第31話 真純語り

「小鷹さん、言い辛いことかもしれないがお兄さんに起きたことを聞いても良いかな?」


 如月先輩から尋ねられたことで、改めてお兄ちゃんを変えたあの出来事を思い返す。

 

「分かりました。きっと如月先輩ならお兄ちゃんの痛みがわかると思います。とうしてお礼をしたいと思ったのかも」


 私はそう言ってお兄ちゃんに起きたことを先輩に話すことにしました。






 私のお兄ちゃんは私より2つ上で、有名進学校に通うほど頭が良く、モッサリ前髪を上げれば実はそこそこイケメンという隠しステータスの持ち主なんです。


 そんな優良物件に気づいたのは私の友達だった女でした。実名はあれですので今後はクズミと呼称しますね。それで、そのクズミが私の家に遊びに来たときです。あの女がお兄ちゃんは目をつけたのは……もし過去をやり直せるなら、あんな女とは絶対に友達などにはならないのに。


 でも、どうやっても過去は変えられません。クズミは少しづつお兄ちゃんと親しくなり、いつの間にか彼女というポジションを確保していたんです。

 私は大好きなお兄ちゃんを取られたような気持ちになり、かなりショックでした。それでも、お兄ちゃんが幸せそうな笑顔を見せている間は耐えることが出来ました。


 それなのにクズミ、あの女は……私が欲っしてやまないものを手に入れたくせに、簡単にお兄ちゃんを裏切った。


 最初に裏切りの予兆を知ったのは共通の友達から「真純の兄ちゃんとクズミは分かれたのか?」と尋ねられた時でした。

 私の驚く顔を見て「しまった」という表情をした友達を問い詰めたところ、クズミが知らない男と楽しそうに手を繋いで歩いているのを見たと話してくれました。


 私はお兄ちゃんに知られる前にあの女を呼んで話を聞いたんです。向こうも驚いていましたが、すぐに「従兄弟だから」と今思えば見苦しい言い訳をしてました。

 でも、その時の私は信じてしまったんです。私もお兄ちゃんと手を繋いで歩くことがありますから。だから従兄弟でもそういうことはあるのだろうと……今思えば本当に私はバカでした。


 それからしばらくして、あの女の不自然さがより目につくようになりました。放課後はお兄ちゃんに会うため頻繁に家へ遊びに来ていたのに、いつの間にかほとんど来なくなり。土日には必ずのようにお兄ちゃんとデートしていたのが、突然都合が悪くなったと約束を破ることも多くなりました。


 ここまでくれば兄ちゃんもおかしいと思い始めたようで、顔を曇らせる事が多くなったんです。

 私はそんなお兄ちゃんの顔を見たくなくて、再度あの女を問い詰めました。

 するとあの女は、泣きながら他に好きな人が出来たとほざきやがりました。さらに脅し……もとい強く問い質したところ、その男とは既に男女の関係にあることも白状しやがりました。


 私からすればお兄ちゃん以外を好きになるなんてありえないことですけど、世間一般では付き合ってる人がいても他に好きな人が出来ることが無くはない事を知っています。

 ならその時点で兄と別れれば良い、それなのに何故兄と別れなかったのか?

 これは想像ですが、最初は軽い遊び程度の感覚、ちょっとした好奇心、背徳感、まあ下らない理由などどうでもいいですけど、お兄ちゃんと分かれるほど本気ではなかったのでしょう。

 しかしクズミにとって、いつの間にか浮気相手の方が本命になってしまった。それこそ男女の関係になるほどにです。


 それって許せなくないですか……あいつはお兄ちゃんと付き合ってるくせに、他の男と浮気をした。お兄ちゃんを何食わぬ顔で傷つけておきながら、間男と腰を振って楽しんでたんですよ。

 よりにもよってお兄ちゃんをキーブ扱いにして、二股をかけていたんてす。あんなにカッコよくて頭良くて優しいお兄ちゃんをですよ……本当に最低な女です。


 そしてもっと最低最悪なのが、このことを私から伝えてほしいとかいう頭に蛆が湧いたようなことをの賜りやがったことですよ。


 ありえませんよね。浮気する前に別れるどころか、二股して浮気がバレたら本命に乗り換える。そのくせ言い出しにくいからって、別れを告げることすら他人にまかせようとする。そんな自分で自分のケツも拭けない幼稚園児以下の低能な人間だったんてすクズミは。


 そして、こんな女にお兄ちゃんを取られたと思い知らされたとき……私はブチギレて思い切りグーで殴りました。流石に顔は不味いと咄嗟に判断して、渾身の腹パンをかましてやりました。


「ぶへっ」と情けない声をあげうずくまる女を見下ろして、定石なら膝を叩き込んで顔を潰しておくところでしたが、本来穏便な私は唾を吐きかける程度で済ませておきました。


 クズミは、普段大人しめな私からこんな目にあわされるとは思っていなかったのでしょう。震えるチワワのように怯えた表情で私を見上げてました。

 そして私はそんな震えるクズミに言いました。お兄ちゃんに、自分のした罪を洗いざらい白状してキチンと分かれるようにと。


 結論から言えば低能なクズミに具体的な指示を与えなかった私が愚かでした。

 

 本当にクズミは、洗いざらいお兄ちゃんに、自分のしたことを考えなしに白状したんです。信じられないことに、相手の間男とどんなことをて楽しんだとか、どんな体位が気持ちよかったとか、お兄ちゃんと比較してどうだったとか、言わなくてもいいことまで全てです。


 生々しいクズミの寝取られ報告。私が意図していなかったこととは言え、そのせいでお兄ちゃんは壊れてしまいったんです。


 だから私は自分がしでかしてしまった過ちを償う意味でも、お兄ちゃんに成り代わって二人に復讐しようと誓ったのです。


 まずはクズミへの復讐ですが、そちらは簡単でした。

 お兄ちゃんと別れた後、あの寝取り魔のクズにも捨てられてしまい、それだけでもざまぁ見ろって感じだったんですが、なんでかお兄ちゃんと別れたせいで落ち込んでるような体裁を取りやがったんです。

 信じられないですよね、自業自得なのに落ち込んでる原因をお兄ちゃんに責任転嫁するなんて……なおさら許せなくなった私はちょうど、知り合いの子に手を出して泣かせた。女癖が悪くて直ぐに暴力を振るうようなゴミカス野郎を半殺し……じゃなくて厳重注意していたところてしたので、許してあげる代わりにクズミに近づいてくどくよう言いました。


 お兄ちゃんが居ながら他の男に股を開くようなビッチですから心配はしていませんでしたが、作戦は見事に成功。傷心の所を最初は優しく言い寄ってきたゴミカス野郎に、クズミは簡単に墜ちました。

 後は勝手に転がり落ちてくれて、性根の変わらなかったゴミカス野郎の浮気と暴力で精神的にも肉体的にも疲弊し、トドメとばかりに予期せぬ妊娠。見事高校受験にも失敗し、後はどうなったか知りません。


 そして私は残りのターゲット。柏木唯斗へ復讐するため行動を開始しました。

 最初は単純に鉄拳せ……でなくて、お兄ちゃんの代わりに一発ぶん殴ってやるつもりでしたが、なぜか運悪く周りに邪魔されて近付けない状況が続き、仕方なく遠巻きでアイツのことを調べたところ、同じようなことを何度もしていると分かりました。そして、あの男は何発殴ったところで何も変わらないやつだとも。

 

 ますます許せなくなった私は徹底的に分からせてやるため、あの男と同じこの学校に進学先を変えて入学したんです。

 本当はお兄ちゃんと同じ学校に進学するつもりでしたが、お兄ちゃんが引き籠もりになってしまい行く意味もなくなったということもありました。


 それから私は虎視眈々と復讐の時をうかがっていたのですが、あの男は本当に彼氏のいる女にしか興味がないようで、なかなかうまくことが運ばず苛立っていたところでした。

 そんな私に天啓のごとく、先輩と高遠さんとの話が聞こえてきたんです。すぐにでも私も仲間に入れてもらおうと思ったいた矢先、あの男に天誅が下されました。


 即断即決で悪を断つお二人は見事でした。

 本音を言えば、私自らの手で制裁を下したかったという気持ちもあります。でも私が直接手を下だせばお兄ちゃんを悲しませていたかもしれません。


 だから私は先輩にお助け出来なかった分も含めてお礼をしたいと思い立ったんです。


 私の話が一通り話し終えると先輩は驚いた表情を見せていました。しかしその目は、まるで好奇心に満ちた少年のような目をしていました。


 

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