カミングアウト
ロビン
第1話 新宿2丁目
「あら~トシちゃん おはよ~後でマッテルワ~」
大学生の中嶋 聡史にどう見ても短髪の男性だが女性のような話し口調で道向うから声をかけてきた。
新宿の一角にゲイタウンとして名高い「新宿2丁目」の土曜日夕方のいつもの何気ない風景だった。
ラグビーをやっていた中嶋 聡史はがっちりした体格をしていた。
「ターママ、後で寄るよ」聡史は軽く右手を上げその前を通り過ぎた。
この町の夕方はお店を開ける準備をそれぞれがしていて大小さまざまなゲイバーがひしめきあっていた。
ゲイバーを始めゲイショップ、ゲイ雑誌、男性下着、男性専用ディスコ、男性を売る店売り専などゲイや男性に関するあらゆるものが揃っている。
この町にトシちゃんと呼ばれる聡史が来るようになったのは2年前、東京の大学に通うようになってからであった。
中嶋はターママの店から少し歩いた「ロビン」と言うホモバーに向かっていた。
男の裸の写真をデカデカと張ったゲイポルノショップを通り過ぎようとしたとき、店内ようすが見え、数人の男たちの中に若い男がいた。
聡史は立ち止った。
〈若い?高校生?〉
ジーパンと紺色のシャツを着ていたがあまりに合っていないように思った。
見慣れない若い男を中嶋はしばらく見ていた。
その男はどことなくセンスが無く地味で、シャツも首の所がよれてだらしなく見えた。
〈この子いいな、服はいまいちだけど可愛い顔をしている〉
何も買わずに出てきた男の子は直ぐに左に歩いて行った。
この新宿2丁目にくる男性の目的は殆ど決まっている。
彼も同性愛者であることは間違いなかった。
でもそれが分かっていても始めて声をかけるのは勇気がいる。
人ごみの中で男の子を見失った。
土曜日の夕方は男たちが詰めかけてごった返す時間でもあった。
〈しまった!やっぱ声かけて見るべきだった〉
聡史は後悔して走りだそうと思った時、角を曲がって少し先にその男の子が道の真ん中でぼんやり立ってビルを見上げているのが見えた。
そのビルこそ最初に聡史が向かっていた「ロビン」が入っているビルだった。
聡史はゆっくり近づいて行く間に気持ちを落ち着かせようと息を吸い、吐き出した。
「何か?探してるの?」聡史が声をかけると男の子は顔をこちらに向けて
「い、いえ、別に」緊張して少し話ずらそうに言った。
男の子は間違いなく若く近くで見ると綺麗な白い肌をしていた。
「今から飲みに行くけど行かない?」聡史は思い切って聞いた。
男の子は黙って下を向いていた。
「ロビンて言うホモバーなんだけど知ってる?」聡史はわざとホモバーと強調して言った。
「そこ男の子が集まる店なんですか?」男の子はまだ緊張したままだったが会話が成立し始めたのを聡史は感じた。
「ロビンは若い子だらけだよ、僕や君くらいの男の子で一杯さ、いま見上げてたもんね?知ってるんだ!」聡史の口は軽くなって言った。
「行ってみたいんですけど、、、」恐る恐る男の子は言った。
「じゃー決まりだな! 俺は聡史。聡史で‘さ‘を取ってトシて呼ばれてる。君は?」誰にでも本名を明かす訳ではなかったが彼には話した。
「も、森 良助」男の子が名前を言った途端、聡史は自分に本名を話してくれたと
確信した。自分が先に本名を名乗ったのが正解を導いたとも思った。
「もり りょうすけ?良い名前だね!でもこの町では本名じゃなくてゲイ名ってのがあるんだ。皆本名じゃなくゲイ名で名乗り合うんだ。良助君?高校生?」
聞かれて彼は頷いた。
「そっか~じゃ~‘こーちゃんにしよう それでいい?」
聡史の心は弾んでいた。
いきなり男の子名前を教えて貰ったこと、彼の名前を呼んだこと、良助とこれから一緒に過ごせる幸せで「ロビン」のあるビルの3階まで弾み上がりそうなほどっだ。
二人はロビンに向かってビルに入って行った。
店は薄暗く開店して間もないと言うのに客が数人来て座っていた。
「あらっ、いらしゃ~い、トシちゃん まーぁ可愛いお連れさんね!」
カウンターの中にいた短髪の男が2人を出迎えた。
「僕、ホントに知らなくて大丈夫ですか?」良助は本当に始めてだった。
「大丈夫だよ、こーちゃん直ぐなれるよ」聡史はなだめた。
二人はカウンターに並んで座り挨拶した男が前に立った。
「可愛いわね~おいくつ?」カウンタ-の中からおしぼりを手渡しながら40歳くらいの男が良助に向かって話しかけた。
「この子はこーちゃん、年は18、俺ビール、こーちゃんお酒飲む?」聡史が聞いた。
「いえ、お酒は、、、」良助は下を向いた。
「ま~ぁうちでデビューかしら、素敵なデビューにしないとね」手の平を組んで祈るような仕草をした。
「こーちゃんコーラで良い?ウーロン茶なんてのも有るけど」40男が続けて言った。
「はい」なぜか良助の声は小さくなっていた。
「マコちゃんおビールとコーラ お尻に入れてぇ~って」40男は尻を突き出して言った。
「おーいブスママ!こっちビール」奥のボックス席から中年男性が立ち上がって空のビール瓶を振りながら言った。
「おだまり!今、若い娘と大事な話してるの!マコちゃんジジィにボール出して」40男はママと呼ばれていた。
「はい、ボール!じゃなかったわあ!はい、ビール!」マコちゃんが男の所へカウンターを出てビールを運んだ。
「トシさん若い娘って?僕の事?なんですか?」良助は目をぱちぱちさせて聞いた。
「そう言う冗談だよ!こーちゃん可愛いからね!」聡史がホローした。
〈この人たちってみんな仲間なの?全員ホモ?僕もこの人たちの仲間ってことになるの?〉
良助は聡史に聞いてみたかったが言わなかった。
良助は姿は皆男のままだがお客も店の人も女言葉でしゃべるで驚いたのとあまりの違和感に少し気味が悪かった。
「こーちゃんびっくりした?最初は変な感じなんだ!特に‘おだまり‘は聞き馴れるまでへんな感じなんだよ、俺はオネエでしゃべらないから」聡史は言う。
「オネエ?」良助が聞いた時、ビールとコーラが並べて置かれた。
「そーよ、店子はほぼオネエでしゃべるのよ」40男が割り込んで口を挟んだ。
「みせこ?」初めて言葉に驚きっぱなしだった良助はさらに聞いた。
「あたしはママで正樹って言うの店子はゲイバーで働いてる男の子の事言うのよ~」
40男は名前を名乗りロビンのママである事を話した。
「ママ?、、、どう見ても男だけどママ?」良助は表現の自由さに更に違和感を覚え小声で言った。
「どうも見なくていいよ!そのママでママだから」正樹ママは良助の小声を聞きとって言った。
「あ~あ!なるほどね!」納得したのかしていないのか分からないが良助はそう言った。
「あたしは大阪出身だからこの店は皆よく喋るのよ、他の店はあんまりしゃべんないから、後でトシちゃんに連れて行ってもらいない」
2人には共通点があった。
聡史はラグビーをしていて良助はサッカーをしていた。
「足で蹴ってばかりのサッカーボールをある選手が持ってゴールまで走ったのがラグビーの始まりだと言われてるんだ」
「僕はサッカーしか知らないけど」
「ルールは割と簡単で、、」
ロビンを出て2人は2軒目行き、森はまたコーラを飲んだ。
また同じようにカウンターに並び座った。
カウンターの下で聡史の手は良助のジーパンの太ももの上にあった。
さっきまでの緊張とは違う緊張が2人を包み始めていた。
「大学でもやってるんだけど、ラグビー部は休部してるんだ。バイト忙しくて」
「そろそろ僕帰らないと」良助の声が違う緊張をしているのを聡史は見逃さなかった。
「そうだね、ここもおごるよ!バイト代入ったから」聡史の手は良助の股間へスルスルと這い上がって行った。
「良いんですか?さっきも」良助は顔を上げ聡史の目を見つめた。
少し酔っていたが聡史も良助をまっすぐ見つめた。
その時、ちょうど良助の膨らんだ股間を捉えていた。
2人が帰ろうと2軒目の店を出ると夜の戸張が新宿の街を包んでいた。
聡史はあるビルの階段を森を連れて上がって行った。
小さな狭いビルは各階に一つしかお店が無く静かだった。
〈どこへ行くんだろう?そろそろ帰らないと〉森が思って付いて行くとビルの4階へ着いた。
お店の扉の上に着いた看板は消え狭い踊り場も少し埃っぽいのがこの店が閉まっているのを物語っていた。
「こーちゃん」聡史は名前を呼んで抱きしめ唇を重ねてキスをしてきた。
「好きだよ、こーちゃん可愛いね!」そう言うとまたキスをした。
聡史は良助の体をまさぐり股間をズボンの上から握ってきた。
良助は性的反応してズボンの中でペニスが膨らんでいた。
「あ~でも、、、ダメっ、、」かすれるような良助の声に応えようともせず聡史は大胆にジーパンのファスナーを下しパンツに手を入れて良助のペニスを握った。
「あ~やっぱり、だめ~恥ずかしいから~」そういうのが精一杯だった。
〈のどがカラカラで声が出ない、もしこんなところ人に見られたら〉その事ばかりが気になっていたが自分のパンツからペニスが取り出されると良助のペニスさっきより膨らんで行った。
聡史は顔を近づけ良助のペニスを口の中へ入れた。
「あっ!あぁ~」
良助は自分のペニスが暖かいモノに包込まれ気持ち良さを感じた。
聡史が頭を動かす度にペニスを摩擦され益々気持ち良くなっていた。
〈こんな所でこんな恥ずかしい事をされながら僕は気持ち良くなっている。止めてもらわなきゃ〉
「とっ ト シ さ ん、、、」良助が止めようと言おうと声を出した時、カラカラの喉から出た言葉は喘ぎ声のようだった。
良助の体は言う事を聞かなくなっていた。
〈このままイッちゃいなゃ、もう体を任せるんだ!〉良助は欲望に支配された。
「ぼっ僕もう、、、、ダメッお兄ちゃん、、出ちゃう、、出ちゃうよ!」
良助は直ぐに限界を迎えるとペニスの奥から熱いものを発射した。
発射された熱いものは良助のペニスの先へと吹き上がって行く。
「出っ、るっ」良助のペニスから熱いモノが放出した。
聡史は良助のペニスを口から放さず射精した精液を残らず飲み干した。
ペニスを放すと頭をあげて聡史は良助の目を覗きこんだ。
良助がペニスをパンツに仕舞いズボンを穿いたと思ったら突然逃げるように階段を下りて行った。
「あっ待って!こーちゃんごめんね!ちょっと待って」聡史は何が起きたのか分からず後を追いかけた。
「こーちゃんごめんよ、怒ったの?」良助に追いついた聡史には怒っているように見えた。
「僕、帰ります」早や歩きをしながら良助はそう言った。
「分かった。気をつけてね!土曜日は大体ロビンにいるから」聡史は早口で言った。
こっくりうなずいたようにも泣いている様にも見えた良助の後ろ姿はそのまま早や歩きで駅の方へ消えて行った。
〈やっぱ怒ったのかな、だってまだ高校生だもんなそりゃそうだよな〉聡史は自分のしたことを反省した。
〈きっと始めてだったんだろう。そう言ってたもんな、それにしても、、、ダメお兄ちゃんか~可愛かった~〉
良助の喘ぎ声が聡史の頭の中を何度も何度もこだました。
良助は射精を終えると急に恥ずかしくなった。
どうして逃げるように帰ったのか?自分でも分からなかったがとにかくあの場にはいれなくなっていたのは間違いなかった。
〈男の人に体を触られて僕はちんちんを勃て最後まで達っちゃウなんて〉
そして男性に自分のペニスを口でくわえられたのも初めてではなかった。
おごっても貰ったのにお礼も言わず連絡先も聞いていない
〈お兄ちゃん!〉
電車の車両に座り良助はぼんやり暗い外を見ていた。
電車は横浜へと向かっていた。
ゲイ名に始まり店子やオネエ言葉、そしてトシさんの存在、あまりにも突然今日1日の何時間の間に良助の世界は変わり始めていた。
(現在はウリセンなどのお店は少なくなっています。この物語の時代は少し前の時代設定にされているため高校生などの未成年者への出入りも盛んにあり、現在の様な取締りはなくまだ野放しでした。)
(この物語に登場するお店や店舗は実在に存在していません。同じ名前や同じ店の名前がありましたらお許し下さい)
デビュ-=初めてホモバーなどの店に行った人たちの事。
オネエ=新宿ではホモ全般をオネエと言う。これは地方によって良い方は異なる。
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