16.女神と悪魔と再会と


シュナイツァーとグレース家へ戻り、廊下の見回りをしていた女中と鉢合わせる。


もう話はついてるのだろう、私が全身びっしょり濡れてるのにだけ驚いて

「お着替えをお手伝いします」

と部屋について来て、ぽつんとつけた灯りの元身体を拭いて暖かいネグリジェに着替えさせてくれた。


シュナイツァーは背を向けて待っていてくれたが、その目線の先にルーベルンが浮いている。

2人の会話がちょっとだけ聞こえる。


「いつからですか?」


「最初からだよ。今は昔程はっきり見えないんだ。小さい頃一体私の婚約者は何に取り憑かれているんだろう?と正直不安だった」


「僕はただの脇役ですよ」


女中はさっさと濡れた服を持って「どうぞ、ごゆっくり」と頭を下げていなくなる。

これ、完全にそっち系の展開じゃないの。

だけど私にはルーベルンがついてるし、さすがにシュナイツァーだってR18の事は出来ないでしょ。


「ハリエッタ、ベッドにおいで。暖めてあげよう。入浴出来たら一番良いんだが、さすがに夜中だからね」


「いいえ、ご遠慮します…はくしょん!」


「明後日風邪で出席出来なかったら君も困るんだろう」


「ええ、すごく。ですがわたくし結婚してからじゃないとそういう事はしないと決めてますの。私の精霊も見ている前で恥ずかしいですわ」


「じゃあ、せめてもう一枚羽織るといい」


すぐに引き下がってくれたシュナイツァーはルーベルンの方を見て、

「精霊に性別ってあるのかい?」

と聞いている。

ルーベルンは精霊ではなく魂の管理者なんだけどね。


「性格でなんとなく傾向が決まるだけですね。女性に変身しようと思えば出来ます。僕はこの姿が性に合っているだけです」


「そうなんだね、悪いものでは無さそうだ。どうしてハリエッタのそばにいるのかな?」


「ハリエッタ様が選ばれた人だからです」


近寄りもしない私は口を割らなそうだと判断したのか、シュナイツァーはベッドに腰掛けたままルーベルンに聞いている。

ルーベルンも自分が今まで気付かなかった失態をカバーする為、ゆっくりとした口調で答えてる。


溺愛とかR18のコースにはなりませんように…っ

私、そういう免疫は無いの!


そういうえっちなのはお断りです、でもそこまで言うなら、実は興味があってぇ…流されちゃっても…チラッチラッ

ってタイプは昔から漫画でもドラマでも大の苦手なの。ジャンルが違うのよ、お仕事にそんなものまで含まれていたら訴えるわよっ!

訴えても女神に今すぐ砂にされちゃうんだろうけどもっ!


ルーベルンお願い、上手く健全な悪役ルート抜け道を確保して…!

祈りながらふわふわの肩掛けを羽織り、2人の会話に耳を傾ける。


「神に選ばれた人、というのは博識な貴方様ならお察しいただけるかと。ハリエッタ様は神の御心の元に…いつか、旅立たなければなりません。僕はその時が来るまでお仕えしているのです」


「…そんな。私のハリエッタが…」


「はい。神からハリエッタ様を奪うなど、神への冒涜となります。もちろん乙女の純血を穢す事も。分かっていただけますか」


神への生贄ってのはあながち間違っていないわ。上手い!さすが年の功ね、ルーベルン!

やっちゃえ、そのまま説得して!

そして私は、シュナイツァー、あなたのものではありませんっ!


「…だとすると。私とハリエッタが結婚をするのは大丈夫なのか…?」


「そうですね、明日のパーティで婚約破棄をしていただいくのも手です。貴方はまだお若い。ハリエッタ様も自らの運命はずっと前に覚悟しているので」


「………」


シュナイツァーが肩を落として黙ってしまった。

ショックだったのかな…この子、優しいもの。頑張って夜のお誘いに来たのにこんな展開だなんてちょっと女性不信になるわよね。


「シュナイツァー、私は大丈夫だからキャロレンをよろしくね」


「キャロレン?どうして今その子の名前が出てくるんだい。私は今それどころじゃないよ」


「そっか…ごめんなさい…」


「神が相手だなんて思わなかった。これじゃ、クリア出来ないじゃないか」


え?


「…え?何…を?」


私が目を見張ると、ルーベルンが一気に青ざめた表情になる。


「!!さては…貴様!悪魔からの使い、妨害者ブロッカーか!」


パーカー姿の少年の姿でぶわっと風を起こし光を放つ。シュナイツァーが顔を腕でガードした一瞬の隙に攻撃の構えをとったルーベルンが私の前にいた。


「おかしいと思ってはいた。何年もの間ずっと気配が薄く、僕が気付かないなんて…無害だと油断していた。さてはそっちにも魔法を使える使い魔がいるんだな?!何が目的で今まで隠していた!」


シュナイツァーは落ち着いた表情で立ち上がり、私達に向き直る。


「そんないきり立たないでくれ。私とパルパルは君達を攻撃するつもりは無い」


「パルパル?使い魔の名前か」


ぱいん、と軽快な音がして「ぱるぱる、ぱる」と可愛い声のぬいぐるみみたいな黒い猫ちゃんがシュナイツァーの肩にぶら下がった。

確かに背中に悪魔っぽい羽根が生えてるけど…


か。か、か、


「かわいい〜〜〜〜っ!!!」


私はきゅううん!としてつい手を伸ばしてしまった。ルーベルンにぺちん、とたしなめられたけどね。


「パルパルは女神に『人選が悪すぎ』というだけで堕天使にされ、悪魔の仕事を背負わされた元女神の使いなんだ…ハリエッタをずっと心配していたんだよ」


「なんで…?」


「役目とはいえ前世君に助けられて、この世界で再会出来たから」


「!!あの時の猫ちゃんなのね!」


「ぱるぱる、ぱる〜っ」


私はたまらなくなってルーベルンを突き飛ばし、ひんやりしてるけど柔らかいパルパルを抱きしめてしまった。


「わーん、また会えるなんて!お互い酷い目に遭わされたわよね!よしよしっ」


「この猫好きは…」


ルーベルンは起き上がりながら私を呆れた目で見ていた。


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