第27話 深慮遠謀?


 私の告白と共に信じられないようなモノを見るような目で私を見る美月さん。


 きっと驚いているのだろう、私も同じ位置に辿り着く事ができた事を……。



 ずっと不思議だった。美月さんはどう見ても悠貴の事が好きで義理なのだから血の縛りはないのになぜだか姉というポジションに拘り続けた。


 悠貴も美月さんだけは特別で好きだった人もてっきり美月さんだったんじゃないかと思ったほどだ。


 でも、今なら理解できる。壊れた悠貴の側に居るためには恋人なんて曖昧でいつ壊れるか分からないような脆い関係では駄目なんだと。


 そもそも今回だって悠貴と付き合っていなければ単純に私に彼氏が出来ただけで悠貴との関係が崩れることなんて無かった。


 ただ以前の愚かな私なら彼氏にかまけて悠貴との関係もお座なりになってたかもしれないが今は違う、私に他の男が触れる事は嫌悪感以外のなにものでもない、私にとって悠貴以外の男は必要ないというとことだ。


 だけどもし悠貴に許されて触れられるようになればきっと以前の私に戻ってしまうだろう。


 私は自分が思う以上に貪欲だ満たされてもなお求めてしまう、悠貴と付き合ってからが良い証拠だあれだけ好きでようやく付き合えたのにその事に満足出来ずに次を求めたその対象が悠貴だけならまだしも他の男に現を抜かす体たらく。


 あの時の私は悠貴が餌を与えてくれなかったからと簡単に餌を与えてくれた先輩に付いていっただけのおバカな子犬と同じだ。


 だから私は戻らない。

 これは私の罰と共に与えられた贖罪の機会。

 仮に許されたところでまた低俗な肉体関係に基づいた男女の間柄に戻れば私は満たされず同じことを繰り返す。


 それならばこのままで居続ければ良いのだ美月さんのように……罪を償い続けれことで悠貴の側に居られるならそれが理想の在り方だ。


『それを悠貴に言ったところで何も変わらないわよ』


 美月さんが言った通り悠貴はそんな私にきっと何も感じないだろう。


 でも感情を向けることは無くても悠貴は私の存在を無視することは出来ない、実際に学校でも話すだけなら以前と同じように出来ている。


 これが普通の男子なら感情がぶつかり合いきっと喧嘩して終わる。でも悠貴ならそれがない一度線を引いてしまえば私にさえ他の人達と同じ感情を表に出さずフラットに接してくれる。


 つまり私さえ悠貴の側にいる理由があれば悠貴は拒絶することはない。


 同時に受け入れる事も無いだろうが悠貴と私の過去はどう合っても失われはしない。


 なら、そんな私が悠貴に干渉し続ければいくら普段感情を表に出せなくなったとしても蓄積するものはあるだろう、その蓄積をユノとして表に出すときどんな想いを私に届けてくれるだろう?


 私はそれまで瑞穂ちゃん……本名は紫ちゃんだったかな? あの子と同じようにただ一途に愛し続けてれば良い、願いが成就するその時まで。


 そう紫ちゃんが身を持って示してくれたように。


 それに今の私には支えとなってくれる悠貴の作った曲がある。今でも紫ちゃんが歌っていることには嫉妬してしまうが…………。


 そうだ今度私も練習して悠貴の前で歌ってみても良いかもしれない。

 そんな楽しいイタズラを思いつたところで目の前の美月さんが話しかけている事に気がついた。


「ねぇ、聞いてる?」


「あっ、すいません考え事をしてました」


「アナタ、あの曲を聞いたの?」


「曲って?」


「……いま口ずさんでた曲よ」


 どうやら楽しくなって思わず口ずさんでしまっていたみたいだ。


 そんな私をまた美月さんが何か恐ろしいものを見るような目で見てくる。


「ええ、友達から貰った動画で見ました。あの曲最高ですよね。歌ってるのが私だったらもっと最高だったんですけど」


「早く消去しなさい」


 美月さんが否応無しの命令口調で言ってきた。


「嫌です。あの曲のお陰で気付けたんですよ自分の愚かしさと未来への希望にそんな大事な曲が聴けなくなるようなことしませんよ」


「どうしても?」


「……なんでそんなこと言うんですか? 美月さんは悠貴だけじゃなくあの曲まで私から奪おうとするんですか?」


 理不尽な要求をする美月さん。


 だいたい美月さんにはまだ悠貴自身がいるのに、なんで悠貴を失った私から何もかもを奪っていく悪魔のようなことをするのだろう……これから私は悠貴の為に生きて行くと告げたばかりなのに……そのための心の支えを奪おうとするなんて信じられない。


「なんでって、あの曲は…………今の柚菜ちゃんには何を言っても無駄みたいね」


 私の目を見て美月さんが告げる。


 態度から美月さんがあの曲を否定したがっているのが分かった。あんなに素晴らしい曲なのにまるで何か悪いものかのように。


「逆になんで公開しないのか分からないです。折角悠貴が作った曲なのに埋もらせてしまうなんて勿体ないです。何なら私が……」


「駄目よ! 悠貴もそれは望んでないから」


 本当かどうかは分からないが悠貴が望んでいないのなら勿体ないけど私から公開は出来ない。


「分かりました公開はしませんが曲は消しませんよ絶対に」


 強い口調でハッキリと私の意思を伝える。


「分かった。公開しないならそれで良いわ」


 美月さんも私から奪うことは取り敢えず諦めてくれたようだが油断は出来ない。


 私は笑顔で愛想よく答えておく。


「はい、分かってくれたなら嬉しいです」


 でも油断はしない、美月さんは悠貴の為にならないと判断すれば何でもする。

 今の私もそれは同じだけど何で悠貴の事を想う気持ちを共有しているはずなのにこうまで食い違ってしまうのだろうと考えた時ひとつ分かった。


 美月さんは悠貴を失う恐怖を知らないからだと。

 私も失って初めて悠貴が私にとってどれだけ特別なのかを実感した。


 でも美月さんは違う、姉というポジションでいる限り常に悠貴の側に居られると思っている。きっと悠貴が自分から離れることなんて無いと思っているに違いない。

 

 でも、それはあの時の私と同じ傲慢で危険な考えだ。だから美月さんにも一度悠貴を失うかもしれないという危機感を覚えてもらうのがいいかも知れない。

 もちろん悠貴から美月さんという大切な姉を奪うわけにはいかないので悠貴に知られることなく事を進めないと行けない。


 だから取り敢えず美月さんが私に会おうと思った理由を尋ねることにした。


「ところで美月さんからの話って何ですか?」

 


 


 


 

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