第42話 不撓不屈

 最近、悠貴の機嫌が良い。


 他の人には分からないが私には分かる。

 長年悠貴を見ていたのだから。


 それに、本当に付き合っているのか疑わしかった小鷹とかいう女と妙に仲が良い。


 それこそ本当に付き合っているかのような距離感だ。


 最近の悠貴が、あそこまで身近に居ることを許したのは私と美月さん以外では知らない。

 

 その肝心な美月さんも、あれ以降カズ兄から進展したとの連絡が無い。


 折角、美月さんが一番食いついてくるであろうネタが弟であることを教えて、以前悠貴が気に入ってくれていた香水の新作も教えてあげたのにだ。


 後のプランとしては『弟も含めて大切にする』的なニュアンスで攻めて行けば、美月さんも多少は警戒心を解くだろうからと助言しておいた。


 私としては、最終的に悠貴も交えて食事にでも誘えれる関係にでもなれば、結果的に美月さんとカズ兄と付き合おうがどうでも良い。


 事前に送っておいた、あのキスしているような写真との相乗効果で、悠貴は勘違いして美月さんから距離を置こうとするはずだから。


 だから、これは何より私の計画において最重要事項。悠貴が幸せそうにしているなら、小鷹の方は放っておいて構わない。


 なぜなら、私が見ないといけないのは悠貴の未来だからだ。

 今が良くてもいつ悠貴が不幸に見舞われるか分からない。


 少しでも悠貴から目を離しちゃ駄目なんだと美月さんにも早く知ってもらいたい。


 幼い子供のように目を離してしまうといつの間にか目の前から居なくなってしまう事に気付いて欲しい。


 私は失敗から学んだけど、美月さんはまだだ。

 私以上に悠貴が近くに居て当然だと思ってる可能性が高い。


 その油断が悲劇を招く事を身をもって知ってもらいたい。


 そうすれば、二人一緒に同じ気持ちで悠貴を見守って行くことが出来るだろうから。


 私はそんな未来を思い描きながら願う。


『悠貴がこのまま幸せでありますように』と。


 

 

 そんな私の悠貴の為に思い描いた未来図をぶち壊す悲報が、家に帰った後に届いた。


 送ってきたのはカズ兄。

 内容は……。


『協力してくれたのにゴメン。やんわりとだが恋人関係になるつもりは無いと釘を刺された』


 具体的に話を聞いてみると、どうやらカズ兄が急ぎすぎて、美月さんに下心が見透かされてしまったらしい。


 あれほど焦らずに行くようにと念をおしていたのに、少しの辛抱も出来ないなんて、どうやっても美月さんには釣り合わなかったということだろう。


 結果的に私の計画は全てうまく行かなかった。


 ついでに仕掛けておいた小鷹とか言う女の兄もそうだ。

 オフ会であの女の兄だと確信し、貴重な音源を渡してやったのに、しばらくしたら音沙汰が無くなった。

 上手く行けば、あの女をコントロール下におけるかもしれなかったのに……。


 ただ、あれに関しては私の事をバカにしたあの女への意趣返しの意味合いが強い。なので悠貴の事を考えればどうでもいい事だと切り替える。


 そう大切なのはいつだって悠貴で……。


 悠貴が幸せなら……。


 あれ!?


 そこで今の状況を思い返す。


 理由はハッキリと分からないが機嫌の良い悠貴。

 もちろん小鷹とか言う女のせいではない。


 もし、悠貴が機嫌が良くなるような出来事があったとしたら、恐らく美月さん関連だろう。


 でも、美月さんにはカズ兄と写真で……。


 そこで思い当たる。

 その事が切っ掛けで想定していた事とは別の形で、二人の間に何かあったのではないのかと。

 悠貴の様子からしてかなりいい方向に。


 うん、もしそうなら。

 私のしてきたことは…………。


 間違いではなかったという事になる。


 これはまさに光明だ。

 私が正しく悠貴を見守っているという証。


 私はその結論に辿り着くと、先程までの憂いは消し飛び、上機嫌で美月さんに連絡を入れる。


『もしかして、何か良いことありましたか?』


 そう送るとしばらくして既読になるが返事が来ないので、もう一歩踏み込む。


『カズ兄とのデート楽しかったですか?』


 するとようやく返事が返ってくる。


『予想はついてたけどあの写真はアナタね』


 おそらく捨てアカで悠貴に送った写真の事を言っているのだろう。

 思わず私は笑みを浮かべて直ぐに返信する。


『はい。よければちゃんと説明するのでお時間頂けませんか?』


 そう美月さんにメッセージを送る。


『分かった。明日の放課後の時間帯。行きつけだったカラオケボックスでどう?』


 返ってきた美月さんの提案に、了承の意味合いのスタンプを送る。

 

 その後の返事は来なかった。

 まあ美月さんは、私を誤解したままなので当然かもしれない。


 でも、何かしら好転した状況で私の思いを知れば、勘違いも解消され、想定していた通り一緒に悠貴を見守ることに賛同してくれるだろう。


 美月さんが協力してくれるなら、悠貴をもっと幸せにすることができるはず。


 そう……全ては悠貴のため。


 悠貴の幸せが、私の幸せなのだから。


 


 

 



 

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