第7話 演劇部の星


 女は嘘つきで外面はどんなに着飾っても内面は醜い。


 昨日の出来事が頭をよぎる。


 少し期待していた。

 彼女は違うんじゃないかと。


 最初は俺が相手でも浮つくこともなく、話す内容も部活や彼氏の話題ばかりだったからだ。


 だが結局は他の女と大差なかった。


 好きな演劇を見せ感情を高め、同じ目的に向けて邁進する様子を見せる事で協調性を強くする。

 最後はタイミングを見て優しく見つめて雰囲気を作れば簡単にキスを許した。

 キスを許せば理性より本能を優先させたのか俺に甘い顔を向けてくる。

 すっかり雌になりさがった後輩は言われるがままに部屋に付いてくると簡単に体を開いた。


 あんなに幼馴染の彼氏の事を楽しそうに話していたのに、文化祭で彼氏に見てもらいたくて演技を頑張っていたはずなのに、結局流されて簡単にセックスまでしてしまう。


 ことが終わってようやく事の重大性に気づいたのが慌てて出ていったがもう遅い。


 一瞬の気の迷いでも裏切った事実は変わらない。


 にもかかわらず平気で嘘を付く。

 この後きっと彼氏と話でもするのだろう、そして何くわぬ顔で好きだとでも言うのだろう。


 女は結局、そういう生き物だ。

 顔が良くて表面上優しく扱えばすぐになびく。

 顔より性格と言う女でも顔が良くて性格が良いフリをすれば結局顔が良い方を選ぶ。


 だからこそあの後輩、凛堂柚菜りんどうゆずなの幼馴染の彼氏に対する思いは本物だと思いたかった。俺なんかの誘惑を一蹴して彼氏の元に向かってほしかった。


 世の中には顔や雰囲気に流されない一途に相手を思うことが出来る人間がいることを証明してほしかったのに……。


 でも変わらなかった。やはり世の中の人間はこんなのしかいないのだろうか。


 やりきれない思いに囚われ苦い思い出が頭をよぎる。




 最初に……俺が最初に好きになった子も幼馴染の女だった。


 もうひとり男の幼馴染もいていつも3人でつるんでた。

 その頃の俺はまだ、垢抜けておらずどちらかといえば地味なタイプだった。一方の二人は対照的に見た目もよく自然とクラスの中心になるような奴らだった。


 そんな状況が変わったのは中学の時で、その幼馴染の女から告白を受けた時だ。

 てっきり彼女はアイツの事を好きだと思っていたので信じられなかった。

 改めてアイツのことが好きなんじゃないかと確認したが彼女は否定し俺の方が好きだと言ってくれた。

 それからは二人で過ごす時間が増えていき楽しかった。それが偽りの時間だと知りもぜず。


 俺と彼女が付き合いだしてしばらくしてから、俺はアイツに呼び出された。


 要件は『ひとの彼女に手を出すな』ということだった。

 意味が分からなかった俺は彼女から告白されたことを説明した。

 しかしアイツは見下したように笑うと『何本気にしてるんだよ』と告げ、『嘘告ゲームにでも付き合わされたんだろうお前なら謝れば許してくれるだろうし』とアイツと彼女がキスをしている写真を俺に見せつけた。


 言われて納得した。あの時の俺はほんとに冴えない奴で彼女とは不釣り合いだったから。

 同じ時間を共有しているなら見た目がいい方に傾くに決まっている。


 そして、これを機に俺はイジメられるようになった。多分アイツの指示で、彼女も遠巻きから見ているだけで俺を助けてはくれなかった。


 俺は裏切られた事より、そんな事にも気付けなかった自分の馬鹿さ加減に絶望した。


 俺は自分を変えるため、母親にイジメられている事実を告げ転校させてもらった。


 そこでまず見た目から変えた。

 幸い女優だった母親似だったおかげで元が良かった俺は髪型と身だしなみを気をつけるだけで別人といわれるまでに見違えた。


 そして母親の勧めで自分を変えたいのなら演劇をしてみないかと誘われて始めてみた。

 それは俺的に成功で違う自分を演じている内にあの頃の情けない俺は鳴りを潜め、表現のために演じる人物と相手の心理を考えるうちに自然と相手の気持ちを察するのが得意になった。



 新しい環境になれ始め頃。

 周囲に気を使い、良いやつを演じていれば見た目が良いだけで女の方から勝手に寄ってくるようになった。


 俺はそんな奴らを卑しく思ってしまった。


 だから俺は確かめたかった。

 信じるに値する女だって居るんだと……。




 簡単に裏切る女を抱くたびに思い出す名前も思い出したくない彼奴等の記憶を無理やり閉じ込めると

スマホからメッセージアプリを立ち上げる。


 面倒臭いが後処理までが俺の信条だ。

 簡単に裏切るような女だからこそ最後は相手からしっかり引き取って捨てる。


 寝取られた男には多少申し訳ないと思うが、そんな女だったと知ることが出来たと思ってスッパリ縁を切ってくれるのが望ましい。


 その後は知ったことではない。

 そんな女と分かってて復縁するのもその男の自由だし、今後信頼に値する女が見つかるかのなど知りようがないのだから。


 たがら凛堂柚菜りんどうゆずなにも後処理の為に本気のフリをしてメッセージを送っておいた。



 いずれ俺は寝取った女か寝取られた男にでも刺されて死ぬだろう。

 だがそれはそれで本望だ。

 信じるに値する人間がいない現実でずっとこんな事を繰り返していくだけの人生なんて俺もゴメンだ。

 演劇だって所詮は偽りの世界。

 ずっと留まるわけにはいかないのだから。


 俺はメッセージを送り終わるとスマホを放り投げる。気分を一新するために今どき珍しいコンポにセットされたお気に入りの曲を流す。


 わざわざ彼の曲を良い音で聴きたくて買ったハイレゾ再生可能性な高級品だ。


 ベッドに沈み込みながら、流れはじめる音楽に集中しはじめる。

 やっぱりユノは最高だ。

 唯一の俺の癒やしといえる。


 特に『愛が失われた世界』はユノを語る上ではマストだ。

 愛がない世界でひたすらに愛を求める飢餓感にも近い歌詞と、愛のない壊れた世界を表現したかのような歪んで硬質なフィードバックギターが重なり合い絶妙な世界観を作り出していた。


 最近は真逆な明るいポップな曲も増えファンもどちらかといえばその当たりから増えてきたが、俺は断然初期のユノを推す。

 まあ、こんな事をユノコミュで語れば古参の懐古主義と叩かれるのがオチだが。


 俺は目を閉じそんな雑念すら捨てる。

 ただ音楽と一体化するように意識を流れる歌に集中させ音の渦に包まれた。



 

 

 

 

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