5.実力伴ってこその令嬢ですもの
ハリエッタ=ミレ=グレース
それが私とわたくしの名前。
グレース家の長女で年子のお兄様がひとり。
ミレはもう亡くなったという美しい肖像画が遺されたおばあさまからいただいたミドルネーム。ハリエッタはお父様の親友である子爵様からいただいたもの。伝統のある家系は人から名前もいただくものなのね。
グレース家はお城ではなくお屋敷住まいなのだけど、私の他に子供が10人増えても余裕で走り回れるんじゃないかしら?って広間と女中達がいる。
細やかに光を放つシャンデリア。
魔法で毎正時に色が一斉に変わるステンドグラスに覆われた回廊の天井。
公爵家の紋章である対になった鳥の模様が編み込まれた、柔らかくていつもふかふかな廊下の絨毯。
グレース家の建物を設計した人はとってもセンスが良いのね。お茶会の部屋なんてそこでずっとのんびりしていたいくらいに素敵な緑基調な色合いの椅子とテーブルのセット。
お母様は毎日ここに来るお客様を優雅に出迎えて、2歳とは思えない程に淑やかで落ち着いた私を同席させて色々教えてくれた。
おかげで沢山の人の顔と名前を覚えたわ。とりわけよく来るグリンド伯爵ご夫妻は「いつか我が家の息子とこの素晴らしいハリエッタ嬢と縁談を考えたいものです」と話が弾んでいたのも見ていたのでピクンとしてしまった。
2歳児のそんな細かい部分を大人は気にしてないだろうけど、一応ごまかす。
私はまだ小さな手でフルーツジュースの入った可愛らしいガラス細工を施されたカップを持ち飲む仕草をしながら天井を見上げる。
例によって天井に逆さまに腰掛けている状態のルーベルンに心の声で確認した。
(グリンド伯爵の子息は、私の婚約者になるのよね)
「はい。シュナイツァー=リレ=グリンド。もうすぐ1歳を迎えるあなたの将来の婚約者です。身分はあちらの方が上なのに縁談が来るのは、親同士仲が良いというのも大きいのでしょう。政略結婚するなら信用出来て有益な家系が一番です」
公爵家より伯爵家の方が偉いのよね。
でもグリンドご夫妻は偉そうな所が無く、お父様もお母様もとっても楽しそう。
きっとシュナイツァーさん?くん?も良い人なのね。
♢♢♢
「
目標の木で出来た人形を凍らせた後、すぐ稲妻を読んで電撃を走らせると伝導力が上がり氷がぱちぱちと破裂するようになってキラキラと光る。
3歳の誕生日を迎える頃には滑舌も良くなって、魔法を唱えるのもお安い御用になった。魔法を覚えて上手になる為、私はこのお気に入りの魔法を毎日練習し来客が来る度に披露した。
「3歳でここまでの完成度とは!ハリエッタ様は天才だ」
「この素晴らしい血筋は我が家にも是非欲しいですなぁ」
そうもてはやされた。
お父様とお母様には女性がこういった攻撃的な魔法を使うのは控えるように、と言われたのだけど生意気な令嬢は反論するもの。
これもシナリオのフラグ立て準備、準備。
「わたくし、誰も傷つくような事はいたしませんわ。皆様を歓迎しているのです。わたくし何回も魔法を使っていますけど、どなたかお怪我やご不快な想いをしてらして?」
「この子、本当に3歳なのかしら」
「ふーむ…ハリエッタは賢い。母親の口調を真似してるんだろう。天才の女の子というのは成長が速いものなのだな」
「ならもう大人と同様に接しないと、逆に失礼ね。ハリエッタ、あなたは恵まれた才能があるみたい。お父様とお母様も張り切ってお付き合いするわよ」
ちょうどエメリスお兄様は厳しい跡取りとしての教育を受け始めていたので、
「ハリエッタが一緒なら嬉しいな」
と喜んでくれた。おっかない家庭教師と2人きりなのは私もイヤ!てよく分かるもの。
エメリスお兄様より早く正解しないよう気を遣ったり、ルーベルンが退屈して眼鏡をかけた家庭教師に私と彼しか見えない顔の落書きをしたり色々あったけれど、おかげで本心じゃない演技もかなり上達。
お兄様がある日どうしても勉強したくないと泣いて家庭教師が「しつけです!」と手をべちんとしようとした時も。
最高の笑顔で家庭教師の手を氷漬け。
「先生、またお兄様の手を叩いてごらんなさい。次はあなたの心の臓が凍てつく事になりましてよ。わたくしとあなたの言う事、お父様とお母様はどちらを信用するかお分かりですわね?」
家庭教師は怖がって辞めてしまい、お兄様は私を大好きになった。新しい家庭教師はのんびりとした優しい人で、お兄様と私は楽しく勉強を出来たの。
理解力と恵まれた魔法力を見込まれて、私は口先は生意気だけど一目置かれる令嬢として育ち。
ついにある日、私のシナリオクリアの要となる女の子をお父様が仮の帰りに通りかかった廃墟で見つけたと連れ帰ってきた。
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