9.婚約者との出会い
正午になり、回廊のステンドグラスが溶いた絵の具を誰かが塗ってるように魔法で青と緑から赤と黄色に変わっていく下を私は花束を抱えて歩いた。
パーティ会場である大広間と庭園は大勢の招待客が着飾っていてすごく美しい光景。お父様とお母様は大広間の中心で招待客に囲まれている。
白とグレー基調の正装に身を包んだかっこいいお父様、空色のグラデーションがとっても綺麗で細かいきらきらしたビーズを縫い込まれた美しいドレスに負けないくらいのお母様。
お兄様は私を見つけて人を掻き分けて駆け寄ってくれた。
お兄様はピシッとしたベストとスラックスで正装。まだ4歳なのにモテる要素抜群で、招待客の女児達がチラッ、チラッと見てくる。
私の家族は素敵。誇らしいわ。
「エメリスお兄様、ごきげんよう」
「うん。この花束はどうしたんだい?」
「こっそりお母様へ用意してましたの。お兄様とわたくしからの贈り物にしましょう。もちろんキャロレン…」
「おねえさま、おにいさまっ」
私がキャロレンは仲間外れで、と言おうとした時に何処からか私の白いドレスより遥かに目立つ碧色のドレスに身を包んだ当人が現れた。
そうだった、この子も家族なんだったわ…
明らかにキャロレンのドレスはお母様の空色のドレスと被っていて、あり得ないチョイスだなとお兄様も思ったのだろう。結婚式で白いドレスを着るゲストみたいなものよ。
私達は困って顔を見合わせた。大人が誰も注意しないのにまだ子供の自分達がするわけにいかないもの。
無視するのも不自然なくらい近くまで来たので仕方なく挨拶をする。
「あらごきげんよう、キャロレン。今日の主役はお母様なのに随分と主張の激しい色合いね。」
「おかあさまのむすめです、ってまわりにしってほしかったの。わたくし、きょうはたくさんがんばります」
「一体あなたはこれ以上何をする気ですの?」
つい突っ込むと、人混みから離れて中に浮いてるルーベルンは私の顔を見て、何故か自分の口に手を当てて笑いを堪えていた。
お兄様も同様。
キャロレンはきょとんとしている。
余計な事しない方が好感度は上がるから黙ってて欲しい、と心で追加ツッコミをしながら私はさっさとこの花束も渡した方が良さそうだと判断した。
「お兄様、お母様の所行きましょう」
「あ、おねえさま。おにいさままって」
お兄様の手を引いて私はお父様とお母様の方へ足早に逃げた。
「ご招待ありがとうございます」
「この度はおめでとうございます、グレース子爵夫人にはいつもお世話になっております故…」
「ありがとうございます」
「お母様、お誕生日おめでとう」
「母上、お誕生日おめでとう」
お兄様と私は挨拶の流れをきちんと読んで、暗黙の了解で出来上がってる列に並んでお母様に声をかけた。
「エメリス、ハリエッタ。ありがとう」
「これ、お兄様とわたくしから」
私が光り輝く花束を渡すと、お母様はびっくりした表情になり「すごいわ。ありがとう」と嬉し涙を浮かべて受け取ってくれた。
お父様はそれを見ても微笑んだだけで何も言わなかったわ。言えないわよね、こんなに皆がいる場で「キャロレンは仲間外れかい?」なんて。ふふふ。
仲間外れサプライズに成功した私は、勉強尽くしでお茶会には参加出来ていなかったお兄様に招待客のあれは誰、これは誰と教えて回った。
その流れで沢山の人に挨拶も出来て一石二鳥。
ダンスの時間はまだ先だし、目標のシュナイツァーを見つけるまでは一生懸命追いかけて来てるキャロレンも上手く撒いた。
とりあえず今は放置でいいわ。
なにせ人が多いんだもの。
ルーベルンも探してくれていたようで、私とお兄様が庭園でジュースを飲みながら休憩していると教えてくれた。
「もうすぐこちらに来ます。グリンド夫妻は人見知りのシュナイツァー子息を抱いたまま、どうやら戦争が近いかもしれないという陸軍中佐の話をご両親と聞いていたようです」
(戦争?そんな。何の為に)
「この国はそれなりに豊かだから狙われてるんです。貧困の国は不満が溜まり他国を支配して利益を得たいと思う。人間の感情としては至って自然な事です。築いた苦労も知らず、恵まれてるのを見せられてるならいただいていいものだと考えるすれ違いはよくあります」
(……)
「来ました。キャロレンさんは庭園の薔薇の所にいます」
(また薔薇?)
「お好きなようですね」
ルーベルンの視線の先に、落ち着いた色合いの正装姿であるグリンド伯爵一家がやって来た。グリンド伯爵夫人が抱いてる子は顔立ちは可愛いけどちょっとぽっちゃりしている冴えない感じの金髪の男の子だった。
それなりにイケメンにはなりそうだけど、エメリスお兄様で目が肥えてる私にはそんなに魅力的には映らなかった。
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