第47話 コンタクト


 最近日課になっているカフェ通い。

 ここは悠貴が家の帰り道にあり、通りが見える場所に陣取ればだいたい悠貴の姿を見ることが出来る。

 同じ学校の生徒達も利用する事が多くカムフラージュにもなる為悠貴にも気づかれ難い。


 そうして今日も悠貴が無事に帰る姿を見送った後、席を立とうとして声を掛けられた。


「久しぶりね、柚菜ちゃん」


 声を掛けられた方に振り返ると、白い服を着た女の人。

 その顔を見て絶句する。


「なっ」


 そこには居ないはずの人。

 居てはいけない人。


 悠貴の本当の母親である『愛華アイカ』さんがそこに居た。


「もしかして、久しぶりすぎて忘れちゃったかしら?」


 そう言って、愛華さんは、昔見た印象のままに綺麗な笑顔で微笑む。

 それは女の私ですら艶を感じさせる正に魔性を秘めた美貌。

 そんな綺麗な人のはずなのに、ちょうど差し込んだ夕日が白い服を朱色に染め上げ、その姿が昔悠貴と話した、都市伝説に出てくる赤い服を着た女を想起させた。


「あっ、いえ……」


 驚きのあまり思考停止に陥ってしまったけど、直ぐに私はこの人が何をしたのか思い出しスマホを取り出そうとする。


「連絡はしない方が良いわよ、ユウちゃんの平穏の為にもね。騒ぎになったら色々大変でしょう」


 しかし、私の行動を読んだのか愛華さんが釘を刺してくる。

 すこしづつ冷静さを取り戻しながら、愛華さんの言葉の意味を考える。


 愛華さんの言う通りここで騒ぎ立てれば、悠貴にあの事件を思い出させてしまうかもしれない。

 しかも、ここには同じ学校の生徒もちらほら居る。そうなると愛華さんの言動次第では最悪周りにも噂が広がる可能性だってありえる。

 悠貴の幸せが第一である私にとって、それは避けたい事である。


 私は愛華さんの言葉を承服する意味で頷く。


「ふっふ、柚菜ちゃんはいい子ね。ユウちゃんのことをちゃんと考えてくれている」


 そう言って愛華さんは微笑みを浮かべる。

 しかしその目は何かを見透かすような冷たさすら感じさせる眼差しだった。


「……それで私に何のようでしょうか?」


「うん、ユウちゃんのことで確認したいことがあって、ここでは何だし場所変えましょうか」


 愛華さんはそう言って近くの駐車場に待たせてあった車へと向かう。

 私は付いていくか迷ったが、悠貴の為にもこの人が何を考えてここに現れたのかを知る必要があると考えて付いていく事にした。


 車に乗ると冴えない感じの男がハンドルを握っていた。しかし付いた先は高級そうなマンション。


 案内されるまま部屋に向かうと、中も高そうなインテリアが並ぶ、とても犯罪者が住めるような部屋では無かった。


 愛華さんは広いソファに座ると、部屋まで付いてきたドライバーの男に微笑む。


「ありがとう。ご褒美はあとでね、車で待ってなさい」


 そう声を掛けられたドライバーの男は、無表情だった顔を破顔させ無邪気な子供のように目を輝かせながら部屋から出ていった。


「ふぅ、本当に馬鹿よね男って、柚菜ちゃんもそう思わない? あっ、もちろんユウちゃんは別だけどね」


 愛華さんがまるで私を同類のように話しかける。


 私としてはバカというよりはケダモノという認識なのだけれど、それを説明することに意味を感じられなかったので黙っておく。

 そんなことより、この人の意図を確認するのが先決だから率直に尋ねた。

 

「それで、改めて話ってなんですか?」


「そんなの決まってるじゃないユウちゃんのことよ」


 悠貴をユウちゃんと呼ぶ愛華さんは目をキラキラさせ、まるで恋する乙女のようだった。

 

 それから悠貴の事を事細かに尋ねられた。

 私は答えるか迷ったが、愛華さんが何を考えているか知るためにもあえて話をして様子を見ることにした。


 ひと通り最近のことまで聞き終えた愛華さんは満足げに頷いた。


「そっかー、柚菜ちゃん今でもユウちゃんと親しくしてくれてるんだね」


 その言葉に一瞬胸が詰まる。

 流石に愛華さんには悠貴と私が別れた話まではしていない。

 だから勘違いしてもおかしくないし、悠貴が私のことを、もうなんとも思ってないことも知りようが無い。

 だけど、そんな現状だからこそ私は変わらない思いを口にする。


「私は今でも悠貴が一番大切な存在です」


「そう……ふっふ、私と同じね」


 愛華さんは笑いながら、その瞳はここにはいない誰かを見詰めていた。

 それこそ、いままでとは全く違う慈愛に満ちた優しい眼差しで。


 だからこそ疑問に感じた。

 なんでここまで悠貴を思っている人があんなことをしでかしたのか、どうしてあんな事をしておいてここに居られるのかを。


 私はそのままの疑問を愛華さんにぶつけた。


 返ってきた答えは。


「そうね柚菜ちゃんにはちゃんと話をしておいたほうが良さそうねユウちゃんの為にも。でも長くなるし、時間も遅いし今日は帰りなさい」


 思わぬ帰宅指示に戸惑う。

 愛華さんの話とは別に、どうやってこの場所から逃げ出すかも考えていたから拍子抜けだった。


「明日にでもいらっしゃい、土曜日で学校も休みでしょう。柚菜ちゃんの疑問にもちゃんと答えてあげるから」

 

 そう促され私は帰らされた。


 帰りはまたあの冴えないドライバーの男にカフェまで送ってもらい。明日もその人が車で、同じ場所に迎えに来てくれる手筈になった。

 無事家に着くと安心して、一瞬警察に連絡しようとも思った。

 でも「悠貴の為にも」と言っていた話が気になり、話を聞いてからでもいいだろうと結論を出し、明日改めて話を聞きに行くことに決めた。



 翌日、指定された時刻にカフェに行くと昨日の車が駐車場に止まっていた。

 愛華さんは乗っていなかったが、私は特に気にすることなく車に乗り込むと愛華さんの元へと向かった。




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新作開始しました。


読んで頂けると嬉しいです


異世界恋愛ファンタジーです。


タイトル

『貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557602664666


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