第53話 悠貴
あの事件の後、僕は少しづつだけど変わり始めた。
それこそ、まるで呪縛から解き放たれたように。
それは、まるで関心なかった他人との関係にも影響を与え、本当に少しづつだけど他者との在り方について考えれるようになっていた。
それこそ表面上だけの付き合いを止める切欠として、進学先を思い切って外部進学にしてみた。
後輩として僕が来ることを楽しみにしていた姉さんにはしょげられたけど、僕の気持ちを正直に伝えたら最後は応援してくれた。
やっぱり姉さんは僕にはとことん甘い。
柚菜とはあの事件以来、ほとんど話すことは無くなった。
一応庇ってくれたので感謝の意味でお見舞いに行こうとしたが姉さんには止められた。
結局のところ柚菜に対する気持ちは戻ることはなかったけど、あの僕を助ける寸前に見せた微笑みだが何故か頭から離れずにいて……。
その思いを振り払うようにユノとしてひとつの曲を作り上げた。
でも、それは僕の柚菜に対する気持ちのように、公表することなく埋没していった。
そうしてその後は平穏な学校生活を過ごし、たまに小鷹さん達とダブルデートしたりとちょっとしたイベント事を経験しながら卒業式を迎えるに至った。
そして卒業式当日、何故か僕以上に気合の入ったビシッとスーツ姿の姉さんといつものように朝食を済ませる。
いつもは無造作な髪型も姉さんの手でビシッとキメられ。卒業式なのになんだか高校デビューの雰囲気だ。
実際登校して教室に入ると、この一年で親しくなったクラスメイトからイジられる。
僕は外部進学を決めたのでもう一緒に学ぶ機会が無いのだと思うと、少しだけポッカリと穴が空いたような気持ちになる。
どうやら僕はクラスメイトと別れることが寂しいようだ。
その後はつつが無く卒業式を迎え、クラスメイトの女子からまさかの告白されるというサプライズもあり、入学したときは予想しなかった最後の学園生活になった。
家に帰ると、スーツ姿の姉さんが少し不機嫌そうに僕を出迎える。
話を聞くと、どうやら僕が告白された現場を見てしまったらしい。
勿論、告白は断ったのだけれど、珍しく嫉妬を隠しきれない姉さんが少し新鮮で可愛らしい。
思わず抱きしめて撫でてあげると、途端に機嫌が良くなる。
機嫌が戻った姉さんが僕を食卓に座らせる。
並べられた出前の寿司や、ピザなど選り取り見取りで隣に座った姉さんが僕に食べさせようとしてくる。
自分で食べるからと言っても聞かない姉さんにア~ンされながら好きなものを好きなだけ食べる。
残りは夕食に回すことにし、リビングでまったりと卒業した感慨にふけっていると、突然後ろから抱きしめられる。
「卒業おめでとう悠貴」
ふわりと香る甘い匂い、いつもの姉さんとは違う義母さんがよく付けていた香水。
いつも、この香りを気分が悪くなって前後不覚に陥ることもあったけど、最近は大丈夫になってきた。
でも、やっぱりこの香りは僕を惑わせる。
母さんと対峙した時とは違う、ドス黒い欲情ではなく、ただ純粋に姉さんを欲する気持ちが湧き上がる。
「姉さん、ありがとう」
そう言って振り返りると自然と瞳が重なる。
お互い自然と顔を近づけキスを交わす。
求め合う気持ちが更に高まり、キスにも熱がこもる。
優しいだけのキスは、いつの間にか欲望をさらけ出す貪欲なものに変わり、お互いをより取り込もうとする。
僕も姉さんも、求め続けるあまり呼吸が疎かになり、苦しくなって思わず唇を離す。
姉さんの蕩けたような表情に気持ちが最高潮に達する。
「悠貴。部屋に行こっか」
どうやら姉さんも気持ちは同じようで、最近は一緒に寝ている寝室へと誘ってくれた。
部屋に入ると何度もキスを交わし、お互いに触れ合い自然とベッドへと雪崩込む。
初めて触れ合う筈の姉さんの肌は滑らかで、でも不思議と手に馴染むというか、感触を知っているかのように僕は姉さんの感度を高めることが出来ていた。
姉さんも僕を知り尽くしてるかのように、僕の高ぶる所を的確について来て、頭が姉さんで一杯になる。
そして、お互いに触れ合うだけで際限無く高まる気持ちを確認し合う。
「姉さん。愛してる」
「うん、うん、私も……私も悠貴を愛してる」
お互いに改めて気持ちを確認し合い、僕と姉さんは深く口付けを交わした後、ようやくひとつになれた。
その後、僕と姉さんはタガが外れたのか、ひたすらに求め合い続け気付けば翌日になっていた。
お互いにもう色々と不味い姿の中で、一線を超えた歓びは持続し、その後の一週間は本当にただのケダモノに成り果てていた気がする。
一応、小鷹さんにも報告したら、ようやくですかと呆れられた。
少し上目線にイラッとしたけど、それすら昔の僕からすれば感じ得ない感情だったと思う。
それからは、完全に心と体も結ばれた姉さんと僕は周囲もドンビクほどのバッカップルぶりを発揮し、大学は違うけど順調に交際を続けた。
ただ充実した大学生活と反比例するように、姉さんと結ばれて以降はユノとして思うように曲が書けなくなり、自然と音楽活動は自粛することになった。
そうして時間は流れて行き、僕より一足先に社会人になった後の姉さんは、毎日を忙しそうにしている。でもイチャイチャは欠かすことなく日々を過ごし、気付けば僕も就職も決まり卒業を迎えるだけになった。
その頃には姉さんが実の父である茂雄さんとも話をつけて、僕の卒業と共に結婚する約束まで済ませてしまった。
僕としては異論はないけど心配なこともある。
結婚するということはいずれ僕も親になるという事で、一度壊れた僕がマトモな親になれるかどうかという不安。
そんな不安を、僕は姉さんにも伝えた。
返ってきた答えは。
「もし、子供が生まれたって一人で育てるわけじゃないんだよ。きっと私と悠貴の子供なら可愛いからまずは、目一杯一緒に愛してあげれば良いだけだよ」
そう言って笑うとそっと自分のお腹に手を当てた。
姉さんの言葉が全ての不安を払拭したわけではないけど、姉さんと一緒ならこれから先も大丈夫だと思わせてくれた。
だから僕のやることはこれからも同じだ。
先の分からない未来を不安がるより、誰よりも大切で愛してる人を信じていけば良いだけだ。
そう姉さんを、僕の妻になる美月を。
――――――――――――――――――
新作開始しました。
読んで頂けると嬉しいです
異世界恋愛ファンタジーです。
タイトル
『貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。』
https://kakuyomu.jp/works/16817139557602664666
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます