17.悪魔のシナリオ


全然暖かく無いパルパルを抱っこしたまま私はシュナイツァーに聞いた。


「パルパルが死神猫ちゃんだったのは分かったわ。だけど人選が悪いってどういう事?私はルーベルンに動物の転生先を教えてもらってる時、たまたま人間になれるここに来ただけよ」


「一気に喋り過ぎです、ハリエッタ。まずその猫は一応悪魔なんですから離しなさい」


ルーベルンがパルパルを私からひょいと奪って、シュナイツァーの方に放す。パルパルはちょこんとお座りして「ぱる〜」と私達を見上げていた。

超絶かわいい。


「パルパルはハリエッタを送り届けた後、神の糧となる魂の器を探し歩いたそうなんだ。とても美しく気高い女性を見つけて、器に移すという大仕事でパルパルは大天使になる為張り切って緊張もしていた。そして、いざ送り出そうとしたら肝心のその女性がペットを連れていたのに気付かず失敗したそうだ」


「失敗…」


「その隣にいる仔犬を、選ばれた魂と一緒に人の器に入れてしまうという大失態を犯したんだよ」


「…!?そ、それってどうなるの?」


それってキャロレンの事よね。

身体に二つの、しかも人間と仔犬の魂が混ざっていたからって事?

それじゃおかしな行動が出てくるはずだわ。


「分からない。パルパルは魂の色が変わっていないハリエッタを見つける事は出来たんだが、二つ混ざり合ってはその魂も色が変わるらしいんだ。能力もいくつか奪われたパルパルには分からないらしい」


「ルーベルンはそういうの見えないの?魂には詳しいでしょう」


「魂の色をやたら伝えるのは職権濫用ですから。それにシナリオ遂行中止の伝達も来ていないからやる事は同じです。余計な情報を増やしては混乱するでしょう」


掴み所の無い回答をすると、ルーベルンは

「それより、シュナイツァー。貴方は何者なんですか」

と警戒したままの口調で聞いた。


妨害者ブロッカーが魂の横取りをしてくるのはたまに聞きます。会ったのは初めてだ。随分と余裕がありますね」


「私は妨害者ブロッカーではないよ。パルパルの持ってきた悪魔のシナリオをクリアする為に動いてるだけだ」


「悪魔のシナリオと鉢合わせなんて不運にも程がある。全部君のせいなんだな」


ルーベルンがどかっと床に座った。パルパルが「ぱるっ」と驚いて跳び上がる。


「猫ちゃんをいじめないで、ルーベルン!」


「猫じゃなく悪魔です」


「パルパルに優しくしてくれてありがとう、ハリエッタ。この子は身を隠す事ばかり特化してしまって…」


「だからシュナイツァーも一緒に気配が消えていたのね」


「ああ。私が大人になるまでシナリオはまだクリア出来ないと分かっているから好きにさせていたんだ」


シュナイツァーは逃げて来て頭の上にぱいんと音を立てて乗っているパルパルを撫でながら苦笑する。


「私のクリア条件は、乙女の魂を引っ掻いて蜜を出し…少しだが…パルパルに与える事なんだよ」


「……!!…なんで」


「パルパルは淫魔サキュバスの一番下なんだ。魔力も弱いし一回だけで良いらしいんだが、私にも心許せる相手は限られるからね。避けられていても、きっとハリエッタならと思って今日も来たんだ」


「ぱるぱる、ぱる」


「ぱるぱる、じゃないわよ…っ可愛い顔してあなた、えっちな悪魔だったの…?ひえっ、やだ!やだっ」


「だから離せとさっき言ったじゃないですか」


ルーベルンがぐいっと手を引いて私をシュナイツァーから遠ざける。


「残念ですが、ハリエッタ様には先程申し上げたように神とのお約束があります。お引き取りください。相手が悪かったですね」


「そのようだね。君がいたらどちらにしても手は出せない」


シュナイツァーはあっさり引き下がる。


「夜分に押しかけて申し訳ない。明日の為にゆっくり休んでくれ、私のハリエッタ」


そう言って丁寧に頭を下げ、ぱいん、と音を立てて消えたパルパルに「行くよ」と声をかけて一緒に部屋を出て行った。


♢♢♢



「はあ。意外な展開だったけど、話の分かる相手で助かったわ。パーティも作戦通りしたら納得してくれるでしょ」


私はばふっとベッドに寝転がる。


私のベッド上にいつの間にかいたルーベルンは

「あれはどういう意味なんだ。どうして大人になるまで待っていたんだろう?本当に少しなのか?淫魔の事なんて知りたくもないが勉強しないと…」

と、ぶつぶつ言いながら光の輪から本を出して何か読んでいた。


「ルーベルン、悪魔の事はよく知らないのね」


「美月さんの感覚で言えばお互い仲の悪い国みたいなものです。本来ならこんなにそばで関わる事は無い…淫魔の必要魔法力条件、魂からの蜜、検索…」


「検索するんだ」


「……ああ、分かりました。大した事無かったです。あちらがしつこく執着してきても面倒ですし、ついでにさっさとクリアさせても問題は無さそうです」


「そうなの?良かった」


「人前で舌を入れる深いキスをするだけです。良かった良かった」


「!?それ、大した事無い?」


「ええ。これならハリエッタの身体は純潔のままですし。ついでに人前でキスをしてから婚約破棄させましょう。一気に片付きます」


「無茶苦茶言ってる。私情緒不安定じゃないのよ、そんなの」


「今更ですよ、大丈夫です」


「ええ〜…」


明後日やる事が増えてしまった。キスなんて前世でもした事ないのに…っもおおおっ!

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