第30話 新たなる刺客?
姉さんから柚菜注意報が出て数日。
今のところは変わることなく校内での当たり障りのない会話だけで、それ以外は一切干渉してくる素振りは見せていない。
それからさらに数日平穏な日は続いたが放課後、とある後輩に呼び止められる。
「あなたが如月悠貴さんですか?」
眼鏡を掛け片側だけを緩く三編みにした女子。
ネクタイの色から後輩だと分かる。
「君は、始めましてだよね?」
「失礼しました。私は
軽いデジャヴを感じつつ、この子が姉さんの言っていた柚菜からの刺客だろうかと想像する。
「それで僕に何かようかな?」
小鷹と名乗った後輩はしばらくの沈黙の後、意を決したのか目に強さが宿ると口を開いた。
「高遠瑞穂さんについてお話があります。少しだけお話する時間を頂いても宜しいでしょうか?」
僕と紫さんとの繋がりを知っていると言うことはやはり柚菜の知り合いだろうかと疑う。
しかし、それにしてはいきなり高遠瑞穂なんて名前を出して警戒されるような接近をしてくるのは恋愛関連の話では無さそうな気がした。
「そっか、それじゃあ場所移動する?」
「はい、よく行くカフェがあるのでそこでどうでしょうか? 人もそんなに居ませんし」
人が入っていないのは店として大丈夫なのかと思ったが人の多い中でする話でもないだろうから素直に頷いておく。
案内されるまま付いていった先は学校から少し歩いた場所の住宅街の中にあった。
どうやら持ち家を改造して1階をカフェにしたようで姉さんも好きそうな悪くない雰囲気だった。
店内に入ると数組の客がのんびりした様子で寛いでいた。座席数もそれほど多くなくテーブルの間隔も広面に取られており採算よりは趣味でやっているような感じのお店だった。
「私の方からお誘いしたのでここは私が持ちますのでお好きなのを頼んでくださいませ」
たまに言葉がおかしくなる事があるのは緊張してるからだろうか?
そんなことを気にしながら後輩に奢ってもらうのも悪いと判断して、
「自分の分はちゃんと払うから気にしないでくれ」
と伝えメニューではなく手書きのチョークボードに書かれてあった今日のスペシャルブレンドコーヒーというものを注文してみた。
「なんと、本日のスペシャルをお選びするとはお目が高いですね。ここのマスターは焙煎も自分で行っていて絶品なんですよ」
どうやら僕のチョイスは彼女の好みのようだ。
ところが彼女は普通のブレンドコーヒーを注文していた。
「あれ、スペシャルは頼まないの?」
「いやー、それだとお値段的に……」
彼女が気不味そうに答える。
「それなら、僕のと取り替えようか、どうせコーヒーの味なんて分からないし」
「いえいえ、とんでもないです。コーヒーの違いが分からないなら尚更マスターのスペシャルを味わい下さいませ」
そう言った彼女の勧めでしばらく待った後、マスター自らテーブルまで持ってきてけれたスペシャルブレンドに口をつける。
「あっ、美味しい」
「ですよね〜、私もここのスペシャルでコーヒー感が変わりましたです。教えてくれたのはお兄ちゃんですけど……」
そう言って笑った彼女の表情は本心からの笑顔には見えなかった。
そんな彼女を観察しながら僕はそのまま半分位までコーヒーの香りと味を楽しむと本題を聞くことにした。
「それで話って?」
「単刀直入に申し上げます。私の代わりに仇を討ってくれてありがとう御座います」
突然頭を下げて深々とお辞儀をする小鷹さん。
「……ごめん、話が見えないんだけど?」
「あの、見たんです私。如月先輩とモデルの高遠瑞穂がアイツに復讐する計画を立てている現場を……」
どうやら彼女は僕と紫さんが会っていた現場を偶然見たようだがどうすれば復讐計画に繋がるのか理解できなかった。
「いや、確かに高遠さんとは会ったけど別に復讐を計画していた訳ではないよ」
「隠さなくても大丈夫です。聞こえてましたから『ざまぁ、して利害の一致って』言ってた声が……もちろん警察に通報したりしません。さっきも言いましたが感謝してるんです。お兄ちゃんをあんなにしたあの男を始末してくれたことを」
小鷹と名乗った後輩はどうやら一部分を聞いて盛大な勘違いをしているらしい。
僕は誤解だと説明したが詳細までは言えず何ともちぐはぐな返答をしてしまった為、誤解を解くに至らなかった。
「御礼がしたいと言うのは分かった。それならここの普通のブレンド一杯で手を打とう」
説明するのが面倒になり手当たりなところで終わらせようと僕が提案する。
「そういう訳にはいきません。私に取ってはお兄ちゃんの仇を討ってくれた恩人。もっとちゃんとした御礼をさせてください」
「仇って……君のお兄さんは……」
小鷹さんが僕の問いかけに寂しそうに俯く。
「はい、あの優しくてカッコよかったお兄ちゃんはもう居ません」
「そうか、もしかしてお兄さんも柏木に彼女を取られたのか?」
「はい、私からすれば股ユルビッチなんかと別れて清々したんですがお兄ちゃんにとってはやはりショックだったみたいで焦燥しきってしまって」
どうやら小鷹さんの兄は繊細な人だったのだろう僕のように簡単に割り切る事ができなかったのかもしれない。
「それで自殺したと」
「……へっ? お兄ちゃんは生きてますよ、何言ってるんですか?」
「えっ、だって今の話の流れだと……」
「いえいえ、以前の優しくてカッコいいお兄ちゃんがいなくなっただげで、今はすっかり変わり果てて、『現実の女なんか二度と信用しない』と言って2次元しか愛せない引き籠もりになってしまったんです」
それなら仇云々は言い過ぎではないかと思ったが小鷹さんにとってはそれだげ憎悪の対象だったのだろう。
「そっか、小鷹さんはお兄ちゃんが大好きなんだね」
「えっ、えっ、エッッッエ、何で分かったかんでしゅか? わっ、私が好きなのはあくまで兄としてですよ、幾らカッコよくて優しくて、すっかり堕落して引き籠もって私が面倒見なきゃって母性がくすぐられても、兄として好きなんです!」
こっちが聞いてないことまで必死になって話してくる。
どうやら盛大に空回りするタイプのようだ。
「少し気持ちは分かるよ、僕も姉さんの事が好きだから」
僕がそう告げたとたん彼女は目を輝かせるといきなり僕の手を掴む。
「まっ、まさか仇を討ってくれた恩人だけでなく心を共にする同士だったとは」
どうやらまた盛大に勘違いさせてしまってようだ。
「あの勘違いしてるようだけど」
「分かってますよ……あくまでも姉として好き何ですよね……ふっふっふ、ええ、わかります、わかりますとも、その表立って口にできなその気持ち」
どうもこの子には何を言っても勘違いしそうだ。
かなり疲れる子ではあるが、何だかこの子に興味が湧いたのでもう少しだけ話してみることにした。
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