第23話 永遠の愛


 もともと意志の強い人でもない。簡単に私の誘惑に堕ちると唯斗さんは私を抱いてくれた。


 初めて感じる痛みと喜び、自分の体に侵入してくる愛しい人の熱がこんなに喜ばしいものだとは思いもしなかった。


 改めて男と女がセックスが原因で道を踏み外す理由が理解できた。

 理性では覆すことのできない動物的な本能にも通じているのだろう。愛する人から注がれれ胎内を満たす充実感はクセになるものだった。


 ただこの充実感を知っても私としては他の異物を受け入れたいとは思わない。

 しかし私も女だいつ理性より本能から別の雄を求めてしまうか分からない。


 そして唯斗さんもこの感覚から離れられないのだろう。

 だって抱き合い求め合い繋がっている瞬間はお互いに愛情を感じてるつもりになれるから。

 継続は出来なくても確かにその瞬間だけは愛を感じることの出来るこの行為は付き合い続けることで裏切られることが前提の唯斗さんからすれば理想の形なのだろう。

 女の醜さを肯定しつつ、刹那的だが愛情を得ることの出来るだから。


「唯斗さん、どうでしたか私の体は唯斗さんのために大事に守り、唯斗さんの為に磨き続けたのですよ」


「ああ、今までで一番最高だったよ」


 唯斗さんの胸でしなだれる私に微笑みかけてくれる。

 私は唯斗さんの胸に手を添え体を起こす。

 唯斗さんに微笑み返すと再び唯斗さんの収まらない欲望の象徴を私の中に導く。

 何度も注がれた愛情の残滓により、するりと私の中に遮るものなく侵入する。

 それだけでまた私を充たしてくれる。


「まだまだ感じてください私を……愛してます唯斗さん」


 私の歌をBGMにして再び交わり快楽を貪り合う。


「ああ、俺もだ紫ちゃん。何で気づかなかったんだろう身近に本気で俺を愛してくれている人がいることを」


 唯斗さんのうわ言のような言葉。

 きっと私の歌が頭の中で響いているのだろう。


 あと少しだった……あと少しで私が欲しい言葉が手に入る。


「もっと、もっとです私の愛を感じて下さい。もっと私を愛して下さい」


 私はもう痛みなど感じることなくより激しく腰を振り唯斗さんへの快感を高めて行く。

 

「ああ、良いぞ紫ちゃ……ゆかり。感じる最高だ」


 唯斗さんの堪えきれなくなり始めた欲望が私の中で震える。


「ああ、私もです。唯斗さんを感じます。唯斗さんの気持ちも感じますよ、愛してます、愛してますよ唯斗さん」


「ああ、俺もだ……俺も愛してるぞ、ゆかりぃぃ」


 唯斗さんが私の欲しかった言葉と共に私の中に昂った欲望と愛の証を注ぎ込む。

 私もやっと手に入れた愛の言葉と共に頭が真っ白になるくらいの快感に襲われ唯斗さんの胸に倒れ込む。


「やっと言ってくれましたね……」


 ずっと欲しかった言葉。この曲に影響されていたとしても、たとえ快楽に流された言葉でも良かった。欲しかったのは私を愛してくれたその一瞬で良いのだから。


「ああ、良かったぞ紫」


 快楽で緩みきった表情の唯斗さんが私を褒める。


「私もです。素敵でしたよ唯斗さん。私は永遠に唯斗さんを愛することを誓いますよ」


 私もまだ繋がったままで笑みを返すと枕の下に隠していた物を取り出す。


 呆けたままの唯斗さんはまだ私に気付かない。


「俺もだ今は間違いなく紫を愛してるぞ」


 つられて流された言葉としても私にとってそれはやっぱり嬉しい言葉だった。


「ふふっ、ありがとうございます唯斗さん。私もこれで永遠に唯斗さんを愛し続けることが出来ますよ」


 私はもう一度体を起こすと唯斗さんに……最愛の気持ちを込めた眼差しで優しく微笑みかける。

 そこでようやく唯斗さんは私の手にしている物に気付く。


「紫……ちゃんなにを……っ」


 そして唯斗さんが言葉を言い切る前に私は唯斗さんの首を掻き切る。

 祝福するかのように返り血が私を赤く染める。

 次に心臓に向けて何度もナイフを突き立てる。


 ベッドが真紅に染まって行く。

 最愛の人の呆気ない最後。


 でも……。


 これで唯斗さんの時間は永遠に止まった。


 これで唯斗さんは瑞希ちゃんを愛することはもう二度とない。


 これで唯斗さんは永遠に私を愛したまま。


 ようやく私は瑞希ちゃんに勝つことが出来た。


 そして私は永遠に唯斗さんと結ばれたままでいられる。


 私は動かなくなった唯斗さんの手にナイフを握らせると、そのナイフを私の心臓に向けて突き刺さるように調整する。


 死にそびれないよう毒薬は服用しておく。


 そして最後にもう一度だけ動かなくなった唯斗さんに愛を囁く。


「永遠に愛していますよ唯斗さん」


 そう言って私は唯斗さんの血まみれの顔にキスをするように倒れ込む。


 胸に伝わる痛みはちゃんと私を貫いた証。

 もう誰にも引き離せない愛の絆が結ばれた瞬間。


 これで私達の愛は時間から切り取られ不変へと至る。


 こうして私はついに手に入れることが出きたのだ永遠の愛を…………。




 


 


 



 


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