第46話 遭遇


 今日は久しぶりの先輩とのデート(仮)だ。


 正直、いまさら彼女のフリをし続ける事に必要性があるのかと言えば疑問だけど。


 でも、助かってる面はある。


 お兄ちゃんと心身共に結ばれた私は地味な格好を止めて、お兄ちゃんの希望に合わせた格好に変えた。


 今はギャルっぽい装い、ただしギャル語にはまだ慣れない。まあ、お兄ちゃんが求めてるのはギャルっぽい姿なので問題はないけど。


 そんな私の急変に当然周りは驚いたけど「カレピ」の趣味だからと誤魔化して、早速先輩を利用させてもらった。


 もちろん私だけが得をするのは私の信条に反するので、先輩にも利点はある……はずだ。

 実際あの女が先輩に絡むことが少くなったと思うし、最近は面倒臭がらずに私を受け入れてくれている。


 でも、何よりの利点はお互いの本当に好きな相手の事を気兼ねなく話せるという事が一番大きい。


 そう、私だって分かってる。

 お兄ちゃんとの関係は世間的には認められないと言うことに。

 でも、やっぱり年頃の恋してる乙女としては惚気ける相手が欲しいのだ。


 そうなってくると私の周りには先輩以外有り得ない。

 同じような立場の先輩なら秘密を共有できるし、お兄ちゃんとのラブリーな日常を語っても引かれることはない。


 もちろん、私も先輩とお姉さんのことを色々聞かせてもらって、相談にも乗っている。


 あちらの二人は奥手なようで、まだそういう関係には至っていないようだけど、着実に姉弟を超えた絆が結ばれつつあるのは話から感じ取れ、いずれは……まあ時間の問題だろう。



 というわけで、今では私の惚気話と先輩の進捗を確認するための時間をデートと称して会って話をしている。

 そのことはお兄ちゃんも知っているし、先輩のお姉さんも知っている事なので問題はない。


 そして話をするのはいつもの喫茶店。


 先輩を学校で捕まえて連れて行くいつもの流れ、去り際に先輩の元カノを流し見るのも忘れない。


 あの女は狂気を含んでいる。

 大人しくみえても何をしてくるか分からないから警戒は怠らない。


 でも、最近は本当に大人しい。

 私と先輩を見る目も慈愛に満ちた笑みを浮かべて見てくるという、ある意味で恐怖だ。


 そんな元カノの温かい目を振り払いつつ、先輩と喫茶店に言って話をする。


 先輩も会ったときは変わって、全然興味を持たなかった私の話にもちゃんと耳を傾け話を聞いてくれるようになった。

 自分とお姉さんのことも私に話してくれて、本当にお姉さんのことが好きなんだなという事が分かる。

 そのおかげなのか、先輩の冷めきっていた感情に少しだけ温かさが生まれた気もした。


 そんな感じで話していると気付けば夕暮れ時。


 会計を済ませ帰路に着く道すがら、それは居た。


 纏わりつくような視線。

 異質な感覚に私の肌が逆立つ。

 私がその視線だけで恐怖を感じた。

 それは、狂気的な先輩の元カノなんかと比較にならないおぞましさ。


 この私でさえ下手をすれば殺られると錯覚させられるほどのプレッシャー。


 そんなものを、側にいるだけの私でも感じ取れる異様な視線を、その矛先である先輩は全く気にする素振りも無い。


 私は恐る恐る視線を這わせ、相手に気取られないように確認する。


 それは白い服の女で、ぱっと見だけでも綺麗な人だと頭に印象付けられた。


 幸いなことにそれは、こちらを追いかけてくることなく、ただ視線だけを私達が見えなくなるま送り続けてきた。


 視線から開放され、ようやく死地から脱した気分の私は、直ぐに先輩に確認する。


 でも、先輩はやっぱり気付いていなかったようで逆に心配されてしまった。


 それでも心配だったので先輩を家まで送ると提案したがやんわりと断られ、腑に落ちないまま先輩と別れ家に着く。


 その間にあの視線を感じることは無かった。

 当然と言えば当然で、あれが見ていたのは先輩だけだったから。


 胸騒ぎが収まらない私は直ぐに先輩に無事に着いたかの確認を取る。


 最近は直ぐに返信してくれるようになったおかげで「家にいるよ」とひとまず安心な返信が来る。


 それでも、不安感が拭えない私は、少し前に紹介してもらった先輩のお姉さんにメッセージを送った。


『今日、白い服を着た綺麗な女性が先輩を見ていました怖いくらいに、心当たりありますか?』


 知り合ったばかりの私から、唐突にこんなメッセージを送られても相手にされないかもしれない。

 でも、本人が危機感を覚えていない以上、頼れるのは身近な先輩のお姉さんしかいないから。


 そんな思いが通じたのか、直ぐに先輩のお姉さん……美月さんから返信が届く。


『教えてくれてありがとう真純ちゃん。それで、もっと詳しい状況を教えてくれないかな?』


 私はすぐにその時の状況を私の主観も含めて伝える。少しでもあの恐怖を理解してもらえるように。


 美月さんからは、また直ぐに返信が来て、凄く感謝された。気付くのが遅かったら大変な事になっていたかもしれないと。

 ひとまず後のことは美月さんの方で対応するということでやり取りを終えた。


 それにしても、あれは本当に何だったんだろう。

 思い返してみても鳥肌が立つ。

 あれは……確かに存在していて、だからこそこちらに直接干渉してくる可能性がある……本当に質が悪い。

 あれならまだ、怖がらせるだけの幽霊の方がマシだ。


 そんな事を思いつつ、その日は怖くてお風呂と寝るときはお兄ちゃんにいてもらった。





――――――――――――――――――


新作開始しました。


読んで頂けると嬉しいです


異世界恋愛ファンタジーです。


タイトル

『貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557602664666



 

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