第37話 謀


 腹立たしい悠貴の彼女面した女と話したあとしばらくは怒りが収まらずにいた。


 私がどれほど悠貴の事を思っているか知りもしないで、ただ関係性だけを見て投げかけられた言葉。


 知り合ったばかりの女に私と悠貴のことなんて理解できるはずないのに、さも理解ある彼女を装う態度がさらに鼻についた。


 しかし、所詮は私に対する上辺だけを見た暴言だと言うことに気付かされ。悠貴に何かしたわけではないと考えると怒るのもバカらしくなっていった。


 もともと悠貴に新しい彼女を作ってもらおうと思っていた私にとっては、ある意味助かったのも事実。

 悠貴が興味を示している間は私から何かをするつもりもない。あの女が悠貴を害するような真似をしない限り……だから、これからも誠心誠意悠貴のために尽くしてほしいものだ。


 それより問題は美月さんだ。

 

 従兄弟のカズ兄からの連絡では、

『会食では言われた通りの話題を振ったら食いついてきた。話も盛り上がって今度また一緒に食事に行くことになった』と喜んでいた。


 それにしてもカズ兄から美月さんの名前が出たときは驚いた。大学も違うはずなのになぜ知っているのか尋ねたら、うちの大学にも友人がいるらしく、その人とたまたま一緒にいた美月さんに一目惚れしたらしい。

 聞いたときには笑いそうになったが、同時にチャンスだとも思った。

 もし仮にカズ兄と美月さんが付き合えば今迄悠貴に100パーセント注いでいたものをどうしても彼氏にも注がなくてはならなくなる。

 そうなったとき悠貴は必ず美月さんから距離を置こうとするだろう、自分が邪魔にならないようにと。

 そうなった時に美月さんは味わうはずだ悠貴が離れて行く恐怖に、恋人なんて曖昧な関係な人にうつつを抜かした自分に後悔するだろう。


 カズ兄には悪いが当て馬にさせてもらう、だからカズ兄には色々と教えておいた。美月さんが喜びそうな話題を、とは言っても美月さんが喜びそうな話題なんて一つしかないが。


 そういう意味でも悠貴にはやはり私と美月さんが必要だ。だから美月さんも早く気付いて欲しい、少しでもよそ見をすれば悠貴はすぐにいなくなってしまう事に。


 それに万が一だが美月さんが本気でカズ兄に惚れたなら、それはそれで構わない。


 美月さんの悠貴を思う気持ちなんてその程度だと言うことが明るみになるだけだ。


 もしかしたら、大切な人を失った悠貴はまた壊れるかもしれない、あの時、悠貴のお父さんとお母さんが亡くなったときのように……。


 美月さんはあの時の悠貴を私が知らないと思っている会うことも止められていたから。

 でも私は一度だけ我慢出来ずに、こっそりと悠貴に会った。

 その時の悠貴は何を話しかけても返事をしなかった。触れても反応すらしない悠貴に私は怖くなった。見た目は悠貴で間違いないのに、私のことを見ようともせずただじっとしているだけの置物のようになってしまっていた悠貴。

 それを認める事が出来なかった私は、情けないことに、どうしていいかわからず逃げた。出来たのは家に帰って泣くだけだった。

 いま振り返れば裏切った時と同じ位許せない私の愚行のひとつ。


 たからこそ、その時は今度こそ私の手ですくい上げて見せる。前は何も出来ず、ただ遠くから見ているだけだった私はもういないのだから。


 今の私ならどんな悠貴だって受け入れてみせる。

 どれだけ壊れて人の心を無くしたとしても。


 たとえそれが悠貴に受け入れてもらえないとしても、私は知っているから思い続けることがどれほど大切なのか、その愛がどれほど強いのかも……。


 それを実感するために私はいつもの曲を流す。


 流れてくる瑞穂ちゃんの声。

 ユノの曲を歌っていることには未だに嫉妬を覚えるが、同時に私の罪と決意を再認識させてくれる。


 ベッドフォンから流れる大音量に身を委ね、恍惚と曲を聞きながら思い出す。

 ……ユノのコミュで気になる人を見つけたことを確か名前が「リトルホーク」さん。たまたまだろうけど名前に興味がわいたので少しだけ絡んでみることにした。




―――――――――――――――


新作ラブコメ。

お陰様で総合、部門別でランキングに入りました。

ありがとうございます。

こちらと合わせて読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


恋愛ゲームの世界にごく普通な俺が当て馬キャラとして転生してきた話 〜ゲームの世界だなんて知らない俺はハーレム主人公のフラグを無自覚に叩き折って無双します〜


https://kakuyomu.jp/works/16817139556508500901

 


 


 

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