第17話 捜査開始直前


 冒険者ギルドに説明と依頼。町を代表する商人ケイツの失踪は、その重要性から最優先で解決に動く。


 そのため、案内役としてダークエルフの森に戻る事になったグレンたちだったが……


「グレンさん、あの人のことを本当に覚えてないのですか?」


 エミリに問いただされてもグレン本人は「う~ん」と頭を捻る。


「だめだ、思い出せない……どこかでみた気もするけど」


「ギルド長さん、凄いグレンさんの事を見てますよ。顔は笑顔だけど、目が笑ってないじゃないですか……過去に何をやらかしたのですか?」


「いやいや、私がトラブルを起こしたと決めつけないでくださいよ」


「……」とエミリは疑いの目を向けた。


 冒険者ギルドの代表であるギルド長。


 そもそも冒険者ギルドというのは人間の組織である。


 魔王が倒せされ、魔王の領土は解体。


 魔王に従っていた魔族たちも人間文明化の波に飲まれて行った。


 そこで冒険者ギルドの長に選ばれた人間……いや、魔族は特別な実力と信頼の高い者が選ばれる。


 当然、旧魔王領のギルド長に任命された魔族は、魔王統治時代の有力者。


 魔王四天王と言われた男であり、名前はジルド。


 勇者と魔王の最終決戦でも前線で戦っていた。


 だから、その時に兵を率いて進軍するグレンと鉢合わせているはずなのだが……


「う~ん たぶん、ジルドさんだったかな? 彼の勘違いだと思うよ。間違いなく、私と彼は、これが初対面だ」


 そう断言するグレンだった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 ダークエルフの森。


 ギルド長と護衛たちに緊張が見える。


 冒険者が足を踏み入れるのは初めての事。 魔族にとっても聖域である。


 だが、入り口には彼女がいた。


「おかえりなさいグレン。それからようこそ冒険者たち」


 森の入り口には、ダークエルフ……アール・ヴ・デックが待っていた。


「……初めましてアールさま。私は冒険者ギルドで代表をしてるジルド。ジルド・フランチャイカです」


「ほう……お前があの。訪問を許そう。こういう機会でもない限り、アタイの領域に入る事はないだろう。しっかりとアタイの領土を盗み見るがよい」


「いえ、私たちギルドはダークエルフの領と争う意思はありません。願うのは、一刻も早い事件解決です」


「ふん、騙るがいい。人の真似をしたところで我ら所詮は魔族。やがて血と血を交えて滅ぼしあう定めよ」


「……」とジルドはそれ以上、言葉に出さなかった。


 それから……


「商人ケイツがいなくなったのは、深夜ですね?」


 ジルドの問いに最初に答えたのはグレン。


「おそらくな。あいにく、私は酒に弱く最初に酔い潰れて眠ってしまった」


「私とアールさんは起きていました」と答えたのはエミリ。


「うむ、グレンは最初に寝落ちってしまった。アタイとエミリとケイツの3人で飲み続けていた」とアールは補足した。


「なるほど」とジルドは頷く。


「では、ケイツさんはどうしていなくなったのですか?」


「それが……いつの間にかいなくなっていまして……」


「うむ、それはアタイも証言する。アタイが気づいた時にはケイツはいなくなっていた。おそらくは1人で外に出て行って……そして帰ってこなかった」


「なるほど、少し安心しました」


「安心した?」とグレンはジルドの言葉を繰り返した。


「証言を聞く限り、グレンさんはアリバイがありますね。そして、エミリさんとアールさんは結託して嘘でもついてない限り、ケイツさんを殺していない……可能性が高い」


「うむ、なるほど?」とグレンはジルドを真似したかのように呟き頷く。


「少なくとも、ケイツさんがいなくなった時には3人は、この場所から動いていなかったという事ですね。なら、話が早い」とジルドは視線をアールへ送る。


「つまり、アンタが言いたいのはこうだろ?」とアールは続ける。


「1人外に出たケイツ。いつまでも戻ってこない。そこでエミリとグレンを残して、アタイが外に出て、ケイツを見つけて殺したってね」


「殺したのですか?」


「ふん、馬鹿な事を言うじゃないか」


 ジルドとアールは笑顔のまま視線を交わせる。 互いに殺気だけは乗せて……


「いいぜ、アタイが許可するよ」


「なんの許可ですか?」


「どんな方法でもいい。アタイがケイツを殺したって疑っているなら、遺体を見つけてアタイに突きつけてみな」  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る