第12話 姉と小間男
腹立たしげに座り直す柏木唯斗。
もっと狡猾な男かと思っていたがカメラも確認せずに詰め寄ろうとするところなど案外短絡的な男なのかもしれない。
しかし、それならば尚更こんな男に堕ちた柚菜ちゃんに失望感が拭えない。
話を聞くになったとこいうことは何か思惑があるのだろうが、こいつからは欲しい情報は得たので正直そのまま帰してもいいのだが悠貴の代わりに柚菜ちゃんの事を多少はフォローしておく。
「それで後輩の凛堂がどうしたんだ?」
「単刀直入に聞くけど凛堂さんをどうするつもりかしら?」
「意味がわからないな、凛堂は部活の後輩。それだけだが」
「はぁ、とぼけなくても良いわよ。凛堂さんの彼氏、嫌別れたから元カレね……私の弟だから」
「ぷっ、凛堂の彼氏が弟さんね。御愁傷様、確かに俺は口説きはしたが、それに乗るか乗らないかは相手の女の問題だ。マトモな女なら彼氏がいるのに浮気なんてしないだろう。良かったじゃないかあの女の本性を知れて」
全く罪悪感なく話す目の前の男。
「それについては反論出来ないわね。だからこそ聞きたいんだけど凛堂さんとこの後ちゃんと付き合うの?」
「当然だろう。その為に口説いたんだから」
「そう、それならいいの」
この柏木という男の人間性はともかく一応付き合うつもりがあるなら私としては問題ない。これでただやり捨てるだけのヤツだったらまた別の手を使ってただろうけど。
「へっ? なんだよ拍子抜けだな、てっきり文句言ってくるものかと思ったんだが」
「何でそんなことする必要があるの?」
「それなりに凛堂のことも大切なんだろう。俺的にはアンタが代わりに付き合ってくれるなら弟くんに彼女を返してもいいぜ」
本当にこの男の短絡さに呆れるしかない。
そもそも自分で言っていたのに鳥頭なのだろうか柚菜ちゃんは自分で選んだんだ、愚かだろうが自分の選択には責任を持つべきだ。
「あなたも言ったでしょう。最後に選択したのは彼女よ。アナタに捨てられて後悔して反省してどうしょうもなくなったら手を差し伸べるかもしれないけど」
「なんだ案外冷たい女なんだな」
まるで他人事のような返答の柏木に苛立ちを覚えるがそうしていられるのも今のうちだろう。
柏木が言うとおり高遠瑞穂と同じ顔をした人物が亡くなっているとしたら、その人物に成りすましてまで悠貴に近づいて来た。
悠貴が目的ならわざわざそんな事をする必要などないだろう。
しかもタイミングが悠貴に彼女である柚菜ちゃんが柏木に堕ちた次の日ということは……柏木は監視されていることも考えられる。
つまり、そこまでするということはマトモな女じゃない。悠貴を巻き込んだのは腹立たしいがターゲットが柏木なら良い薬になるかもしれない。
まあ、劇薬の可能性は高いが。
「何笑ってやがる。見た目はともかくやっぱり不愉快な女だな」
「アナタこそ化けの皮が剥がれてきてるわよ」
「うるせぇ。そもそもお前はもう学校の関係者じゃねぇだろうが何を偉そうにしてるんだよ」
「ええ、私はあくまでアナタと話をしに来ただけよ。もう話す必要もなさそうだけど」
これ以上、この男と話をしたところでもえ得られるものはなさそうだ。
「一方的に話だけして終わりかよ。これだから女は身勝手で自己中心的なやつばかりだ」
自分のことは棚に上げ相手の事ばかり責め立てる。
「……アナタに言われたくないわね。自分の弱さから女を食い物にしてるような腑抜けには」
「だれが腑抜けだよ。俺が声を掛けただけで勘違いして勝手に裏切ってくるのは女の方なんだぞ、何で俺が悪しざまに言われなきゃならないんだ」
本気で言っているのなら自覚がないのかもしれない。
「アナタって彼氏がいる女以外を口説いたことないでしょう」
「はあ、それがどうした。アンタもおめでたい系のお嬢様かよ、この先大学、社会人になっても下心で優しくしてくる男なんていくらでも出てくるだろう、そいつら全員が悪いのか? だいたい、結婚してるわけでもないのに男が女を口説いて何が悪い」
女子にも恋愛なんて好きな人を奪い合うものだと言う人だって確かにいる。
だけどこの目の前の男には根底にあるものが欠けている。
「そうね。男にしろ女にしろ異性を求めるのはしかたないかもしれないけど、アナタは違うでしょう根底に好きと言う感情がない、凛堂さんにしてもそうでしょう、話してて分かったわ」
「当たり前だろう。平気で彼氏を裏切るような女好きになるはずないだろうが」
「なら、なぜ付き合うの?」
「そんなの別れた時に思い知らせるために決まっているだろう。自分がしたこと後悔して泣くクソ女を見るためだよ」
それを聞いて改めて分かった。こいつはやられた事をやり返して悦に浸るだけの器の小さな男だと。
そして自分が裏切られた過去の体験から、自分は絶対に傷つくことのない相手を口説くのだろう、断られても彼氏がいて断って当然の相手を。
捨てられる前に捨てても最初から言い訳のつく相手を。
こんな見た目だけの男に躓いた柚菜ちゃんは非常に残念だフォローしようにもこんな男ではどうしょうもない。
もう、これをいい経験にして今後のために男を見る目を養ってほしいとしか言いようが無い。
「そう、もう良いわ、アナタの価値観を理解することは出来ないだろうから。これ以上お互い話しても時間の無駄でしょう」
「ああそうだな、俺もこれ程合わない女は初めてだ。アンタとは二度と関わり合いになりたくない」
口調を荒げながらも逃げるように柏木は部屋から出ていく。
私としてもあんな小心者と関わり合いになりたくはないが高遠瑞穂次第ではまた顔を合わせる羽目になるだろう。
何より気になる亡くなったという高遠瑞穂に似ている女について早速調べないといけない。
やはり高遠瑞穂とは関わり合いになるべきではなかった。だか関わってしまい、マトモじゃない可能性がさらに高まった以上一方的に関係を切るのも危険だ。
だから本人と直接対話する前に持ち弾は出来るだけ用意しておく必要がある。
私は明里に連絡して来てもらったあと、お礼を告げて調べ物をするために家に急いで帰った。
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