第4話『クロノスの逆時計』
グレンは彼女を観察するように見る。
初めて訪れた赴任先の教会。そこに現れた
背後を見せた途端に襲われたグレンだった。
「うむ……」と観察を終えたらしきグレンは、こう続けた。
「あいにく、見当もつきませんね。貴方は何者で、どうして私を殺そうとしたのですか?」
「――――チッ!」と無言だった彼女は舌打ちを1つ。
彼女は修道女の恰好をしている。頭部には、通常の修道女が被っているように頭巾(ウィンプルというらしい)を被っているが、彼女はそれを外して頭を見せた。
「ほう……頭に小さなツノ? 初めて見ました。戦場では女性の魔族はいませんでしたからね」
「イチイチ
「では、エミリさん。どうして、教会で修道女の恰好をして隠れていたのですか?」
「それは――――」と彼女……エミリは言い淀む。 やがて、決心したように――――
「私は、この町の領主さまの元でメイドをしていました」
「領主さまのメイドですか?」とグレンは思い出すような仕草をする。
「確かに聞いたことありますね。いざという時に主人を守るためにメイドでも戦闘術を仕込む貴族がいるという話……まぁ、酔狂だとは思いますが」
「……話を続けても? 私の主人は昨日、殺されました」
「なんと!? 領主さまが殺された? 中々、物騒ですね」と言葉と裏腹にグレンの瞳は輝き始め、言葉から興奮が隠せなくなっている。
「昨晩は、旧領主さまが亡くなり1か月……そこで鎮魂の儀式が行われました」
「鎮魂の儀式ですか? それは残念です。もう1日早く到着しておけば私も教会を代表して出席させていただいたのですがね。~ん? どうかしましたか? 私の顔をじーと見て」
「いえ、少し奇妙な方……変人だと思ったからです」
エミリは少し怒っていた。
さきほどのグレンの言い方……エミリたち魔族に取って戦場で散った死者のための儀式。
それをまるで、見物したがる言い方。不敬ではないか……と。
その怒りを飲み込み、「我慢、我慢」と彼女は話を再開する。
「そこで私が手配したワインを召し上がった直後……主人は亡くなりました」
「それはなんとも……ご愁傷様です」
「そのため、私がご主人を殺めた犯人にされてしまい、この教会に逃げ込んでいたのです」
「なるほど、ご領主殺しですか。これは興味深い事件です。解決のために私も手伝わせていただきましょう」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ、ここは教会ですよ? 迷える子羊に手を差し伸べるための場所です」
彼、グレンが言うと胡散臭く聞こえるのは、どうしてなのだろうか?
しかし、彼は気づかない。 元々、彼はこの町は旧魔王領だと言う事を知らないから……。
人間の領地となったからと言っても、魔王が倒されてまだ1か月。
いきなり人間が支配をするという事はあり得ない。
暫定政権として、領主は旧魔王に近しい者――――つまり、彼女が仕えていた者も魔王の後継者か、あるいはその立場に近い者である。
魔王が死に、その後継者も死んだとなれば、魔族たちの暴走、暴動の可能性も大きい。
「さて、まずはこれを」とグレンは自分の荷物から何かと取り出した。
丸く研磨された鉱物? 水晶だろうか?
「なんですか? これは?」とエミリ。
「ん~ 説明は難しいのですが……私が保有している秘匿神具の1つです」
「……はい?」
「先の戦争で行方がわからなくなった秘匿神具が複数ありまして、中央教会にヒミツで私が回収した物が何個かありましてね。あっ、これは内緒ですよ」
「ほ、本物の秘匿神具なんですか!? 神々の奇跡が再現できると言われている?」
「えぇ、これは元の持ち主からは『クロノスの逆時計』と呼ばれていましたね」
「クロノスの逆時計……ですか? 一体、どのような奇跡再現ができる物なのでしょうか?」
「時間逆行」とグレンは一言で答えを述べた。
「じ、時間逆行? ……ですか?」
エミリは困惑する。 時間を戻す……それが事実なら、確かに神の技に違いない。
とても信じられない奇跡だ。しかし、それが本当なら……
「では、これを使えば主人の殺害を止めれるのですか!」
興奮するエミリに対して、グレンは――――
「え? あぁ、そうですね。確かに……そうです」
少しテンションが下がったグレンの様子にエミリは察した。
「もしかして、事件を防ぐためではなく、事件の真相を知りたいから使うつもりだったのですか?」
「はっはっは……いやいや、そんなまさかですよ。私は……えっと、ほら、神のしもべですよ……とにかく、とにかく使ってみましょう。えっと……えっと……」
妙に早口になったグレンは、手にした秘匿神具『クロノスの逆時計』を床に叩きつけた。
まるでガラスを砕いたような音が周囲に広がる。
事実、『クロノスの逆時計』は無残なほどに砕け散っている。
その光景、
「え?」とエミリは理解できずに呟く。しかし、その直後だ。
地震。 それも酷く緩やかに地面が揺れ始める。
そして、自身の立っている地面が消滅していくような感覚に襲われ――――
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