第3話 修道女(シスター)?

「さて、朽ち果てた教会には、どうやら人の気配。早速のトラブルと言うわけかな?」


 教会の中に入ったグレンは周囲を見渡す。その表情は、うれしそうにすら見える。


 気配は確かにある。


 しかし、日が当たらぬ暗い暗い教会内部。 その相手の姿は見えない。


「気配を隠す技はないが、姿を消す技は持っているのか? ただの盗賊の部類ではなさそうだな」


 そう言いながらもグレンの足取りには迷いがない。


 コツコツと足音を立てながらも進み、隠れている人物に近づいて行く。


 そして、椅子の影に隠れている人物を見つけた。


「おやおや、これは……」


「――――」と無言で怯えているように隠れている人物は女性であった。


 それもただの女性ではない。


修道女シスターですか? おっと失礼を、怖がらせてしまいましたかな?」


「貴方は……新しい神父さまですか?」


「ん~ そうですね。こちらの教会の管理者として赴任してきた者です」


「よ、よかったです。こちらは治安も悪く、これまで教会の維持に尽力を注いでいましたが、その甲斐もなく御覧の通りです」


「なるほど、なるほど、この町では教会にまで無頼漢といった輩が荒らしにくるのですか?」


「はい、嘆かわしい事です」


「ご安心を、これからは私が管理者としてならず者に好きにはさせません」


「あ、貴方様が……」


「はっはっは……私は見た目よりも武に秀でていましてね。大船に乗ったつもりでいてください」


「それは、ありがたい事です。これも神のご加護でしょうね」と修道女は神に祈るような動作をした。


「さて、ここで立ち話もなんです。奥に休めるような部屋がありますよね?」


「はい、案内いたしましょう」


「あっ、待ってください。荷物が多くて、外に置いてる分を取ってきますね」


 そう言ってグレンは修道女に背を向けて歩き出す。そして、歩きながら……


「そう言えば、これは単純な疑問なんですが、どうして貴方は教会に?」


「はい? あぁ私の家は貧しく、両親は幼い私を――――」


「いえいえ、そうではなく」とグレンは修道女の言葉を遮る。


「ここは教会ですよ? 修道女シスターがいる場所は修道院と決まっているじゃないですか?」


「――――」と修道女は無言で動く。


 背を見せて歩き続けるグレンに近づき、暗器を取り出す。


 小さいナイフと言っても他者の命を刈り取るには十分な刃渡りがある武器。


 それをグレンの背中へ、しっかりと狙いを定め―――――


「このっ死んでください! ―――刺突ッ」


 気合を入れるように彼女は口に出してグレンを襲う。


 しかし、次の瞬間、修道女に化けていた女の口から「え?」と驚きが漏れた。


 目前まで迫っていたグレンの姿が消えて見えた。――――いや、それだけではない。


 ナイフを持ち、真っ直ぐに伸ばした腕が自分の意思に反して加速している。


 彼女が消えて見えるほどの速度でしゃがみ込んだグレン。


 グレンは彼女の腕を掴み取り、彼女が腕を伸ばす速度よりも速く引き寄せて見せたのだ。


 細身に見えるグレンの体から信じられないほどの剛力。 一瞬で引き寄せられた彼女は前に大きくバランスを崩すと共にその体が浮き上がった。


「――――っ!??!」と彼女も自分の身に何が起きたのかわからず、パニックになっている。


 そんな彼女の細腰をグレンは両手で掴むと、まるで赤子をあやすかのように


「高い! 高い!」と真上に投げてみせた。


「え?」と彼女が自分の状態に気づいたのは背中にコツと何かが触れた感触があってから……


(投げられた……私? 高いっ! でも、背中の感触……これって……これって!?  もしかして――――天井!?!?)


 細身の女性であれ、一体、どれほど膂力があれば人間を建物の天井まで投げ飛ばすことが可能だろうか?


 高所という原始的な恐怖。 重力に従って、落下が行われるまで僅かなタイムラグ。


 そこで彼女は見た。


 地上から見上げているグレンの跳躍。 いや、もはや飛翔と言った方が正しい跳躍力で彼女がいる天井まで飛び上がって見せた。 


 そして、彼女の顔の横に手をつく。所謂、壁ドン……この場合は天井ドンと言うべきなのか?


「失礼、どうやら女性にプライベートな質問をして怒らせてしまったみたいですね。殺意のようなものに反応して、うっかり体が動いてしまいました」


「――――ッ!?」と彼女が顔を歪めるも悲鳴を飲み込むことには成功した。


(こ、コイツ、何を考えてるの? なんと言うか―――― 気持ち悪い!)


 やがて、重力が2人に戻っていく。それは落下の合図。


 教会は吹き抜けの天井。 


 床まで落下すれば、運が良くて脚部の骨折。 運が悪ければ……いや、普通に死ぬ。


 だが――――


「失礼」とグレンは、彼女の体を掴むと、こともあろうに――――


 そう、こともあろうにお姫様抱っこをして、そのまま床まで落下。


 華麗で優雅に着地して見せた。それから、


「さて、今から単純な質問をさせていただきますが、貴方はどちら様でしょうか?」





 

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