第11話 寝取り魔と姉

 昨日、今日と凛堂が部活に来なかった。どうやら学校も休んでいるようだ。

 送ったメッセージに既読は付いていたが返信がない、もしかしたら彼氏あたりにバレて落ち込んでるのかもしれない。


 仮にそれが理由なら本当に愚かだ。

 自分で裏切っておきながら自責の念で潰れかけるなんて、そんな女はきっと今頃悲劇のヒロンインを気取ってるに違いない。


 ただそうだった場合は思ったより精神的に弱いということでもある。


 死ぬ度胸はなくても自殺未遂くらいは起こしかねないのでフォローとして俺への逃げ道は作っておいてやる。そのために心配するフリをしてメッセージを送っておく。


 あんなに幼馴染の彼氏のことを思っていた癖に簡単に俺になびいた女だ、きっと俺を逃げ道にしようとする。

 まあ、彼氏の方が浮気を知ってなおケアしているなら元鞘もあり得るが、そうなったらそれはそれで面白い。

 もう一度寝取って女の醜さを証明してやれば良いだけだから。


 そう思いながら思わず笑いそうになるのを我慢する。

 頭を切り替え部活での演劇の練習を始めようとすると後輩から生徒会から呼び出しを受けていると伝えられた。


 正直見に覚えが無いこともないが今まで堕としてきた女の動画をばら撒いたりとか自分の首を締めるような事はしていない。

 1生徒の男女の付き合いにわざわざ生徒会が介入するとも思えない。

 ただ放置していても面倒な事になりそうなのでここは素直に生徒会室に向かう。


 生徒会室の部屋をノックし承諾と共に入室する。


 目の前には生徒会長『兼光明里』が腕組みして仁王立ちしており、その横には卒業したはずの前副会長『西條美月』が俺を睨むように座っていた。


「柏木君、呼び出しに応じてくれてありがとう。少し教師を挟むと面倒な事案なので西條先輩から直接話がしたいそうだ」


 兼光明里は西條先輩に一礼すると部屋から出ていこうとする。

 去り際に『この人に妙なことしたら全力で潰す』と脅された。


「柏木唯斗君。そこに掛けてもらえるかしら」


 そう言った先には椅子が用意されており、そこに座るよう促される。


 指示通り椅子へ座り面と向かって対面した西條美月は一年前よりも美しくなっていると感じた。


「お久しぶりですね西條先輩」


「……? どこかで会ったことあるかしら」


 残念ながら向こうは覚えていないらしい。

 俺が寝取り以外で堕したいと思ったほどの女だ。 

 当時書紀だった男から寝取った女がいたが、その書紀の男も目の前の女に心酔しており彼女を寝取った割に対して気にした様子もなかった。

 まあ、あれはあれで寝取った女が滑稽で笑えた。


「部活総会の時に挨拶程度ですが少しだけですが話をさせてもらいました」


 下手に嘘つく必要もないので本当のことを言っておく。覚えていないということは俺など全く眼中になかったのだろう。


「それは失礼しました。君みたいに目立つ生徒を覚えていなかったなんて私もとんだ節穴ね」


 眼光は鋭いまま微笑む。

 全く俺に気を許すつもりはないようだ。


「いえ、あの時はまだ前部長の影に隠れる感じでしたから……それより要件を伺いたいのですが?」


 あくまでも表面上紳士的な態度は崩さない。


「ああ、そうだったわね。今日来てもらったのは他でもない、この人物を知っているかしら?」


 そう言って雑誌の切り抜きのような写真を見せられた。

 そこに写っていたのは少しだけ大人びていたが忘れもしない女。

 俺が最も憎む幼馴染だったヤツの顔に間違いなかった。


「あら、その顔だと知っているようね」


 咄嗟のことで表情を隠しきれなかった。

 俺の表情から確信を得たようで西條先輩が不敵に笑う。

 動揺を悟られた以上隠してもしょうがないので話せる範囲で答える。


「ええ、昔馴染みの女ですよ」


「ふーん、その子アナタの彼女って吹聴してるみたいだねど」


 目の前の先輩がどこで聞いたのか知らないが有り得ないおぞましい事を言ってきた。


「無いですね。そいつと付き合うなんてありえないですよ」


「そうかしら、かなり綺麗な子だと思うけど」


「見た目は関係ないですよ。それにそいつと付き合うのは物理的にも絶対に無理なんで」


「付き合っていないとしても、随分おかしな言い方をするのね?」


 しつこく尋ねてくる目の前の女に俺の忌々しい過去に干渉されてるようで苛立ちが募る。


「そんなの当たり前だろう、死んだ人間と付き合うヤツなんているのかよ!」


「えっ?!」


 俺の言い放った言葉に目の前の女が心底驚いた表情を見せる。


「あんた。知ってて聞いたんじゃないのかよ?」


 俺は内心でほくそ笑む。どうやらこの女はアイツの事を知りたいようだが自殺したことまでは知らなかったようだ。

 それなら主導権の取りようはある。


「………そんなはずは…………可能性として……」


 そんな俺の様子など気に留めもせず女は独り言をブツブツと呟き続ける。


「なあ、あんたそいつのことが知りたいな……」


 俺は交渉を持ちかけようとして女に遮られる。


「いやいいわ。その事実だけを知れたなら収穫は十分だから。それにアナタの言葉に信用ってものがあると思えないもの」


「……何様だお前、さっきから大人しく聞いていれば。随分と好き勝手言ってくれるな」


 こいつだって女だちょっと甘い雰囲気を作って優しくすれば流されて腰を振るくせに俺を見下す態度が気に食わない。


 俺は立ち上がると生意気なクソ女に分からせてやるために近づこうとした。


「そこからカメラで撮ってるから」


 クソ女は天井を指差す。

 そこにはカメラが設置されしっかり俺の様子を録画していた。


「ちっ、不愉快だ俺は帰るぞ」


「その前にもう一つ凛堂柚菜のことでも話があるの」


 思わぬ名前が出たことにより、あの尻軽女を使ってひと泡吹かせられるかもと直感が働く。


 俺は腹立たしそうに見せかけて席に座り直すと話を聞くことにした。


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