11.ようやく動き出せますわ


11歳の私の誕生日を迎える頃には、シュナイツァーもぎゅんと背が伸び剣術と狩りを嗜んでいた甲斐あって素敵な男の子に成長した。


顔立ちも不安そうなぽわんとしたものから、キリッとしたイケメンに。

エメリスお兄様の成長ぶりが麗し過ぎてやっぱり私は「お兄様程ではないわね」なんて思ってしまうのだけど、グレース家もグリンド家も今から私とシュナイツァーの子供が楽しみと言ってくれていた。

どうせ私はそこまで生きられないけど、シュナイツァーと離れない保証があるのは嬉しい。


「ハリエッタ嬢がついてるならシュナイツァーも安心だ。なあ」


「はい。こんなに早く素晴らしい相手が私の婚約者になってくれた事、嬉しく思います。ありがとう、ハリエッタ」


どういうわけか11歳の誕生日以来、よく私の家に来てくれるようになったシュナイツァー。

イマイチキャラが掴めなかった彼も食事の同席で微笑み、それくらいは言ってくれるようになった。


元々、私の誕生パーティには毎年新しい靴と色々な魔法を縫い込ませた特注のリボンをプレゼントしてくれていたんだけどね。

おかげでいただいた靴とリボンが沢山専用のクローゼットにある。よく眠れる魔法、いい香りのする魔法、ちょっぴり運がよくなる魔法などなど。指輪やネックレス、イヤリングは婚約者がいても求婚してくる家からいただくので、これは地味に助かる。


見違えるほど可愛く成長したキャロレン(良いもの食べさせて貰ってエステとか色々して貰ってるみたいだから、ツヤッツヤなのは当たり前よね)も他の家から声がかかるようになり、私は別の男子と恋に落ちていないか見張るのも大変。


何しろ、キャロレンは言い寄られた相手全員を家に招いてしまうし拒否しないのよ。

ある日の夕方、私は帰って行く求婚者一行を見送ってからもうこれ以上増やさないで欲しいなと注意した。


「キャロレン、あなたまた殿方に「是非またこちらに来てください」とおっしゃったでしょう。それは自分も好意があるという意思表示になるからその気が全く無いのならおやめなさい。我が家だって1日のお付き合いには限界がありましてよ」


「シュナイツァー様みたいに素敵な婚約者を探してますの。お二人の関係がわたくし、羨ましくって」


それこそ、なら是非よ。


「あら、シュナイツァーの事を気にしてらして?そうよね、わたくしのシュナイツァーはかっこいいし、落ち着いていてでしゃばらないし、毎年気の利く素敵なプレゼントをくださるし、もっともっと素敵な男性になるでしょうね。きっと一生大事にしてくださるわ」


「あ…ふふふ」


キャロレンが私の後ろを見て何かに気付き、クスクス笑う。「?」振り返ると、そこにはシュナイツァーが狩りで捕らえたのだろう炎鹿ファイジェンの立派な角を手にして来ていた。


「シュナイツァー様…」


「こんにちは。こんな時間に失礼します、強力な魔除けになるという獲物が手に入ったのでハリエッタ嬢の魔法で剥製にしてこちらに飾って貰おうと…」


「聞いてらしたの?」


「さあ、何の事でしょうか」


シュナイツァーはちょっと可愛らしく笑う。聞いていたわね。すごく嬉しそう。


「羨ましいですわ。お姉さまとシュナイツァー様には誰も入り込めませんわね。わたくしもきっと素敵な殿方を…」


キャロレン、諦めないで!


「ここにいるじゃありませんの!」


「もう!お姉さま惚気るのもいい加減にしてくださいません?いくらわたくしでもムッとしちゃいますわ。もーっっ」


うう、なんでこうなっちゃうのよ。

シュナイツァーは毎年私の家族の誕生パーティに来てはくれたが、ずっと私の隣で静かに立ってるだけだったから…

キャロレンとこうして接するのがあまりに遅かったからね、きっと。



♢♢♢



すっかり長い付き合いになったルーベルンもキャロレンが余計な事をしないよう見張りに協力してくれるけど、問題はそこよりシュナイツァーとキャロレンがまだまだ知り合いレベルという事だ。


「14歳までにキャロレンさんとシュナイツァー子息を恋に落とさせないと、成績評価はおそらくもう上がらないと思われます」


(恋の泉があったら、今の私なら二人を突き落とす自信があるわ)


「どうでしょう。結局最初の失敗からあなたはハリエッタさんにはなりきれず、肝心な所でお人好しな美月さんのままです。嫌味も延々とは言えないで切り上げますし、今は実はシュナイツァー子息一筋のツンデレ令嬢です」


(うう)


シュナイツァー以外は全員お断りしていたのがこんな展開になるなんて…


確かに、生活に一生懸命で意地悪さが足りなかった気はするわ。

私はお茶会にダンス、パーティのお呼ばれをこなす社交に忙しい毎日をくっついてくるキャロレンとこなした。学校も行かず貴族の交流のみで生活なんて暇なんじゃないのかと予想していたけど、人と関わる事で評判と人脈を広げるのが仕事なのね。


それなりに評判を上げておいて下げようと、私はとても頑張った。頑張りまくった。それに比例して声のかかる数もぐんと増えたのよね。

遂に国王への謁見もしたわ。王子からの好感触も「私には婚約者がいますの」で一蹴。

なのに頻繁に呼ばれるの。

あれかしら、「おもしれー女」になっちゃったのかしら。


自室でこのままじゃ砂だわ、と悶々していたら女中がやってきた。


「ハリエッタ様、明日は王宮にお呼ばれしております。その後はグリンド家の交流会に向かい、サンジェル家の弓大会観覧へ。夜は仮面舞踏会もありますので早くお休みください」


どれも断ると後に響くやつ…

そして休みたいわ、病気一つせず突っ走ってきたんだもの…はっ。そうか、そうよ。


「…体調が優れませんの。数日、お約束を全部お断りしておいてくださる?」


この手があったわ。


シュナイツァーに毎日お見舞いに来てくれるように頼んで、キャロレンと話させるわよ。

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