8.下準備も大変でしてよ


ダンスパーティに向けてのダンスやマナーレッスンで一緒の時間が多くあの事件から話すようになったキャロレンは、お父様の溺愛をかわし誰よりも私について回るようになった。


これを利用しない手は無い。

上げて落とすを私は毎日じわじわ実行した。


2人きりの時はキャロレンに(お父様にチクられない程度に)淡々と接して、誰かが来たらいきなり優しくなるの。

猫被り二重人格作戦よ。


キャロレンは私の態度が変わるのを「?」という表情で見ているので、この小さな違和感を育てていくわよ。


パーティで婚約者を100%あてがわれるよう相応しい実力を身につけておきたいと、イマイチ上達しないダンスを誰もいない部屋でルーベルンにアドバイスを受けながら日々密かに猛特訓もした。

足が絡みそうになるのは、ちゃんと頭でステップを覚えていないから。動きがぎこちなくてだんだん遅れるのは曲に乗り切れていないから。


でもまだ何か足りないわね。曲が私の身体に馴染まないからじゃないかしら。

曲を知って好きになっておくのも大事と分かり、パーティの為に庭園で優雅に練習をしていたグレース家御用達のピアノや弦楽器演奏する方々とお近づきにもなった。


「このお年でなんという知的好奇心の旺盛な令嬢でしょう。私達の事など音を奏でる置物のように見る方々しかいませんのに」


演奏者達は、ものすごく感激してお父様とお母様は「ハリエッタの成長は全く想像がつかない」とびっくりしていた。

その流れで楽器も少しずつ演奏出来るようになってきたの。私のお気に入りは断然ピアノね。前世で少しだけ習ったのもあって懐かしかったのもある。

今まだ小さい手は忙しくてもどかしい。


キャロレンはそれは羨望の眼差しで見つめていて、お兄様は「僕の妹は最高なんだよ」と女中達に自慢していた。



さすがに3歳の身で色々やりすぎかしらと思ったけど、この世界は平均寿命がせいぜい40歳くらいらしい。なら10歳で人生の4分の1、早熟は歓迎されるのだとルーベルンが教えてくれる。


「今は単独でのダンスですが、身体が大きくなるにつれ男性からの誘いも来ます。今の内に基礎を固めて、誰でもお相手出来るようにしておきましょう。性格が悪かろうと、ダンスとマナーが上品であれば貴族の評価は高い」


「分かりましたわ」


「楽しむのも結構ですが、いずれ悪役で全員敵に回さねばならない事を覚えておいてくださいね」


「…はい」


不器用で仕事も雑用しかしてなかった私も命と人生がかかると色々発揮出来るみたい。

そう調子に乗っていたのを見透かされていた。



♢♢♢


いよいよ明日はお母様の誕生日パーティ。

私はキャロレンに一緒にプレゼントを用意しようと誘われたけど断り、密かに自分ベッドの下に魔法力のみで咲かせる「生命光花ローズティンクル」を育てて花束にしようと準備していた。


断っておいて本番に色々差をつけまくって見せつける、ダンスだってレッスン時は上達していないふり。

うん、嫌な感じ。でも大変。悪役って皆こんなに隠れて色々準備してるものなのかしら?



そんな中、一生懸命ついてくるキャロレンが、私はたまに可愛いく見えてきて困ってもいた。


レッスンは相変わらず進歩無しの彼女にイヤミはよく言ってるの。


「キャロレンは向いてないのね、無理しなくてもよろしくてよ?」


「はい。おねえさまはなんでもできてすごいです!わたくし、おねえさまにあこがれてます」


「あら、そう。血の繋がっていないあなたにそんな事言われても嬉しくありませんわ。生まれ持ったものってありましてよ」


負けじと私がそう言うと、先生や周りにいる女中がさっと顔色を変える。

でも肝心のキャロレンは可愛い返事。


「おねえさまはそんなこというけど、ほんとはやさしいです。ここでおねえさまのいもうとになれましたこと、うれしくおもいます。わたくし、おねえさまみたいにきれいなおかおじゃないけど…なんにもできないけど、いっしょにいたいのです。あこがれてますもの」


………っ

かわいっ!


「キョロレン様…っ!あなたは今のままでの充分なのですよ!まだ幼いんですからっ」


先生や女中達だけじゃない、私もキュンときてしまった。

顔には出さないで「その言葉くらいちゃんと身体も動かしていただきたいですわ」と嫌なお姉さんになってその場を去るのがやっとこさ。


狙った人は逃さないタイプなのね、これは皆やられるわけだわ。さすが女神お気に入りの魂の持ち主。人たらしってこういうのかしら。


婚約者をゲットしたら、あとは私が性格悪い振る舞いをしていけば勝手にシナリオは上手くいきそう。


♢♢♢


お母様のパーティ当日、朝からお昼までは女中達がいそいそと準備をしていた。

私は生命光花ローズティンクルがキラキラした光を放って元気いっぱいなのを確認した後、自室でルーベルンと最後のダンスおさらいをする。


「無いと思いますが、一応お誘いがあった時の為に僕がお相手しましょう」


ルーベルンはずっと少年の姿だったのだけど、フォーマルな姿の成人男性(もちろんイケメン!)に姿を変えて

「ハリエッタ様、僕と踊っていただけますか?」

と心臓を撃ち抜かれるような笑顔で手を差し出してきた。


「はい、是非!」


「そんな肉に喰らいつくみたいな返事と顔はいけません。もっと落ち着いた表情で、穏やかに。緊張した雰囲気で」


「はい…」


「よろしい」


ルーベルンの力で、私と彼にだけ音楽が聞こえる。その中で私は純粋に楽しんで踊る事が出来た。


「ルーベルン、ありがとう」


「これは通過点です。シュナイツァー子息があなたに夢中になり過ぎたら、キャロレンさんがいる場所まで上手く誘導して一目惚れさせてください」


「分かったわ」


私は生命光花ローズティンクルをちょきんと切って、花束にまとめた。まずはこれでキャロレンに「えっ」と思わせる。大事な一手よ。


「ハリエッタ様、お召替えを」


女中がやって来る。後は着替えれば準備OK。

さあ、パーティ会場へ向かうわよ。

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