4. まじめにやってるほうが損をするって人生みたいで超クソゲー☆

 俺は、指が止まっていた。


 目の前に広がる透明なウインドウの中で無駄にかわいらしくモーションをとる3つのキャラ。


【商人】【傭兵】そして【アサシン】


「そもそもアサシンを出す奴がいなければ傭兵なんていちいち出さなくてもいいんですよ……」


 しょーたろーがぶつくさ文句を言い始めた。


「全員商人だけ出してれば全員ステータスポイントが増えるのに、なんでアサシンなんか出す必要があるんですか?」

「嫌がらせなんじゃね~?☆」

「草(小声)」


 草。じゃねえよ。


 俺はウインドウとにらめっこしながらげんなりした顔で三人のやり取りを聞いていた。


 そりゃそうだ。

 アサシンなんて出さなければ全員仲良くゴールできる。キャラデリだって回避可能だ。なんでいちいちアサシンなんか出すんだ?


「1位狙いなんじゃないか?」

「1位?」

「ほら1位になると100Gが最後に加算されるっていう」

「でも最初から失敗して最下位になってたら意味なくないですか?」

「嫌がらせなんじゃね~?☆」

「草はゆる夏(小声)」


 俺は引き続きげんなりした顔でドームを見わたした。


 俺たち以外、残りの5人。

 NINJA、バ美・肉美にくみ、金髪マッシュルームカットのひょろがりと長髪筋肉戦士、そして変な炎みたいな髪型の男。

 この中で誰かがアサシンを出した。


「残り2分しかないな……」


 俺のつぶやくような言葉で、全員が沈黙した。


「俺は、【商人2】と【傭兵1】で出す。またアサシン入れられたらシャレにならねえからな……」







『それでは2回戦目の開封を行います』


 中央に表示された円筒形の巨大なウインドウから、相変わらず無駄にかわいい声でアナウンスが始まった。


 灰色のコンクリ打ちっぱなしのクソ広いドームの中で、俺たち以外のプレイヤーは散り散りのまま中央を見上げていた。


『結果


 商人: 23人』


「23!?」


 しょーたろーが思わず小さく叫びをあげた。


『傭兵: 3人

 アサシン: 0人


 結果、行商は成功しました。皆さんの所持金は以下のようになります』


 中央に表示されたバカでかいウインドウに、前回と同じく一瞬で文字列ががーっと表示された。


 A 【 180 G】 (C -45)(E +100)

 B 【 180 G】 (C -45)(E +100)

 C 【 180 G】 (C -45)(E +100)

 D 【 215 G】 (C -60)(E +150)

 E 【 280 G】 (C -60)(E +150)

 F 【 190 G】 (C -40)(E +100)

 G 【 250 G】 (C -60)(E +150)

 H 【 250 G】 (C -60)(E +150)

 I  【 175 G】 (C -60)(E +150)


『3回戦目の準備時間が始まりました。みなさんカードを選択してください』


 アナウンスとともに、中央を眺めていた人間のうち2人(バ美・肉美とNINJA)が、全然こんなの興味がないんですっていうかのように元の所定位置に戻っていった。


 俺は、まだ画面を見ていた。


 アサシンが、0人。

 俺は素直にちょっと感動していた。


「すげえな……。誰もアサシン出さないで平和に終わるってありえるんだな」


「……ちょっと」


 しょーたろーが、めずらしくお怒りのようなご様子で声を上げた。


「誰です? 傭兵出さずに商人だけ出した人」


 あ。

 そういえば傭兵って3人。


 結構きつめの視線が俺たちに向けられてきた。


「多分AからDが僕たちです。でもD一人だけが余分に増えてる。誰なんですかこのDは」

「俺は、出したょ」


 ちょっと声がうわずっちゃった~。

 なんで? なんで俺うわずっちゃった? 別に悪いことしてないしそのまんまなのになんで?


「疑ってんじゃねえぞ~☆」

「私も出したぞ(小声)」


 裏切者がいるッ!


 だが視線は、なんとなく自然と。モブ子に集まっていた。


 全員の視線を受けたモブ子が、両手を胸の前に上げながら乾いた笑いを出した。


「お前ら、もう少し人を信用するということを覚えてほしい(小声)」

「別に、全員同じにしないといけないってわけじゃないからいいんですけど、抜け駆けするくらいならせめて言ってくださいよ……」

「ギスギスしてきた~☆」


 なんとなくやべえ雰囲気~。


 なんかヤバイ感じになってきたので俺はとっさに声を上げた。


「でも、俺はちょっと感動したよ?」

「え?」

「アサシン出さないでもこのゲーム成り立つんだなって」

「まあ、それはそうなんですけど……」


 しょーたろーが、ドームの中央、バカでかく表示されている全員の所持金を見ながらつぶやいた。


「なんか嫌なんですよ。全員のために傭兵を出した人間が損をするって、なんかすごい納得がいかないんですよね……」


 う~ん。

 まあ気持ちはわかる。


「あと2分しかないよ~☆」


 ハルの能天気に焦った声で、全員が手元のウインドウに視線を移した。


 手元のウインドウに映る無駄にかわいらしい3種のキャラクター。


「なあ」


 手元を見ていたしょーたろーに、俺は声をかけた。


「俺は、悪いけど今回も傭兵入れるわ。俺は別に1位とりたいわけじゃないし、キャラデリになるのが怖いんだよ」

「まあ、そうですよね……」


 多少、何か言いたそうな気配を感じながらも、しょーたろーが俺を見て無言でうなずき返した。


 俺は踊る【商人】と【傭兵】のキャラクターを押した。







『それでは3回戦目の開封を行います』


 わらわらと集まってきた全員が、中央のバカでかい円筒形のウインドウを見上げていた。


『結果


 商人: 14人』


「は?」

「え?」


 14人?

 なんで? なんでさっきの23人からこんなに減った?


『傭兵: 3人』


「あ……!!」


 しょーたろーが、小さく叫びのような声を上げた。


 いやな予感がした。

 なんとなく、察した。


 商人と傭兵の数が少なすぎる。俺でもわかるくらいにいやな予感が背筋を走った。


『アサシン: 7人』


「あああああああああ!!!!!!!!!」


 しょーたろーから絶叫のようなものが上がった。


『結果、行商は失敗、アサシンの強奪が成功しました。皆さんの所持金は以下のようになります』


 A 【 135 G】 (C -45)

 B 【 135 G】 (C -45)

 C 【 135 G】 (C -45)

 D 【 350 G】 (C -15)(E +150)

 E 【 220 G】 (C -60)

 F 【 150 G】 (C -40)

 G 【 190 G】 (C -60)

 H 【 295 G】 (C -5) (E +50)

 I  【 310 G】 (C -15)(E +150)


『4回戦目の準備時間が始まりました。みなさんカードを選択してください』


 無駄にキュートな声のアナウンスが終わった後、崩れたしょーたろーが憤怒のような形相で俺たちを見ていた。


「……このDって誰なんですか!」

「いや、俺じゃないよ……」

「ウインドウ開いて画面見せてください!」


 鬼気迫る表情でつっかかってきたしょーたろーが、強引に俺のウインドウを見てきた。


 俺の【所持金135G】を見た後、すぐにハルへ走った。


 動きが止まった。

 鬼のような視線が、モブ子を見ていた。


「ハハッ(小声)」


 モブ子が突然、軽く手を叩き始めた。


「ハハハハッ(小声)」


 少しずつ下がり始めたモブ子に、後方から近づいてくる影があった。


 高身長で、顔を含め全身を包む真っ黒な布と鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できないあたまのおかしいセンスをした男。


 NINJAだった。


 乾いた笑いが止まった。


「拙者たち【アサシン】なのでッ!」

「てめえ……!!」


 掴みかかるような俺を前に、モブ子が涙をたたえながら笑顔で言葉をつむいだ。


「すまんな。お前たちと違って、我々悪質プレイヤーの目標金額はそのギルティによって高く設定されてるんだ。素直にゲームやってたら達成ができそうになくてな(小声)」

「お前マジモンのクソだな~☆」

「おっと」


 NINJAが手のひらをひらひらと体の前で動かした。


「悪いがこのエリアはPK禁止エリアだ。拙者たちには手出しはできんぞ」

「この……!!」


 俺たちが思いつく限りの罵詈雑言ばりぞうごん(主にバーカ)を投げつける中、笑いながら二人の忍者が去っていった。


 しょーたろーが、無言で膝をついていた中、突然叫び始めた。


「人をいけにえで呼んでおいてなんなの!?」


 めずらしくブチぎれていた。


「絶対! 私絶対にあいつら許さないからね!」


 中の人が透けてる~。利発な少年RPロールプレイはどこいった~?


 しばらくの沈黙の後、一息ついたのかしょーたろーからこぼれるようなため息が出た。


「考えてもどうしようもないですね……」

「そうだな……」


「そんなことより気になる点があるよ~☆」


 そんなことより。


 画面を見ていたハルが声を上げた。

 こんなことより気になることって何?


「アサシン7人ってことは、あいつら以外にもアサシン出してるやつがいるはずだよ~☆」

「あ」


 そうだ。


 一人が出せるカードの最大数は3枚。

 7ということは最低でも3人いる。


 中央のウインドウを俺としょーたろーが見上げた。


 H 295 G(+50)


「このHってのは誰なんだ?」

「わからないです。ただ――」


 しょーたろーが、ドームの反対側で踊る忍者どもを鬼のような形相でにらんだ。


「あのクソ連中と合わせてたなら、アサシン9人になっててもおかしくないはずです」


 フロアに散らばる人間を見渡した後、しょーたろーが小さく続けた。


「このタイミングでアサシンを出せば傭兵を貫通できる。そんな読みができる人間ってことなんだと思います」


 あのクソ忍者をのぞいた残りの4人。

 この灰色の無機質なドームに散らばる誰ともつるんでいない連中。


 金髪キノコヘッド。

 筋肉長髪戦士。

 炎みたいな髪型野郎。

 バ美・肉美。


「嫌な予感がします……」

「バ美・肉美じゃねえの~☆」

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