…ひゅっとした風の音にも反応するくらい気を張っちゃう。
当然マリアは心配してくれる。
「ハリエッタ、そんなに明日の事を心配しなくても大丈夫よ。わたくし達がついてるもの」
「あ…うん。ありがとうね。うん…ところで、マリアの周りにこう…不思議な雰囲気の人とか、やけにずば抜けて運が良いとか悪い人とかいないわよね?隠し事は無いわよね?」
「どういう意味ですの。我が一族があまり良くない扱いというのはいつか話した通りですわ。ハリエッタ、あなたもしかして。今になってわたくしに不穏な感じがするから縁を切りたいとおっしゃるおつもり…?」
「あっ…コホン。失礼しましたわ。わたくしったら柄にも無く動揺してしまって恥ずかしいです。ごめんなさい、マリア。昨日から落ち着かなくて」
咳払いをしていると、マリアがずっと疑いの目を向けてくるのでテーブルの下から顔を覗かせてるルーベルンが言ってくる。
「いっそ昨日の件をキャロレン嬢夜這い疑惑として使いましょう」
(え。でも女中が私達と会ってるのに証言されたらどうするの?)
「ハリエッタの方が身分も上ですし、女中は口答えなんて出来ません。シュナイツァー子息も公の場で婚約者に夜中会いに行ったなど言う度胸があるとも思えません」
なるほど。
私の様子がおかしいのも全てそのせいにしたら、今全部落ち着くわね。
「実は昨日ショックな出来事がありましたの」
誤魔化しがてら、夜にシュナイツァーが来た事をいかにもキャロレン目当てだったように匂わせて説明するとマリアは怒り心頭。
「婚約者の!義理の妹に!夜伽を仕掛けたかもしれない、ですって!!しかもハリエッタに見つかるなんてわざとかしら?!ひどすぎますわ、なんて人なの!いくら身分が高くともやっている事は最低です!」
ものすごく怒ってくれて逆に申し訳ないくらいだった。
「マリア、ありがとう。でも、わたくしの見間違いかもしれませんのよ。2人が仲睦まじいからそんな勘違いをしただけかも…」
「勘違いをさせて不安にさせる婚約者がおかしいんですわ。しかもよりによって正式なパーティーの前に。嫌がらせ以外の何だと言いますの」
マリアは良い子よね、この子が女神の魂の持ち主だったら良いのにっ。
…いけない、肝心な事聞くの忘れていたわ。
(マリアにも悪魔とかついてないでしょうね、ルーベルン。ちゃんとチェックしておいてっ)
「人使いの荒い。昨夜僕を突き飛ばして悪魔を抱きしめたのは何処の誰ですか」
(知らなかったんだから仕方ないでしょ)
「そんな偉そうにしたら教えませんよ。僕にもあなたの今までの失敗から、現ランクを下げる事くらいは可能なんですから」
(あっごめんなさい。キャンベング家に悪魔はいないか教えてください、ルーベルンせんせ。お願い、不安なのよ)
「やれやれ…そこで謝るのがあなたなんですよね…いる事はいます。キャンベング家の名前に代々伝わる悪魔の様です」
(えっ!)
「ですがこの悪魔はキャンベング家の名前と共にある。悪運はご存じですよね。取り立てて幸せにもならない代わりに不幸な死も無い様です。共存してる珍しい家系です」
(そういう家系だからルーベルンの気配、マリアはたまに気付いてるのかしら?)
「でしょうね。ハリエッタの影響で家が明るくなってるのも一時的なもの。交流が無くなったら元に戻ります、そういうものなので。もう数年したら死ぬあなたには関係の無い事です」
そういうもの…
胸がちくんとする。
明日の本番や弊害の事ばかり焦ってたけど、私は仲良くなったマリアに嘘ついて散々利用していなくなろうとしてるんだって考えてしまう。
私が婚約破棄された後追放され処刑されたら、マリアはきっと怒るし泣くでしょうね。
それだけじゃなく助けてくれようとしたら。
そう考えるとなんだか急に泣きそうになっちゃうじゃない。
……
ここで折れたら今までの何年何ヶ月もの謎の努力が無駄になるじゃない。
家族にはもう避けられてるもの。
エメリスお兄様はリーウェ嬢と別宅で結婚式を控えたラブラブ状態で私はほぼ放置、キャロレンは求婚者にモテモテで贈り物とデートに忙しい毎日で関わっていないわ。
両親も結婚さえしてくれればって、昔みたいに期待はしてくれなくなった。
私に今唯一付き合ってくれてるマリアにも、パーティの後は用済みですわくらいの態度をとって突き放さなきゃいけないの。
人を利用して周りから嫌われて破滅する、それが悪役の務め。
良いところは全部キャロレンに回して私はいなくなってお仕事完了。
それで来世は楽しくなるんだから。
簡単なお仕事じゃないの。
シュナイツァーだって結局シナリオ仕事で私に近付いてキスをするタイミング狙ってただけ。
全部仕事よ。
こんなの茶番よ。
……
「ハリエッタ、大丈夫ですの?」
「大丈夫ですわ。明日もありますから、もう帰るわね。マリア、ありがとう」
「いいえ。明日は頑張りましょうね」
「ありがとう。マリア…ありがとう」
めそめそしてる暇は無いわ、次はグリンド伯爵家に行ってシュナイツァーとパルパルの様子を確認しないと。その後はパーティ会場の下見。
従者に馬車を走らせながら、私は「まだまだ忙しいんだから」と揺れる座席で自分を勇気付けた。
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