7.初仕事の成績は


キャロレンの小さな身体が目の前のある状態で、私はその奥に見える薔薇の痛そうな沢山の棘を見た。


このまま顔からあそこに突っ込んだら、確実に痛い…それならまだしも。

打ちどころが悪かったり失明したりしないでしょうね…

前世自分が事故で死んでいるから余計な心配をしてしまう。


ううん、私は悪役を(ある意味)生業なりわいにすると決めたんじゃないの。

ここで躊躇ためらってどうするっ…!


「…えい!」


自分では精一杯力を込めたつもりだったのに、キャロレンは倒れなかった。

やっぱり、こんなの普通は出来ないよ。


キャロレンはビクーッとしてから、くるっと振り返り私の両手と顔を交互に見た。


「わわわ、おねえさま?どうしたのですか」


「え…お、驚いたでしょ。ふふん」


「はい。でもはじめていたずらして、さわってくれました。うれしいです、わたくし」


私はにこにこしてるキャロレンを突き飛ばす事なんてもう出来なくなった。

そうよ、この子は色々ずれてるだけでまだ別に何も悪い事してないじゃない…

自分に言い訳していると、ルーベルンがじーっとキャロレンの頭上から私を見つめていた。



「こんな単純な仕事も出来ないならあなたはもう砂決定ですね」


心底馬鹿にした言い方をしてニコッと笑ってくる。


砂は嫌!…でも、キャロレンが大怪我をするのはもっと…っっでも、嫌、でも…っ!


私は覚悟を決めて、がばあっとキャロレンに思いっきり抱きついた。


「キャロレンかわいい!すきーっ!」


「え?え?きゃーっ」


私が抱きついた勢いで、私達2人は薔薇の花壇に一緒に倒れながら突っ込んだ。もちろん、咄嗟にキャロレンの後ろ頭と顔を自分の腕と肩で守った状態で。



♢♢♢



「ハリエッタにもこんな失敗があるとはな。妹が出来たのを実は喜んでいたなら、もっと他に表現方法はあるだろうに…やっぱりまだ子供なんだなあ。とにかく、今後はこんな事をしてはいけないよ」


「はい。お父様。ごめんなさい」


「もうよろしい。キャロレンに怪我が無くて良かった。ハリエッタ、ちゃんとじっとしてるんだよ」


「はい」


キャロレンは服がちょっと破れたくらいで済み、私は目を閉じてはいたものの棘で頬に深い傷と手の甲もざっくり切れたので、治癒魔法をかけてもらい数日お転婆禁止でじっとするように言われた。


多分これは本来キャロレンが受けるべきだった傷なのだろう。私は平気でこんな傷を負わせようとした、そういうキャラにならなきゃいけないのよね。


突き飛ばし…いや心中…巻き込み事故?は成功して一応私は家族と引き離され、療養隔離はされたのよね。夜泣きも出来るようにはなったし、ある意味性格に影響するトラウマイベントではある。


ルーベルンは怒るべきか呆れるべきか悩んでるようだった。


「なんでしょうね…この中途半端なモヤッとする感じは。合ってるけど違うというか」


そう言って唸っていた。


結局怒られなかったからクリアになったみたい。ヒヤヒヤした、良かったぁ…


この後の展開としては、

家族があまり来ない中、キャロレンだけはよく来て許してくれ和解をし2人でよく話すのでしばらく懐かれる予定だった。


許すも何も私の方が大怪我だったしキャロレンは私が一緒に遊びたいのだと思ったようで、

「おねえさま、おねえさま」

と即日懐いてくれたわ。


夜中に1人で夢にうなされたふりをして

「いたいーこわーい、さみしいーーーー」

と泣いたら女中が飛んできてくれた。

その後になぜかキャロレンがついてきていて、

「かわいそうなおねえさま。わたくしがいっしょにねてさしあげます」

とまで言ってくれる。遠慮したけど。


夜泣きも連日キャロレンがやってきて、本当に泊まりそうな勢いだったのでルーベルンに「もうやらない方が良いんじゃないかな」と相談して終わる事にした。


ルーベルンは

「一緒に寝るなんて予定はありませんからシナリオがズレないようにやめましょう。一度仲良くなってもここから険悪になれば問題ないです。上げて落とせばいいんです」

そうアドバイスをくれた。



そして今後の予定。

数日後に行われる母親の誕生日パーティで、私は将来の婚約者、グリンド家のシュナイツァー子息に初めて会うそうだ。

シュナイツァー子息は実はキャロレンを最初から気に入っていて、でも素性がはっきりしないから仕方なく私と婚約しているパターン。

婚約は10年後だけど、それまでここグレース家にキャロレン目当てでよく私に会いに来るそうだ。肝心の婚約者よりキャロレンばかり見て、ほったらかしだから、私は怒るわけね。

婚約1年後にキャロレンとシュナイツァーはキスまでしてそれを私が目撃するシナリオらしい。


王道ね。

好きな人と関わる為に私は都合よく利用される。なんでキャロレンなのよ、と一気に性格悪く出来るチャーンス。


「次はもっと上手くやってください。シナリオノルマ成績表に響きますよ」


ルーベルンが内側に巻きぐせのついた小さな洋紙を掌に浮かべて眺めながらぼやく。一応自室だけど、誰かに聞かれたらまずいので心の中で聞いた。


(成績表なんてあるのね、仕事っぽい。私の成績は今どのくらい?)


「Dランクですね」


(ランク式なんだ…)


「Eランクが失敗判定ラインです。無事突き飛ばしていればBになってる予定でした、初回は女神も判定が甘いので。次の婚約者シナリオの判定は厳しくなるので今回みたいな手は通用しません。Aランクでクリアしたら次は好きな転生先を選べます。頑張ってください」


(好きな?!が…頑張ります!)


そうよ、何百年も砂になるくらいなら、10数年なんて大した事ない。

頑張って非情にならなくっちゃ!

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