10.難易度が上がるなんて酷いですわ


グリンド伯爵の傍にキリッとした美形の女の子も2人いた。どうやらシュナイツァーのお姉様で双子らしい。今年7歳みたい。

もう既に大人っぽい振る舞いだからこの世界は早熟というのが頷けるわ。

ルックとリーウェという名前で、私はすぐに2人が良い子だって分かったし好きになった。


ルック嬢が巻き髪を結い上げたハキハキ先に話す子で、リーウェ嬢はそれを上手く汲み取ってフォローしてくれるストレートロングの美人さん。

顔と声は同じだけど、性格は違うみたいね。


そうやって観察していると、お兄様がリーウェ嬢に見惚れてるのに気付く。あら、ここにも始まりの出会いが。


グリンド夫妻は私とお兄様に挨拶を済ませると「ほら、一緒に遊びなさい」ともじもじしてるシュナイツァーをルック嬢とリーウェ嬢に任せてそっと遠くから様子を見ていた。

こうしてあまり甘やかさないようにするのね。


ルック嬢が話しかけてくる。


「エメリスとハリエッタって呼んでもいいかしら?」


「もちろん、かまいませんわ。そちらの方が身分も上ですもの」


「そういうのは無しですわよ。つまらない事をおっしゃるのはやめて、お友達になりましょうよ」


こんな気さくに友達になろうなんて言われたのは初めてだった。「もちろん」と嬉しくなって、しばらく自分の家族や家の話をして談笑をした。リーウェ嬢にシュナイツァーはくっついて隠れている。


「シュナイツァー、ほらお友達よ」


まだ2歳だもの、心細いわよね。

私がニコッと笑って「よろしくね」と言ったらシュナイツァーは黙って赤くなった顔を下に向けた。全然動こうともしない。

うーん。

こんな子がキャロレンに一目惚れして私を放置し濡れ衣も着せてくる予定なんて、未来ってわからないものね…


今はこの子を薔薇の側にいるキャロレンの所に引っ張っていくより、キャロレンを連れてきた方が早い気がするわ。


「うちにも妹がいるのよ、呼んでくるからここで待っていてね」


お兄様にちょっとの間を任せて、私は薔薇の花壇へ小走りで向かった。

周りがわいわい話してる最中、ぽつんと1人立っているキャロレンの後ろ姿が見え早速声をかける。


「キャロレン、そんな所で何をしているの?こっちにいらっしゃい、紹介したい方達がいますの」


「おねえさま」


ドレスの色と立場で周りにハブられたみたいね。さすがに思う事があったらしく、ちょっと元気が無かった。フォローはしないわよ、私はそういう事しない役なんだから。


キャロレンを連れて戻り、ぎょっとした表情のルック嬢とリーウェ嬢に紹介をする。

そうよね、義理の妹でこの格好は無いわって誰でも思う。でもキャロレンは持ち前の笑顔と話術でそこそこ和んだ雰囲気を作ってくれた。


シュナイツァーはどうかしら。

目を向けると、私とキャロレンの方をつぶらな瞳でじっと見つめているだけで全然分からなかった。


「シュナイツァー様、よろしくおねがいしますわ」


「…うん」


全然分からないんだけど。

ルーベルンに聞いてみる。


(これって一目惚れしてるのかしら?)


「反応が悪いですね。シナリオ通りだとこの時にシュナイツァー子息はキャロレンさんに夢中となってますが…ん?」


(何よ)


「少し変わってます」


(は?)


「キャロレンさんより美月さん…いえ、ハリエッタさんに初め好意を抱くがキャロレンに心変わりすると変えられてます」


(んぇ?!)


「心変わりさせろ、という事ですね…」


なんで?やる事増えてるじゃない。


でもすぐにダンスの時間が来てしまった。

ここでしっかりしておかないとまた変なノルマ増やされるのかしら?!しっかりやらなきゃ!


各家庭の令嬢が大広間に集まって私とキャロレンも生演奏に合わせて踊りを披露した。招待客の手拍子と声援の中、努力を披露するのは楽しい時間だった。


ルーベルンは終始つまらなさそうな表情でシュナイツァーの隣に立っていたがダンスが終わった時だけは

「よく出来ました」

と初めて優しく笑ってくれた。


頑張りましたよ、せんせーっと私はそちらについ手を振ってしまった。

シュナイツァーはやっぱりじっと見つめてるだけだった。


ノルマは達成したものの、何だかよく分からないままにパーティは終わる。ルーベルンも困っていた。


「おそらく最初の突き飛ばしに失敗したペナルティで婚約者攻略の難易度が上がったんです。女神はいつも見ていますから。あれが円満合格とは言えませんよね、やはり」


(そんなのあり?)


「しばらくこちらからアプローチして、シュナイツァー子息の心を開きましょう」


(簡単だと思ったのに!上げて落とすの疲れるのにー!!)


「簡単な仕事でも最初に失敗したら後に響きます。ゆっくり休んで明日から対策してください」


準備を頑張っても、それは至って当たり前の範疇で、もっと大きな課題はちゃんと準備されていたのね。

私は「うがーっ」とベッドの上で騒いだがルーベルンも今日は注意してこなかった。


♢♢♢


それから数年間はもっと忙しくて大変だった。

不本意ながら、私はシュナイツァーがキャロレンに惚れるまで自分から積極的に関わる超絶変な生活を始めなければいけなくなったんだもの…


パーティが終わった後お父様とお母様に私への縁談が殺到したらしく、相談されたらもちろん。

「シュナイツァー様で!」


両家とも私の強い意志に喜んでくれて、翌年には婚約の宝石も取り交わしたわ。でもシュナイツァーはあちらから誘っては来ないし、全然グレース家には来てくれないの。

私が10歳になってもそれは続いたわ。

嘘でしょ、どれだけ手強いのよシュナイツァーのくせにっ。男なら動きなさいよ!

これじゃキャロレンと関われないじゃない!キャロレンを毎回グリンド家に連れていくわけにもいかないし、困るのよそれじゃ!


お呼ばれのお手紙やお誘いだってもちろん。

「グリンド伯爵家以外には行きませんわ!」


他の人に構ってる余裕なんてないの。

なんとしてでもここから訂正するわよ。

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