第45話 ある女の話
私には好きな人がいた。
幼馴染で、名前は
線が細く先天的に色素が薄く病弱だった。
だから私が彼を守っていた。
ずっと幼い頃から結婚できる歳を迎えるまでずっと……。
そうしてやっと結婚できる年齢まで到達し、ようやく幸せになれると思っていた矢先に、彼は呆気なく死んだ。
元々病弱だったので健康にはうんと気をつけていた。なのに、そんな苦労をあざ笑うかのような交通事故。
アクセルとブレーキを踏み間違えた老人が引き起こした災害。まさに老○だ。
失意の中残された私は後を追おうと考えた。
でも、絶望しかない私の中に希望が一つだけ残されていた。
彼との間の子が私に宿ってくれていたのだ。
もちろん私は考えるまでもなく産む決心をした。
でも、両親ばかりか、悠璃の親にまで反対された。
表面上は私の未来のためなどと言っていたが、面倒になることを予想して反対していたのだろう。
彼が残してくれた最後の希望なのに、それを祝福出来ないなんて信じられない人達だった。
だから私は一人で産んで育てることにした。
でも、世間はそんなに甘くなかった。
高校を卒業したての身重の女が、誰の助力もなく生きていくには厳しかった。
そんな中で幸運にも救いの手が私に差し伸べられた。
彼とは悠璃の事件が切っ掛けで知り合った。
おそらく私に同情し、それを恋や愛だと勘違いしたのだろう。
ただ、彼の私への想いはどうあれ、渡りに船なのは間違い無く、私はお腹の子の為に彼の手を取った。
そうして彼の手助けもあり、私は無事悠璃の子を産むことが出来た。
そんな中で生まれてきてくれた我が子は本当に愛らしく、まるで悠璃が生まれ変わって来てくれたようだった。
だから名前も悠璃にしたかった。でも彼が難色を示し、変わりに悠璃と彼の名前から一文字づつ取って悠貴と名付けた。
最初は少し不満だったけど、呼掛けるうちに私の中に大切な名前として刻み込まれ、世界中の何より愛おしい存在となるのに時間は掛からなかった。
そうして私と悠貴は、誰よりも強い絆で結ばれた母子として幸せな時間を過ごして行くことになる。
幸いなことに、彼も自分の血を分けた実の息子ではないにも関わらず大切にしてくれたのは、私的に好評価だった。
それから私の宝物で何より大切な悠貴はすくすくと成長していき、小学生になる頃には、本当に悠璃と瓜二つになっていった。
だから私は確信した。
悠貴は残された希望だったんだと。
私の判断は間違ってなかったんだと。
悠貴は悠璃の生まれ変わりなんだと。
それに気付いてからの私はますます悠貴を愛した。
それこそ、ありとあらゆる形で……。
母親としては勿論。女としても悠貴に愛情を注ぎ込んだ。
しかし、悲劇は突然襲ってきた。
全ての愛情を悠貴に注ぎ込んでいた私を、あろうこうとか彼は裏切った。
私と悠貴の関係を知ると、彼は悠貴に対する私の愛情を歪だと言い、虐待だと糾弾した。
そして、あろうことか私から悠貴を取り上げた。
弁護士まで用意し、離婚どころか悠貴に近づくことすら禁止された。
私は理不尽な扱いに対して、いかに悠貴を愛しているかを訴えた。しかし誰も私の声に耳を傾けてはくれなかった。
そうして私は表面上、不貞行為を理由に引き離され追い出された。
愛する悠貴の元から。
確かに夫婦という立場からすれば、私が彼より悠貴を心身共に愛していたのは不貞に当たるのかもしれない。でも、私と悠貴は母子でもある。
親が子供を愛して何が悪い。
そもそも彼もそれを前提で私と結婚したはずなのに……きっと嫉妬からくる嫌がらせだ。
それで私達母子を引き離すという最悪の悪行に出たのだろう。
そうなると彼は……あの男はもう敵だ。
だから私は誓った。
必ずあの男から悠貴をこの手に取り戻すと。
――――――――――――――――――
新作開始しました。
読んで頂けると嬉しいです
異世界恋愛ファンタジーです。
タイトル
『貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。』
https://kakuyomu.jp/works/16817139557602664666
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます