6.義理の妹キャロレン
キャロレン=アル=グレース
ある日お父様が拾ってきた、私の義理の妹はそう名付けられたの。
いくらグレース家が裕福で子供はいくらいても良い!考えだとしても、拾われて即日に名前を付けられて養子に迎えられ、部屋まで与えられてる辺りがいかにも『特別な存在』。
お父様はかぐや姫を見つけた芝刈りへ行ったおじいさんの如く。
「この子の目の輝きに惹かれたんだ。私が見つけなければ野生の狼に何をされていたか」
お父様にそう言われたら、可哀想ねえと思うしかない。
お母様は男の子ならともかく女の子を増やしてどうするのかしら?そうもっともな事を私の手を繋ぎながらつぶやいていた。
お父様には誰も逆らえないけれど、お母様はキャロレンのお世話をあまり積極的にしたがらなかったわ。
自分が大変な思いをして生んだ、容姿も瓜二つの私の方が可愛いのは当然よね。
お兄様も、ぱっと出てきた正体不明なのにお父様がよしよししてるキャロレンを気味悪がっていた。
お父様は何かに取り憑かれたように私とお兄様よりキャロレンを可愛がりだしたもの。
明らかに不自然過ぎるのよね。
まさか、キャロレンは愛されルートにならないのかしら?私は数日間余計な心配をして、ターゲットを偵察がてら接近してみた。
もちろんルーべルンもついてくる。
私と負けないくらいに綺麗なドレスに身を包み、庭園の薔薇を見つめてるキャロレンは多分2、3歳。
27歳プラスこの世界で3年生きてて神童扱いされている私が言う。
この子も、同類な気がした。
こちらを見てニコッと笑いぎこちなく会釈。
「キャロレンね」
「はい。はじめまして、おねえさま」
「はじめてなのにお姉様だなんて、おかしな気分ですわ」
「おとうさまにおしえていただきましたの。これからがんばります」
こんな余裕と落ち着きが拾われてきて数日の子供にあるかしら。それに図々しいわ、もうここが私の家なのという態度。
「あなたは数日前にここに来ただけでしょう?」
そう言ってやりたかったけれど…さすがに2〜3歳の女の子のやり取りでは無いわね。
私はキャロレンの後ろに浮いた状態でふるふると首を振っているルーべルンを見てやっぱり初対面の今はダメ、と判断した。
薔薇の花壇に突き飛ばすのはもう少しこの子が目に余るようになったらだわと踏みとどまった。
(女神に選ばれた魂の持ち主もこっちみたいに前世の記憶があるのかしら?)
自分の部屋に戻ってからルーベルンに聞いてみる。
「無いと思います。順応性の高さと人を使う事に長けている能力は異常に割り振られているようですがね」
(ルーベルン、そういう数値見れるのね。私のはどんな感じ?)
「項目は多過ぎて言いたくありません。全て高いです。ただし、運だけはほぼ皆無。女神が操作したんでしょうね、こちらもあちらも」
女神って自由で楽しそうね。
そんなに怒らせたらめんどくさいのかしら。
今も遠くからニヤニヤ見てるのかしら。
お母様の誕生日に優雅なパーティが予定され、私と一緒にキャロレンもダンスレッスンに参加する事となった。
キャロレンは上手く踊れなかったのに、その拙さが可愛らしいといつもクールなダンスの先生はめろめろ。
「そんなあ。ちゃんとがんばりますっ。だってわたくしはここでなんのおやくにもたててないんですもの」
「なんて健気なの。家族の行方も分からないのに悲しまずしっかり前を向いてるなんて…」
キャロレンと先生のやりとりは茶番という名前がぴったり。そうなのよね、キャロレンはまだ小さいからって事で済ませてるみたいだけれど、あれだけの口をきけるのに自分の家族の事を全く話さない。
きっと悲しい過去なのよと周りが聞かない中、私は分かっていた。
女神が用意した魂の身体だもの。
最初からあの子は1人である日お父様が廃墟を通る寸前にぱっと出てきたんだわ。
♢♢♢
キャロレンは口先は謙虚だけれど、おかしな言動の多い子だった。
「おねえさま、わたくしおねえさまのきれいなおかおがうらやましいわ。だけど、おとうさまはわたしのかおがだいすきっていってくださるの。みて、おねえさまのかみかざりをじっとみてたら、おとうさまがくれたの。きっとにあうって。わたくしはしあわせなのね」
私と同じ髪飾りは庶民が一生暮らせるんじゃないかな?という値段のもの。価値を知ってか知らずか、キャロレンはわざわざ私の前でそれを付けてくるんと回って見せた。
大体いつもそんな事ばかりしてる。
グレース家に馴染もうと必死なんだろうとお父様やすっかり彼女に魅了された女中はにこにこ見守ってる。
明らかに変なのに、それが当たり前みたいにまかり通ってる。これがあの子の力なのね。
キャロレンを避けていたお兄様を
「なかよくしたいんです、わたくしはおにいさまをもうすきです」
と謎の告白をして一生懸命追っかけしたり、私が同席しているお母様のお茶会に行きたがったり。
「身も心も上品にならないとお茶会へのお誘いは受けられませんわよ。淑女は自分から行きたいなんて言いませんわ、誘われるのを待つのです。殿方への態度も一緒ですわよ」
私が嗜めると
「はい、ごめんなさいおねえさま」
素直に聞いてくれた。
でも結局お父様に何か愚痴ったみたいで
「キャロレンはおまえと違って可哀想な境遇の頑張り屋さんだ。ひどい事を言うでない」
私は意地悪なお姉さん扱いをされた。なかなかにイラッとするわね、これは。
その日、私の表情を見たルーベルンから明日にでも是非突き飛ばしをやってみようという話が出た。
成功したらしばらく隔離されちゃうのだけど、キャロレンといるのも疲れてきたのでちょっぴり嬉しかったりもする。
翌日は晴天。
薔薇の花と棘がたっぷりある花壇はキャロレンのお気に入りらしい。しっかりあの髪飾りをつけて、鼻歌を歌っている。
誰もいないのを確認してから、私は足音を立てないようにして一回で成功させるわよ、とキャロレンの背後に近付いた。
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