15.婚約者は見ていたようです
「そして、シュナイツァー子息が『もうやめにしよう、2人きりでちゃんと話そう』と言ったら」
今日は大事なお披露目パーティの2日前。
日中はそれなりに家族と関わり、マリアとは作戦会議。ドレスの新調や一際力を入れた魔法とダンスを組み合わせたレッスンを終え、疲れた身体でルーベルンと夜の婚約解消へ繋げる喧嘩練習。ふう。
ルーベルンが上手い事何か工作して、会場にキャロレンとシュナイツァーが一緒に入場するようにすると言ってくれたのでそこから責め放題という予定なの。
シュナイツァーの方が身分は上。婚約解消の権限もシュナイツァーの方が強い…
周りは何も言えず、私がひたすら喚き散らすみっともない悪役令嬢の真骨頂シーンよ。負け犬はよく吠えるっていうアレよ、アレ。
ここで婚約解消された後、扱いに逆ギレしたハリエッタはキャロレンを毒殺しようとする。その予定への大事な一歩だから気合いは充分!
「おーっほっほっほ。ここで婚約を解消する度胸なんてあなたにありませんわよね。わたくしは他の女性と2人きりでこそこそ会うような方とは結婚出来ませんわ!」
「『それはお茶会を開いてハリエッタが私を相手しなかったからだ』」
私は上向き加減になって、シュナイツァー役のルーベルンに大きな声で言い放つ。
時折ぽぽん、と水の球を生み出す
「わたくしにもお友達とのお付き合いがありますわ。あなたは異性、わたくしは同性。問題になるのはどちらか一目瞭然ではありませんこと?」
「そしてこの辺りで、事前にマリアへ頼んでいた加勢をしてもらう。『この方がキャロレン様と一緒にいるのはわたくしと他にも何人か見てますわ。一度や二度じゃありません』と。ああ言えばこう言う。揉めるのに嫌気が差したシュナイツァー子息が『もう無理だ、婚約は解消する』と言う…ってとこですかね」
「ふう。上手くいくと良いわね」
心の声で話す必要も無いから、私は岩場に寝そべっているルーベルンに
「これでも私が悪者になるのかしら?」
と再度確認した。
「これだとシュナイツァーがどう見ても周りから悪く見られるじゃない」
「淑女は公衆の面前で夫に恥をかかせたりしません。パーティで、皆さんの前でこういった言い合いを始めるのがもう結婚相手として不合格だし下品なんです。どちらが悪いとかではなく、やり合う場所を選ばなかった失態から解消は免れないでしょうね」
「そういうものなのね。キャロレンがシュナイツァーを好きなら良いんだけど。いまいちよく分からないのよ…惚気も聞かないし。ちゃんとシュナイツァーと幸せになってくれなきゃ私が報われないわ」
ザク。からん。
ふと。草を踏む音と、石の転がる音がした。
「?」
野生の動物がたまに
「ハリエッタ」
一番、キャロレンよりも見られたらまずい、一番見られたくない相手がそこにいた。
「…!!」
いつから?
何処から聞かれていたの?
(ルーベルン!逃げ…っ!)
ルーベルンも同じタイミングで気付いたらしく、岩場からびっくりして(実体はない筈なのに)地面に滑り落ちてしまう。
相当びっくりしたみたい。
魔法の膜がぱちん!と壊れて私は一気に
「ひゃわわっ…!冷たぁい!!」
「ハリエッタ!そこにいたら溺れる!危ないから早くこっちにおいで」
いつの間にか大きくなったシュナイツァーの骨張った男の人の手に引かれ、私は
…シュナイツァー、背が伸びている。
寝る時の服じゃなく、ちゃんとした服を着てるし間近で見るとかっこよくなってるわね…
じゃなくて、なんで。
「なんで、なんでここにいるの?今何時だと思ってるのよ。貴族が夜ウロウロしたら危ないじゃないのっ」
私は濡れた髪をかき上げて、先を絞りながらどの口が言ってんのよというセリフを言った。
「それは…私のセリフだよ。私は男、君は女だ。どちらが危ないのかは一目瞭然だろう?」
シュナイツァーが持ってきた灯りが、少し離れた場所に置かれていてぼんやり私達を照らしている。
そ。そこから聞かれていた…っ?
結構聞いてますねっ!?
「私は安全を確認してから発車オーライしたから良いのよっ、家も近いし!シュナイツァーはグロリア家が遠いのになんでここにいるの?そっちの方がよっぽどおかしいじゃないの!」
「ハリエッタ。美月さんの口調になってます、それはまずい」
ルーベルンが困った顔で
「適当に事情を話しながら、グレース家に送って貰うのが良いかと思います」
(そうね、そうする)
「私がここにいるのは…ハリエッタが欲しかったからだよ。もうすぐ大事なパーティだから準備に忙しく、結婚したら会う事が減るだろう相手と社交を優先するというのは分かってる」
「はい?」
私が服の水気をじゃーっと絞ってると、シュナイツァーが何か語り始めた。
「…君が私を避け始めた理由が分からなかったから色々な人に相談していたんだ。婚約したのにも関わらず手を一切出さない私が男らしくないからだろうと分かった。ご両親にも話して今宵君を攫いに来てみたんだ。そうしたら君は寝巻き姿で外を歩き、こんな所で叫んでいた」
はい、最初から見られてました!
色っぽい告白よりそっちにショックを受けた私がカチーンと固まっていると、シュナイツァーは自分の上等な上着をふわっとかけてくれる。
「とにかく、風邪を引く前に帰ろう。そして君とは話をしなきゃいけないようだね」
優しく微笑んでくれるシュナイツァーは私の肩を抱き、ルーベルンの方を見て一言。
「あの長年のお付き精霊も呼ばなくて良いのかい?」
え。え、え、え…
何これ、怖い。
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