3. こんなクソゲーを思いついたやつは絶対に性格が悪いので反省しろッ!
説明が始まった。
画面に広がるなんだかよくわからない妙に愛らしいマスコットみたいなキャラクターが長々と説明をする中、俺はただ真剣に。キャラデリがかかるというこの地獄のゲームのルールを覚えるのに必死になっていた。
要約するとこうだ。
このゲーム——アサシンゲームは、どうやらこの9人の集団でおこなうゲームらしい。
俺たちが全員持ってるカードは【商人】【傭兵】、そして【アサシン】の3種類。それらを全員が出し合って、その結果がどうなるかによって手持ちの資金が変動する。
それぞれのカードには、以下のような特性がある。
※ 長いのでめんどくさい人は読み飛ばしてね ☆
【商人】
使用コスト20
アサシンに襲われると死ぬ。傭兵がアサシンの数を上回っていれば生存する。
無事生存した場合、一人につき50Gの売り上げをもたらす。
【傭兵】
使用コスト5G。
傭兵の数がアサシンを上回ると、無事商人を護衛できる。
生存しようがしまいが売り上げには影響はない。
【アサシン】
使用コスト5G。
傭兵の数を上回ると商人から売り上げを強奪することができる。アサシン一人につき50Gの強奪。失敗してもコスト以上に支払うことはない。
ただしアサシンの数が商人の数を上回ると同士討ちが始まってしまい死ぬ。アサシン一人につき100Gの損失をもたらす。
最後に、玉座に座った少女が説明を追加した。
【共通ルール】
全員100Gからスタートする。なおこのフィールドではすべてのPK行為は無効となる。
ゲームは7回まで行われる。制限時間は一回のゲームにつき10分のみ。全員がカードを選択した段階でオープンとなる。制限時間内にカードを選択しなかった場合は罰金50G。
7回のゲームが終わり1位で通過したものには100G、2位で通過したものには50Gが追加で付与される。
同時に出せるカードは最低1枚から最大3枚まで。商人と傭兵の組み合わせは自由だが、アサシンはアサシンのみでしか出せない。
自身の持つGを超えるコストのカードは出せない。
つまり、手持ちの資金が0以下になった時点で、何もカードが出せなくなる。
すなわち敗北。
即、キャラデリ。
「質問には答えない」
少女が鞭を握ったまま冷徹に声を出した。
「なお、最後の7回戦目を終わった後でも所定の目標金額を満たさなかったプレイヤーはキャラデリとなる。各自で自分の画面を確認しておけ」
ひきつった表情のまま、俺は自分の前に広がった半透明のウインドウを確認した。
所持金額 【 100G 】
目標金額 【 100G 】
あれ? バグかな?
初期値と変わんねえぞ?
「なお、活発なゲームになることを目標とし、お前たちにインセンティブを渡す。目標金額を上回った分は——」
再びだった。
形容しがたい、ゆがんだ笑みを少女が浮かべた。
「そのままステータスへ加算ができるボーナスポイントとなる。活発なゲーム活動を期待しているよ」
玉座を載せたコンクリートの円盤が、少女の声とともに一瞬で天井へ飲み込まれて消えた。
『1回戦目の準備時間が始まりました。みなさんカードを選択してください』
場違いにかわいらしい声のアナウンスが、灰色に包まれた無機質なコンクリートむき出しのドームに響いた。
「なんだこれ……」
俺はちょっと、いやかなり何が起こっているのか理解ができなかった。
キャラデリってなんなんだ? そもそもあのゴスロリはなんなんだ? 運営なのか?
それよりも何よりも、なんで俺がこんな地獄のようなゲームに――
「おいモブ子!!!」
となりで床にラグジュアリ~に寝転がるモブ子の胸ぐらをつかんだ。
モブ子が飲み始めていたストローつきのジュースが手から離れて床に転がり、っていうかなんでこんな余裕しゃくしゃくなんだこいつは。PKが許されないフィールドって事前対策万全だな!
「なんなんだお前!! なんで俺らがこんなゲームに呼ばれてんだよ!!」
「運営が、こういったのだ(小声)」
全力でぶちぎれてる俺の顔面に、モブ子が困ったような笑顔をしながら声を上げた。
「友人を参加させるならばお前にも最後のチャンスをくれてやると(小声)」
「俺たちを売りやがったのか……!!」
「本当は、NINJAをいけにえにするつもりだったんだ(小声)」
いけにえって。
「ただあいつは【友人枠】じゃなくて【本人枠】ですでにエントリーされてたもんだから呼び出せなくて困っちゃった(小声)」
「知るか!!!」
「まあヒロさん」
モブ子にビンタを連打する俺の前に、身長の足りてないしょーたろーがバレーのアタックを防ぐような感じで割って入ってきた。
「むちゃくちゃなゲームですけど、考えようによってはチャンスですよ」
「は?」
PK無効のせいなのか
「目標金額と初期金額が同じって、普通にゲームやってればボーナスポイントが相当稼げそうな気がします」
「え?」
しょーたろーがどっからか取り出したメガネをつけて説明を始めた。
「このゲーム、普通に考えて、全員商人を出せばみんな所持金が増えていくんです。たまに変なアサシンがいても傭兵を混ぜればなんとかなるはず。順調にいけばじわじわと所持金が増えていくゲームのはずです」
「あのクソ長い説明だけでよくわかったな~☆」
しょーたろーがちょっとだけ得意げに鼻息を荒くした。
「終わるころには多分、僕たちみんなボーナスポイントもらって終われますよ!」
「そうなると思ったからこそ、お前たちを呼んでみたんだ(小声)」
「お前は死んで詫びろ~☆」
とりあえずPK無効フィールドってこともあるので、俺はモブ子の胸倉を手放した後あたりを見回した。
このドーム。コンクリ一面の空間にいるのは俺たちを含めて9人。
俺
しょーたろー
ハル
モブ子(クソ)
NINJA(クソ)
あとはさっきの金髪マッシュルームカット。あいつも誰かのいけにえなのか?
あとなんかよくわからん戦士なのか筋肉ムッキムキの長髪、それとわけのわからん炎みたいな髪型をした男、それに——
「また会いましたわねクソハルさん(笑)」
金髪縦ロールのゴリラ。
ゴリラッ!
「バ美・
「なんでしたっけ。ジロリアンでしたっけおめぇは」
忘れませんわ! とかいっておいてさらになんかよくわからん名前にされてる。
「ヒロだ……」
「そんな背脂の対極みたいな淡白な名前でしたっけ……?」
バ美・肉美がなんだこいつというような顔で俺を見た。
「まあそんなことはどうでもよくて。今回の私はエンジョイエリアボス争奪戦のときのようにおめぇらとなれ合うつもりはございませんの(笑)」
「お前から声かけてきておいて何いってんだてめぇ~☆」
「クソハルさんもせいぜいキャラデリされないようにお踏ん張りくださって(笑)」
ふぁっさ~っと縦ロールを手で煽りながら脳筋ヒーラーが去っていった。
「毎回思うがあいつの日本語は何方言なんだ?」
「さあ……。あっ」
しょーたろーがウインドウの数字を見て小さく声を上げた。
「残り3分を切ってます。カードを選択しないと罰金になります」
「カード……」
しょーたろーの声に先導されるように、俺たち全員が各自のウインドウをのぞきだした。
3体の、無駄にかわいいキャラが【選択してください】というコメントと一緒に動いている。
「どういう選択がいいと思う?」
「ええ~?」
あからさまにしょーたろーが嫌そうな声を出した。
「僕が決めるんですか?」
「いや、俺こういうの全然わかんないし」
「商人出そうぜ~☆」
「無難に商人と傭兵でも出せばいいんではないか?(小声)」
しばらく悩んだ後、俺は画面で【商人】と【傭兵】を一人ずつ選んでいた。
「最初のうちだしな……。様子見ってのもあるし」
ドーム全体に響くようなブザーが鳴った。
『それでは1回戦目の開封を行います』
あいかわらず無駄にかわいらしい声をしたアナウンスがドームに響いた。
ドームの中央に円筒形のウインドウが出現する。多分ここに表示されるんだろう。
『結果
商人: 12人』
ウインドウの表示とともに、数が読み上げられ始めた。
「商人12人って、2人以上出した人がいるんですね」
『傭兵: 4人』
「傭兵4人ってことは、俺たちだけが傭兵を出したってことか?」
「多分」
『アサシン: 3人』
はぁ~? 初手、アサシン3人?
『結果、行商は成功しました。皆さんの所持金は以下のようになります』
中央に表示されたバカでかいウインドウに、一瞬で文字列ががーっと表示された。
A 【 125 G】 (C -25)(E +50)
B 【 125 G】 (C -25)(E +50)
C 【 125 G】 (C -25)(E +50)
D 【 125 G】 (C -25)(E +50)
E 【 190 G】 (C -60)(E +150)
F 【 130 G】 (C -20)(E +50)
G 【 160 G】 (C -40)(E +100)
H 【 160 G】 (C -40)(E +100)
I 【 85 G】 (C -15)
『2回戦目の準備時間が始まりました。みなさんカードを選択してください』
「ちょっ!」
いきなり次のゲームに連続していくのかよ!
っていうか C- 25ってなんだ?
「【 85 G】 (C -15)って……」
しょーたろーが小さく声を上げた。
「Iの85Gって、あれ一人でアサシン3枚出したってことですか……」
「やっぱ傭兵入れといてマジで正解だったな……」
「アグレッシブなのがいるよ~☆」
俺はとっさにドームを見わたした。
俺たち以外、残りの5人。
NINJA、バ美・肉美、マッシュルームカットと長髪筋肉戦士、そして変な炎みたいな髪型の男。
誰かが。
この中の誰かがアサシンを3人初手でぶち込んできている。
多分どうせNINJAなんだろうな~。
「問題はそこではないな(小声)」
画面を見ていたモブ子が、静かに声を出した。
「Eが190G。それに160Gに130Gと続いている。我々の125Gは成功したかのように見えて実は最下位だ(小声)」
しょーたろーがはっとしたような顔でモブ子を見た。
「気づいたか。我々が傭兵を雇う分、ほかの連中が得をしている。傭兵を出さなければ食われるのに、傭兵を出せば所持金が増えにくい(小声)」
モブ子が、まるであのゴスロリ少女のような顔で楽しそうに笑った。
「協力すれば全員儲かるのに中途半端に協力すれば損をする。これはとんだクソゲーのようだな(小声)」
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