5. セリヌンティウスは激怒した。必ずかのアサシンをぶち殺さねばならぬ
俺たちは、考え違いをしていたのかもしれない。
傭兵を出しておけばなんとかなる。そうじゃない。傭兵を出してもアサシンが上回れば死ぬ。そして商人にかけたコストもろとも減るだけだ。かといって傭兵を出さなければ問答無用に商人は死ぬ。
クソゲ~~~~☆
「傭兵を出す人間を集めないと、結局勝てないと思います」
しょーたろーが真剣な顔をしていた。
「あと、全員がどんなカードを出してたのか。それを理解しないと勝てない気がしてきました」
「全員……?」
一瞬、俺はウインドウの数字を確認した。
「残り時間、あと4分しかないぞ?」
「ちょっくらいってくるぜ☆」
「え?」
突然、ハルが灰色のフロアを全力疾走しはじめた。
「あいつ……!!」
広い灰色のフロアの中、散り散りになったプレイヤーたちのところへハルが突撃していった。
かと思うと、何かを身振り手振りで話しをしている。
「あいつ何やってんだ?」
「さぁ……」
一通り、忍者とバ美・
「ふぅ~☆」
「おかえり」
「我ながらよく2分でできたと自分でも感心するよ~☆」
「何話したんですか?」
ハルがくるっと回転して謎のポーズを決めた。
「こっちは傭兵を出すから、そっちも傭兵出してってお願いしてきたんだよ☆」
単純~。
だが一瞬、俺の頭に嫌な予感が走った。
「なあ……。これって、俺らがアサシンを出さないっていう手の内を晒してるってことじゃないのか……?」
「あ☆」
ハルが笑顔のまま硬直した。
突然、ウインドウから警告音が鳴った。
初めて聞く音。こんな音、今までに地震速報でしか聞いたことがない~。
残り時間が1分を切っている。
「どうすんだこれ!」
「とにかく何かカードを出さないと!」
「とりあえず【商人2】と【傭兵1】でいいんじゃね~?☆」
残り30秒。
「いや……」
しょーたろーが小さく声を上げた。
「今回、あえて『これ』でいってもらえませんか」
『それでは4回戦目の開封を行います』
アナウンスが流れはじめる中、中央に表示されるウインドウを見るべくプレイヤーがわらわらと集まってきた。
よく見たら、遠くのほうでクソ忍者sが意味の分からない格闘練習をしている。余裕すぎんだろ殺すぞ。
結果発表待ちのウインドウを真剣に見つめていたしょーたろーに、俺は小さく声をかけた。
「なあ。なんで、あえて商人の数を減らしたんだ?」
「多分なんですけど……」
しょーたろーが、中央に表示されるであろう数をただひたすらに凝視している。
「うまくいけば、いい結果になると思います」
『結果
商人: 7人』
「は?」
忍者sから声が上がった。
商人、少なくない?
『傭兵: 3人』
「おい」
思わず、俺は声を出していた。
すごい、なんか、嫌な予感がしてきた。
なんだろうよくわかんないけどすごい嫌な予感。
『アサシン: 8人』
「はあああああああああああああ!!!!!!!!!?????」
遠く、忍者たちが絶叫した。
『結果、行商は失敗、アサシンの同士討ちが発生しました。皆さんの所持金は以下のようになります』
A 【 110 G】 (C -25)
B 【 110 G】 (C -25)
C 【 110 G】 (C -25)
D 【 35 G】 (C -15)(P -300)
E 【 160 G】 (C -60)
F 【 45 G】 (C -5) (P -100)
G 【 85 G】 (C -5) (P -100)
H 【 275 G】 (C -20)
I 【 -5 G】 (C -15)(P -300)
突然、NINJAの足元に穴が開いた。
「ちょっ!」
『プレイヤー I は、所持金が枯渇したため強制退場となります』
突然の地面の消失に、落下しはじめたNINJAが瞬間的に手から鎖を放った。
NINJAの投げた鎖が、隣にいたモブ子の腕に絡まった。
「モブ子! 助けろ!」
「ええ~?(小声)」
あからさまに嫌そうな表情のモブ子が、それでも落ちたNINJAを穴から引き上げるかのようにたぐり寄せていく。
瞬間、穴から強烈な火柱が吹き上がった。
一瞬だった。
一瞬で吹き上がった火柱が、つないでいた鎖を完全に溶かした後、穴の中に落ちたNINJAを完全に焼却させていた。
穴の中からちりのようなものが舞った後、一瞬で穴が閉じ、再びコンクリだけの無機質な床に戻っていた。
「即キャラデリといったはずだ」
突然、ドームの中に声が響いた。
中央に表示されていたウインドウに、ゴスロリ少女の顔が表示された。
相変わらず、含みを持ったようないやらしい顔。
「資金の枯渇は即キャラデリだ。5回戦目は8人で続行する。お前たちの協力を心から期待しているよ」
完全にお通夜モードだった。
クソ忍者が死んで喜ぶべき状況のはずなのに、俺もしょーたろーも葬式のような表情になっていた。
マジでキャラデリされる。冗談抜きで。
「お、おっ、おっ」
噛んだ~。
「俺たちもああなるのか?」
「大丈夫、大丈夫……」
しょーたろーが、念仏のようにくり返し文言を唱えている。完全に自分を言い聞かせるモードに入っていた。
「すっごいスッキリ~☆」
ハルが満面の笑顔で手を叩いていた。
助かる~。こいつのこの毒舌能天気な性格はこんなとき本当に清涼剤~。まるで泥水しかないところに沸いて出たようなゲボ水~。
「これでアサシンぶっこんでくるバカも減るよ~☆」
「あ、そっか」
ふと忘れていた。
あのクソ忍者がいなくなれば、少なくともアサシンぜんつっぱしてくるバカは一人確実に減ったのだ。
「なら後は【商人】と【傭兵】出しとけば安全じゃね?」
「わかんないです」
俺のちょっとテンション上がった声に、しょーたろーがくら~い表情で返してきた。
「E以外。モブ子さんも含めて全部アサシンを入れてきた連中です。いつどこでアサシン入れてくるかわからないです」
「あんな処刑を見ても?」
「ほかの人の点数を見てください」
しょーたろーの声で、俺は中央に表示されている点数を再度見た。
F 【 45 G】 (C -25)(P -100)
G 【 85 G】 (C -25)(P -100)
「100Gすら達成してないのがモブ子さんのほかに2人います。こいつらが道連れを選んでこないとも限らない」
考え方がくら~い。
「それに——」
H 【 275 G】 (C -25)
「前回アサシンを入れてたHは、今回商人を出してる。今回ハルさんの動きをみてアサシンが増えると思って切り替えたんだと思います……」
「なんだそいつ……」
なんなの? カードゲームのプロなの?
「こんなのがもし他が出してきたアサシン3とかに乗っかられたら、傭兵が足りなくなって貫通されます」
「じゃあ傭兵を増やす?」
「僕たちは今110Gなんですよ!」
しょーたろーが叫んだ。
「傭兵を増やしてもアサシンが上回ったらコスト分だけで30も使ってしまう! あと3回、傭兵だけを出して最低コストだけで最後まで乗り切るなんてこともできない! もう5Gだって無駄にできないんですよ!」
またしょーたろーが念仏を唱え始めた。
やべえな。こいつ本格的にメンタルやりはじめたな。キャラデリがかかるとこうなるのか?
というかむしろ俺のほうが麻痺してるのか?
「なあ」
突然、後ろから声がした。
筋肉長髪戦士と、金髪キノコヘッドの二人だった。
「あんたら、3人でチーム組んでるんだろ? うちは俺とこいつ、二人いる。カードを合わせて出さないか?」
「俺はガッデム。隣のこいつはスズキ。俺たちは、NINJAのいけにえで連れてこられた」
ガッデムと名乗った筋肉長髪戦士は、俺たちが会話していた手前のところでゆっくりと腰をすえはじめた。
「正直もう、安全に終わらせたいんだよ。商人と傭兵を出して、少しずつ稼いで終わりにしたい」
わかる~。
「あんたたちA、B、Cだろ? ずっと商人と傭兵出してたような点数の変動をしてる」
「なんでわかるんですか」
俺の突っ込みに、隣のスズキと呼ばれたキノコヘッドが何かしらメモのようなものを取り出した。
全員の点数の変動がみっちり書き込まれた謎のexcelみたいなものが出てきた。
細かい~。
キノコヘッドが口を開いた。
「点数を記録してたんだ。あんたたちが最初からずっと傭兵を混ぜてたのは知ってる。俺たちは様子見で少しずつ商人を入れてた」
キノコヘッドが乾いた笑いを出した。
「言い方は悪いが、俺たちも小心者なんだよ」
そういやこいつ、一番最初にあのゴスロリ少女に「なんもしてないのに何で!」っていって突っかかってたな。
俺はちらっとウインドウの残り時間を見た。
すでに2分を切っている。
ガッデムが静かに続けた。
「俺たちも商人と傭兵を出す。念のために俺は2人傭兵を出す。そうしたら合計で6人。残り3人のうち二人がアサシンだけを出してきても同数で耐えられる」
「残りの一人も——」
しょーたろーが、真剣な顔で口を開いた。
「アサシンを入れてきたら……?」
「それは多分ないよ」
キノコヘッドが表を見せてきた。
「俺たちはFとG。残りはあの忍者とE、H。忍者はアサシン入れてくるとしても、EとHの初回からの動きは――」
E
1 【 190 G】 (C -60)(E +150)
2 【 280 G】 (C -60)(E +150)
3 【 220 G】 (C -60)
4 【 160 G】 (C -60)
H
1 【 160 G】 (C -40)(E +100)
2 【 250 G】 (C -60)(E +150)
3 【 295 G】 (C -5) (E +50)
4 【 275 G】 (C -20)
「見ての通り、Eは初回からずっと商人3しか出してない」
バカなのかな?
「Hはアサシン出してくるかもしれないけど、今までに1人しか選択してない。それに相当慎重な出し方してる。おそらく行けると思う」
俺は少し身を引いて、不審げなしょーたろーと能天気なハルの頭を引き寄せた。今気が付いたけどこいつらの頭って小さいのね。
「……どう思う?」
「どうもこうも乗るしかないんじゃ……」
「いいんじゃね~?☆」
アラームが、けたたましく鳴った。例の地震速報もドン引きするような不快音。
振り向いた俺は、無言でガッデムとキノコヘッドにうなずいた。
緊張していたガッデムとキノコヘッドが、助かったような顔でウインドウを操作しはじめた。
「成立だな」
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