第16話 行方不明者? 姿を消した商人

「さて、神父さんたちも飲みなよ。今度は宗教上の理由で断らないよな?」


 ダークエルフ……アールは、グレンたちにも酒をすすめてきた。


「もしかして、食事を断った理由が嘘だってバレてました?」


「当り前だぜ」とアールは笑って瓶をよこす。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「要するに、アンタら商人だけじゃなくて、町民の多くが森をどうかしたいって考えなんだろ? それは、わかっているよ」


「でしたら……」


「けどね、いきなり場所を移せってのはダメだ。もうアタイしか住んでないって言っても、ここはダークエルフにとっての聖地だよ」


「それはわかっています。我々としましては……」


「だから、こうしようぜ? 森の規模を半分にする」


「……はい?」


「全部は無理だ。でも半分の土地は確保してもらう」


「あ、ありがとうございます。でも、本当によろしいので?」


 これまでの交渉に困難していたのだろう。商人ケイツは動揺しながらも確認する。 


「……もう良いのさ。他のダークエルフたちは、外に出て行った。アタイ1人さ……でもな、100年に一度くらいは皆が戻ってきて祭りみたいな事ができれば……それがアタイの本心さ」


 まるで独り言を聞かせるような声だった。


「おっと、辛気臭くなちまったぜ。飲みな、飲みな。久々の客人でアタイも騒ぎたいのさ」


 そうやってダークエルフのアールは、全員に酒を注いで回った。


 その酒は甘く、飲みやすい。 それでいて酒の回りが早い種類のものだった。


 どれくらい飲んだだろうか? 気づくとグレンは寝ていたようだ。


「起きて。起きなさい、グレン」と揺り起こされる。


「エミリ……私は?」


「あなたって、思っていたより酒に弱いのね」


「あぁ、飲み過ぎのか」と立ち上がる。


 体内のアルコールは分解しきれていない。体にふらつきが生じる。


 それでも状況判断能力の衰えはなし。


「それで? 何かあったから、起こしたのだろ?」


「ケイツの姿が見えないわ。さっき、アールさんが捜しに行った」


「どれくらい前から?」


「ケイツは気づいたらいなかったわ」


「なるほど、ところでこの森に魔物は出現するのかい?」


「……魔物はでないわ。でも、野生動物くらいならいるんじゃないかしら」


「うむ、それじゃ探そうか」


 しかし、グレンたちが朝までさがしてもケイツの姿は見つけられなかった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 ケイツ消息不明のまま、朝を迎えたグレン一行。


 アールを残し、夜が明けるよりも早く森から脱出。


 こういった場合、一般市民であるグレンたちは、どうするが正しいのか?


 選択肢は2つある。


 1つは軍隊を派遣しての大規模捜索。


 ケイツは、町を代表する商人だ。


 城へ向かい領主の許可が出れば、軍が動く。


 しかし、肝心の領主さまは亡くなったばかり。今は領主代理が統治していて、大きな権限はない。 


 だからグレンたちは別の選択肢を取った。


 やってきたのは冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドと言っても、中で依頼達成や新規依頼の確認をしている者の多くが魔族だった。


 元々、力が法律と言える旧魔王領。 

 人間の法律が入り込み、仕事からあぶれた魔族たちが新たに冒険者の仕事を選んでいる。


「はい」と笑顔で対応した受付嬢。


「行方不明者の探索をお願いしたい」 


 グレンの話を聞いて、顔がドンドンと青ざめていく。


「こ、こちらでお待ちください」と案内されたのはギルド長の部屋だった。


 しばらく待っていると――――


「お待たせしました。私がギルド長です」


 現れたのは若い男だった。 


 しかし、男の種族は魔族。見た目通りの歳ではないだろう。


 そのギルド長は、こう続けた。


「久しぶりですね、グレンさん」  


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る