第2話 恋に落ちて

聡史が大学のラグビー部を休部している理由はバイト以外にもう一つあった。

実は高校でラグビーを続けた聡史だが大学のラグビーの練習は高校の時と比べ物にならないハードなものだった。

100スクワットに始まりタックル、走り込み基礎練習でくたくたになった。

特に耐えられないのは100スクワットだった。

1年生全員で手を繋ぎ右足で飛び左足で飛びしゃがみ込むこれを1、2,3のリズムで全員が達成するまで終われない。

一人でもかけてしまうとまた1から100までが始まる。

仕送りだけではやっていけない聡史はバイトをすることを考えていたが暇があったら寝ていたかった。

〈体力的についていけないやっぱバイトしないと、、、母さんにもうこれ以上迷惑かけられないな〉

聡史は銀行通帳に振り込まれている残りわずかな残高を見てそう思った。


そんな時だった聡史は練習で肩を痛めしばらく休部することにした。

体力に自信のあった聡史は酒屋のバイトを始めた。

「お前さんいい身体してるね~」酒屋のおじさんはホモと言う訳ではなかったが力がありそうな聡史を気に入り、働いてからも良く面戸を見てくれた。

酒屋の配達のバイトは決して楽ではなかったがラグビー部の練習の何分の1も無かった。

しかも自分のある程度の予定に合わせてくれるところが気に入っていた。


良助に逢ったあの週末から次の土曜日がやって来た。

もしかしてまた良助が来るかもしれないと昼過ぎから2丁目へ出かけて行った。

〈ダメっお兄ちゃん〉

あの日の良助の声が今も頭に響くとウキウキして新宿へ向かう電車の中でにやにやしていた。

横に立っていた女子高生が聡史を見て睨むように不思議な顔をして離れて行った。

そんな顔で見られてもその日の聡史は平気だった。

何だかもしかしてまた良助に逢えるような気がしていたからだ。


ロビンは高校生や若い人が集まりやすいように土日は昼の2時からカフェタイムをやっていた。

「私さー初体験は中学の担任でさ~」

「私もデビューは中3よ、ジローって店でデビューして」

可愛い高校生くらいの年齢の男の子がロビンに集まって話していた。

「あら~いらっしゃい~トシちゃん今日は早いわね~」

「完全にママの趣味でやってんだね」若い男の子がボックス席ではしゃいでいるのを見て聡史は言った。

「当たり前じゃない。趣味実よ(しゅみじつ)   ひとり?」

正樹ママはそれ以上聞かなかった。

この前一緒に来たこーちゃんは?と、聞かれるのを警戒していた。

「何となく時間が余っちゃって」

その週末の土曜日は結局良助は表れなかった。


良助もサッカー部を休部していた。

聡史とは全く違う理由だった。

良助は母との約束だった。

大学に進学するため2年でクラブは止める事を条件に出されていた。

良助の母幸子は本来ならサッカーなんかもう関わって欲しくなかった。

あのことがあってから、、、、


良助の頭の中でも聡史を思い出して後悔していた。

〈何で逃げたりしたんだろう?あんなに話す時間があったのにどうして連絡先を聞かなかったんだろ)

良助は小学校から中1になるまでサッカーチームに入っていた。

そしてあの事件が起こった。

小学6年生になってコーチの家に泊ることになった。

その晩、良助の布団の中にコーチが入ってきて体を触ってきた。

最初良助は分からずいつもコーチがふざけてカンちょーなんてしてくるのかと思っていた。

「良助、オナニーとかしたことあるか?」

「えっ?」

「ちょっと楽しい事だから教えてあげるよ ほら手かして」

良助の手を持って行った先はコーチのペニスだった。

「コーチのちんぽ勃ってんだ!俺の見せるから良助のちんぽも見せて」

良助の小さな手にコーチの勃起したペニスを握らせた。

良助はずっとコーチが好きだったからその時もそんなにいやじゃなかった。

コーチの事を男としてカッコいいとも思っていた。

何となくコーチに言われるまま半パンのジャージとパンツを脱がされてペニスを触られた。

「良助ちんぽ勃って来たぞ!」

始めは少しこそばく感じたがだんだん気持ち良くなって良助は頭がぼーとして何も考えられなくなった。

良助はまだ毛も生えておらずマスターベーションも知らなかった。

「しょっ 小便出そう、、、」良助がそう言ってもコーチは良助のペニスを扱き続けた。

「小便っ出る!」良助がそう叫ぶとコーチは良助の小さな亀頭をパッと口で銜えた。

「僕、小便行って来る」良助はこの時精通を迎えさせられた。

初体験でペニスの奥にある射精管が刺激され残尿感が良助のペニスに残っていた。

良助はまだ小便が出そうだった。が、ちょろちょと出ただけで大して出なかった。


普段グランドで合うコーチはいつものコーチで性的なことは何も話さず必要以上に子供たちの体にも触ったりはしなかった。

良助はそれからコーチの家によく行くようになった。

2人きりになるといつもそれが始まり何時の間にかそれをして欲しくなり自分から良助は行くようになった。

練習後グランドのトイレの中でやったこともあった。

コーチとの性的な関係は良助が中学1年までつづいた。


明日の土曜日午後からサッカーの練習に行こうと良助が用意をしていた金曜日の夕方、めずらしく母幸子が家にいた。

いつもならお手伝いさんに任して母は仕事をしているはずっだった。

サッカーの迎えは運転手が着たり子守が着たりして良助の家はちょっとした中小企業の大手の会社を経営していた。

テーブルで頭を抱え暗い顔でリビングにいた母が良助に言った。

「明日からサッカーの練習は無いわよ。もうサッカーには行かなくていいから」

「えっどして?僕まだサッカーやりたい」

「行かなくていいて行ってるでしょ!!!」母はいきなり怒って言った。

「良助あなたコーチから何か?されなかった!」

母は顔を上げ良助を睨むように見た。

「何かって?何にもされてないよ」良助の声は上ずっていた。

「4年生の芳樹君がコーチにおちんちんを触られたって、、、、警察から連絡があったの! 調べたら他の男の子も同じように性器を触られたりしてたことが分かったの!」

「・・・・・」

良助は言葉を失った。

そして大声で泣き出した。

「コーチ捕まっちゃうの?もうコーチに会えないの」

「あなたが何もされていないのならいいのよ」

幸子は良助を問い詰めようとしていたが良助が大声で泣き出してのでそれ以上コーチとのことは聞けなかった。


この事は少し大きな事になったが被害者が相手のコーチに被害届を出さない限り事件としては成立しなかった。

(2021年現在の法律と違いこの頃は被害を受けても被害届を出さない限り加害者も逮捕されることはなく事件として取り扱うことが出来なかった)

10人以上いた被害者の親たちは皆被害届を出さなかった。

事件が公になれば自分の子供に傷が付く、世間のさらし者になってしまう。

コーチの将来と言うより子供たちの将来を考え被害届は出なかった。


皆穏便に済ましたいと思っていた。

「男の子だし大丈夫よね」そんな風だった。

現在の法律や児童への性行為は女子であれ男子であれ児童虐待と罪が確定するようになっている。

今現在で「男の子だし大丈夫」などと世間に発表すれば大変な事になる時代ではなっかた。


一人を除いては皆その意見に賛成した。

「あのコーチを一生刑務所から出れないようにしてください。そのためなら何でもします」警察に訴えを起こそうとしていたのは森 幸子ただ一人っだった。

「残念ですが奥さん、お金を積んでも彼を刑務所に入れ続けるのは難しいでしょう」

薄暗い汚れた警察署で担当の刑事は言った。

「それにあなたのお子さんからはコーチに悪戯された証言は取れていません。良助くんは何もされていないと、コーチをかばっているんでしょうね、健気もんだ子供ってのは」

「良助が何かされた証拠があれば訴えは成立するんですか?」

「他の方が言うようにここはひとつ穏便に済ましてみては」


やがて皆から説得され、やはり自分の子供に傷つくのを嫌がり被害届は取り下げた。

幸子は納得せざる終えなかった。

〈時間がすべてを解決してくれる、良助はきっと大丈夫よ、良助は何もされていないって言ってる、それを信じよう、あの子は運のいい子だものあの子だけ被害を受けず助かる可能性は大いにある〉


良助は中3年生になっていた。

そして努力していた。

まわりの男の子は彼女を作り一緒に帰ったり、お弁当を作ってもらって教室で食べたりするようになった。

良助は女の子に興味が無かった。が、母を喜ばせるため普通の男の子フリをしていた。

「なあ早紀(さき)俺と付き合わない」

「えーっ本当?森君と」

良助は学校では人気者だった。

色白だが可愛いしサッカーの部のキャプテンをしている。

そして何よりお金持ちであるようだと女子たちの間で噂になっていた。

時々運転手つきの車が良助を迎えにくるのを沢山の生徒が見ている。

(この学校の王子様が私が)

早紀は良助からの申し出を断る理由が無かった。

「今日帰り一緒に帰ろう」

早紀はルンルンで待ち合わせの校門まで行くと様子が違っていた。

迎えの車が来ていてスーツを着た中年男性がドア開けて待っていた。

良助はすでに車に乗っていた。

「早紀乗れよ!」

早紀は良助の迎えの車に乗ると車は発進した。

その光景を何人かの生徒が見ていた。

「シンデレラの開演だわ!」

3年生の早紀の同級生も見ていてそう茶化した。


だが早紀にはあまり楽しいことでは無かった。

車で家まで10分ほど乗せてもらい送ってもらうだけ、最初こそ夢のようだったが車の中で良助は何も話さず窓の外を見ていた。

3回ほど送って貰い、その後は車に早紀だけを乗せ運転手に送って貰うよう頼んで良助は窓の外から手を振って何処かへ消えって行った。


「今日は良助坊ちゃんの彼女らしい女子のを家まで送りましたよ奥様」

「そう有難う、彼女の身元と身分と調べてくださる」

「はいかしこまりました」


「私たち別れましょ」早紀は言った。

「そうだね」

早紀は身体こそ小さいが体は発育が良く胸も大きかった。

笑った顔がとても可愛く映ったがこの早紀の発育の良さが良助には受け入れられなかった。

車に乗る時早紀のスカートが捲れ下着が見えた。

早紀は黄色いパンツを履いていた。

それを見た良助は少し怖くなった。

早紀のシャツのボタンの隙間からブラジャーが見えることもあった。

本来なら成熟前の未完成な女の子の体は独特な色気と愛らしさを放っている。

皮肉なことに良助にはそれが全く見えない。

それどころか恐怖に映るよにさえ思えていた。

公園で鉄棒して遊んでいた小学生の女子のパンツが丸見えになりそれを目撃した良助には少女の股間さえ、見るもおぞましい恐怖の対象となっていた。


あの事があってから良助は様子が変わって行った。

高校生となり何処から見ても普通にしか見えないように良助は普通を装った。

母幸子と元々話す機会は少なかったが更に話さなくなった。

筋骨隆々の男の上半身を机に貼ったり部屋に男性の雑誌の切り抜きなどが目立つようになった。

あれからコーチはアパートを引き払い何処に行ったのか分からなくなっていた。

良助は学校帰り学生服のままでコーチの住んでいたアパート前にいたことを幸子の運転手に見られていた。


「良のことが1番好きだよ!お兄ちゃんは、、そうだ2人きりの時はお兄ちゃんて呼んでいいぞ!良!好きだよ」

あの頃の優しいコーチの顔だった。

高校になりがむしゃらにサッカーに打ち込むようになった。

またあの人に逢えるような気がしていたからだ。

遠征に行った先で相手チームの監督やコーチ関係者に一人づつ挨拶に回った良助を見ていた。

「立派な選手だね」

「随分丁寧な子だ、ありゃいい選手になるぞ」

良助の目的は全く違っていた。

サッカーの関係者の中にもしかしてあの人がいるかもしれないそう思うと相手チームの大人の男性を見に行く口実を実行しているだけに過ぎなかった。


「今日は早紀と出かけてる事にしておいて」

良助は運転手にそう告げると京急本線に飛び乗り新宿へ向かった。

聡史と会ってから2週間が立っていた。

〈やっぱりもう一回会わなきゃ あの人に逢わなきゃ〉


期待した自分の馬鹿さ加減にうんざりしながらも聡史は土曜の夕方新宿2丁目にいた。

(もう会えないかもしれないな、まあしょうがないさ、この世界の事だから)

ホモたちはその場限りでもセックスをする。

女と男のようにお付き合いの上にセックスが成り立つ訳では無く、数分で精液を出すだけ出したらそれで終わるそんなことはホモの世界では当たり前で普通の事だった。

勿論長くお付き合いを重ね何年も一緒に居る、男同士だが夫婦と呼ばれる人たちも沢山いる。


ロビンの扉の前まで来たとき良助は一人でロビンのドアを開けられなかった。

ビルの外へ一度出て前の道をうろうろした。

この頃はゲイ雑誌がありあるゲイ雑誌の本の中に高校生たちのコーナーがあった。

そこにロビンの事が書いてあった。

「高3のよしおです。毎週土曜日新宿2丁目のロビンに来てます。同年代集まれ。ちなみに僕は弟募集中!」となっていた。

良助はその事を思い出していた。

以前も結局勇気が無くてドアを開けられないまま帰って行った。

横浜から新宿まで来てそのゲイ雑誌を立ち読みしただけで帰ったこともあった。

あの扉の向こうにあの人が居るかもしれないに。

少し日が沈みかけた薄暗い通りから体格のよい男がこちらに歩いて来ていた。

お互いにその相手が誰かは直ぐに分かった。

そばにより聡史はやさしい目で良助を見つめてた。

「ごめんなさい僕、嘘をついていたの」良助が全部を話そうと話し出した時、感情が溢れ涙が出て上手く話せなかった。

「来てくれたんだ。こーちゃんもういいよ」

聡史は良助を抱きしめていた。

聡史は軽く良助にキスをすると目を見つめた。

「あっちに公園があるんだ。そこでちょっと話してからロビンには後で行こう」

聡史は良助の肩を抱いて歩き出した。

泣いているのを見られないように町の裏側へ周り公園へ向かう途中‘HOTEL‘の看板が2人の目に入った。

「中で話そうか 2人きりで話せるよ」良助が言った。

「えーっあー」聡史は余りお金を持っていなかった。

「お兄ちゃん、そこは 、おだまりでしょ!」

良助はすっかり落ち着いていてそう言って笑った。

2人はホテルに入って行った。












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