17. 溶岩(1000℃)で焼き肉を焼けばCO2も出ないからSDGsも安心☆
ま~た突然、俺たちの前に強制表示された、クソ邪魔な青白いウインドウ。
ウインドウの中、相変わらず理解不能なテロップが真ん中にぽや~ん。
【 年末 ☆ Unknown Online 公式放送 】
何度目だこれ。ボスとの戦闘中にこんなもん始まったら俺も隕石落としに参加して運営の正月を地獄にするわ。
前回のワンルームみたいセットなのがクレームがひどかったのかそれとも単に場所替えしたくなっただけなのか、南の島~って感じの低予算☆合成感バリバリの背景の中から、メイドかよっていうようなフリルのついた地雷系アイドルが二人。
相変わらずの全力メイクで手のひらだけを振りながら生えるように画面の下から現れた。
『やっほ~! ジャンボで~す!』
『ロトで~す! 年末、みんな元気にUNKOしてるかな~?』
お前の顔面に塗りたくるぞ。
そういや昔、千歳船橋にウンコ味のカレー屋っていうダイナミックな店があったな。AV男優が店長の。
『新年まであと3時間をきっちゃったね~!』
『カウントダウンイベントどうする~?』
『え~? それは~もちろん~』
右側の黒系コーデにまとめた栗色ショートが、手のひらの指先だけを合わせて楽しそうに笑った後。
『おっとこれ以上はいけないいけない』
『今のは聞いた私が悪かった~』
なんなんだこの茶番は……! 強制的にこんなもん見せられてる人間のことを少しは考えて……!!
『で、今回はですね~』
左側の白系コーデ黒髪ロングが、またまた画面の見切れた場所から謎のテロップを取り出してもってきた。
どんっ
『残り3時間を切ったということで! もう今から入ってもお前らには賞金獲得の可能性はほとんど残ってないぞ記念! 最終中間報告です!!』
『君たちのローグダンジョンは終わった! 残念! 来年もよろしくゥ!』
よろしくゥ! じゃねえんだよマジで死なねえかなこいつら。それとも実は計算の上であえて燃料を投下していくスタイル?
だが右側の黒系栗色ショート地雷が、ふと思いついたかのように素の表情で口を開いた。
『最終中間報告って、日本語としてちょっと意味わかんないよね』
『わかる~』
俺はもう突っ込むことをやめた。以下皆さんご自身で心の中で突っ込んでください。
『で~。みんな気になる現在のクリア者数は!』
相変わらずの安っぽいボードに貼られた【クリア者数!】とか書いてあるテープを、右側の栗色ショートがずばーっ! とはがしていった。
『なんと~! 引き続きゼロ!』
『すご~い! ヤバすぎる~!』
コメントがまた荒れてきた~。
『ちょっとみんなマジでおかしくない? なんでクリアできないの? イベント大失敗じゃない?』
知るかッ! このままお前らの命もカウントダウンしろッ!
とりあえず新年明けたと同時にUNKO本社が爆破したら引き続き新年花火大会として生配信をお願いします。
そんな中、左にいた白系コーデ地雷がさらなるテロップを画面外から持ってきた。
どんっ
『あんまりにもひどいので、今いるローグダンジョンにいる人たちの状況をお伝えすることになりました~』
『よくある大人の事情ってやつだね~』
『大人の情事にしたらウケるよね』
うけません。さっさと進めてください。
『まず! レベル統計です!』
『イェーイ!』
『これはローグダンジョンに入る前のレベルをもとにグラフにしていまーす!』
LV 90~ ■■■■■■
LV 80~ ■■
LV 70~ ■
LV 60~ ■■
LV 50~ ■■■
LV 40~ ■■
LV 30~ ■■
LV 20~ ■
LV 10~
LV 0~ ■■■■■■■■
よくこんなバランス悪い分布になるもんだな……。
『カンストクラスのプレイヤーと、作ったばっかりのキャラがぶっちぎりだね!』
『廃人と賞金目当ての新人なのかな~?』
栗色ショートの質問に、黒髪ロングの地雷がちっちっちと舌をならしながら人差し指を左右に揺らした。
『最初はね、廃人組と新人組で分かれてたんだけど、今はなんでか混合組が多いんだ』
『廃人と新人が手を組んでなんか意味ある~?』
そういったかと思うと。
二人の地雷系アイドルが、挑発的な視線を同時にカメラに向けた。
『攻略班は気がついたみたいだね~』
『残り2時間強! 新年が開けるまでに、君たちの活躍を待ってるよ~』
イベントが成功しないと私たち次の仕事ないんで~。
そういって、クソみてえな二人の地雷系アイドルが映っていた青白いウインドウは閉じて消えた。あとコメントは前以上にクソ荒れた。あとなぜかマジでなぜかスパチャが入っていた。なぜ?
*
西洋人形のようなドリアード。
そのかわいらしい首ごと風穴を開けきった、針葉樹の根元。
出現した8階へのポータルを前に、俺たちは立ち尽くす
二つの小さな、手のひら大のクリスタルのような結晶。
プレイヤーが死んだあと、10分間だけスキルを継承させることができる意志のかたまり。
杖を握るをハルを横に、悔しさをにじませたような表情の莉桜が結晶を握りしめていた。
「莉桜……☆」
「ごめんね、ハル」
瞬間、強い光が莉桜を覆った。
新たなスキルの継承。それが何のスキルなのか、俺にはわからない。
だが二つの結晶が砕け散ったかと思うと、確実に。
莉桜の体の中に吸い込まれるかのように消えていった。
光が消えた後。
心配したような表情のハルを前に、莉桜がいつになく真剣な表情でハルを見ていた。
「私は、やっぱりこのゲームをクリアしたいんだ……」
「そんなの——」
小さなハルが、小さく首を横に振り。
軽く声をあげて小さく笑った。
「とっくに知ってるよ☆」
「くり返しで悪いんですけど」
重苦しい空気の中。
同じく真剣な表情のバ美・
「クソハルさんは10階を突破することはできませんわ」
「お前……!」
どういう選択肢ならそうなるんだ? なんでその内容から始める? このクソヒーラーは空気というものを読む気はないのか?
案の定、再びハルと莉桜の表情に怒りが見えはじめた。
「いや、これには事情があって——」
「そして、私もクリアできませんわ」
俺の、取り繕ったような言葉。
それを強引に消し飛ばすような、クソ巻き毛ヒーラーの一言。
だがその悔しさしか感じられない口調と表情が、誰一人それに口を挟ませることを思いとどまらせていた。
だが突然。
俺たちの足元から強烈な直下型地震のような振動が、フィールドごと波打つかのように強烈に叩きつけられた。
「なんだ!?」
「あ……!」
生まれたての小鹿みたいに地面に四つん這いになったしょーたろーが、ぽっかり穴のあいた針葉樹を見て大きく声を上げた。
俺たち視線の先。その中心にそびえたつ、大きく穴を穿たれた針葉樹。
その穴がゆっくりと、その傷をふさぐかのように修復し始めた。
「針葉樹が……!」
「なぜだ? 次のPTでも来るのか?(小声)」
だが問題はそれではなかった。
針葉樹の前に空くギュインギュイン光るポータルの環が、少しずつその範囲を狭め始めていた。
「ポータルが閉じます!」
「なんにせよ急いだほうがよさそうだな(小声)」
「クソハルさん」
全員がポータルへ駆け込む中、強烈な振動に微動だにしないバ美・肉美(どんな体幹なの?)が、ハルを見て静かに口を開いていた。
「言い訳はしませんわ。クソハルさんが私に対してどう思ってるのかは理解できますもの。でも、年明けまで残り2時間強。ここで足を止めたら、年内にこのローグダンジョンをクリアするチャンスはもう二度ときませんわ」
「早くしろ!!!」
閉じゆくポータルに飛び込む直前、俺はいまだ動きを見せない三人に向けて全力で叫んだ。こんなただ間に合わなくなってゲームオーバーなんて終わり方、俺は絶対に認めんぞ!
「詳しい話は8階で説明しますわ」
地面が割れるほどの揺れの中、バ美・肉美がそれでもなお続けていた。
「一つ言えるのは、確実に。これから先に行くには、あなた方が絶対に必要だってことですわ」
ポータルが、閉じてしまう。
焦る俺の前、バ美・肉美を強くにらんだ莉桜が。
ハルの腕を強引につかんだまま、俺の立つポータルへ向かい歩みを進めてきた。
「私は、あんたと仲良くつるむ気ないからね」
「かまいませんわ」
「行くぞ!」
俺は、消滅する寸前のポータルの中へ。
残りの三人と同時に、体をねじ込むように突っ込んでいった。
8階は、よりいっそう理解の追いつかない状況になっていた。
滝。
のように流れる溶岩流。
あたり一面がとろける地獄のマーマレード。どうして塔の中のダンジョンがこんなありさまになる? というくらいだだっ広い活火山。7階と同じく異空間☆ワンフロア形式なのかすらわからんが、とにかく空を覆う区画もないただのフィールドのような空間の中、まるで「一応部屋の区切りとしてご用意しました~」と言わんばかりの溶け切ってない岩の道がいたるところに走っていた。
どうやったらこんなフロアを正気で……。VRMMOって熱を感じる機能もついてるのにどうしてこんな拷問のようなフロアを……?
「VRMMOで目が痛くなることってあるんですね……」
ひたすらに手で目をこするしょーたろーが、あきれたような声を上げた。
目が痛い……。なんなのこれ……。火山性ガス? それとも遠赤外線? このフロアを通過するころには俺たちは自分の網膜で焼き肉を作る羽目になる?
「もうなんかこのゲームのデザイナー絶対テストプレイしてないんじゃないかって思ってきた……」
「溶岩に落ちたら焼かれる感覚とかあるんですかね……」
いやすぎる。溶鉱炉に溶けていくクライマックスだけは避けなければならない。
「それよりも(小声)」
それよりも? これよりも気になることって何?
ポータルの出口をうろつく不審者(全身黒づくめですし)が、こちらです、というようなポーズで両手を構えたまま、俺たちを満面の笑みで眺めていた。狂気。
「また意味の分からんもんが建っているぞ(小声)」
意味の分からんもんはお前だけにしてください。
だがそんな俺たちの裏手、モブ子の視線の先に、溶岩流が届かない入り口付近の崖際に「ログハウス」が建っていた。
なぜそんなものがここに? 材料は一体どこから? こんな状況でも入れる火災保険ってありますか?
「おかしいですわね……」
後から来たバ美・肉美が、あきれたような声を出しながらログハウスを見ていた。
「前来たときはこんなもの建ってませんでしたわ……?」
ってことは誰かが建てた?
「拙者みてくるね(小声)」
だがそんな俺たちの疑問をすべて解決してくれるさっすがぁ! なモブ子さんが、速攻でハイドしたかと思うとログハウスのほうに流れるように移動していった。こいつ、絶対鳥とか捕まえる変な罠に最初にかかるタイプだと思うわ。
そんな俺の感想をぶっちぎるハイド中のモブ子が、SOUND ONLYのままログハウスの入り口にある段差のような階段を上り、よう作ったなと言わんばかりの丸太でできたドアに張り付いたかと思うと。
一瞬の間の後、勢いよく扉が開けられた。
「なんだ!?」
開けられた扉に叩きつけられたかのように吹っ飛ばされたモブ子。
その哀しみのアサシンが階段をもんどりうって戻ってくる中、俺たちは一瞬で武器を取り身構えていた(なおモブ子のHPはミリで削れていました)。
あけ放たれた扉から、勢いよく飛び出してきた数人の戦士。
武器を取り身構えた俺たちの視線の先。
警戒するように武器を構える戦士たちの奥から、一人の。
手入れなんて絶対してないんでしょうねっていうようなもみあげと顎髭がくっついた、野蛮というのを絵にかいたような大男が、大剣とともにのっそりと姿を現した。
「なんだ、ただのプレイヤーじゃねえか」
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