幻想

 え?

 幻想が見たい?

 本当に?

 本当に見たい?


 仕方ないなあ。

 特別だよ?


 ほら。

 君の右手をご覧。

 そう、その赤く燃えてる手だよ。


 あはは。

 どうしたの、悲鳴なんかあげちゃって。

 大丈夫。幻想だよ。君が見たがったんじゃないか。


 熱い?

 そりゃそうだよ、燃えてるんだもの。

 幻想なのに?

 そうだね。

 幻想なのに。

 みるみる燃え広がっていくね。

 オレンジ色の炎が綺麗だろう。

 ああ、大分炭化してきたね。

 そら、崩れていくよ。


 君の細胞が、さらさらと灰になって、宙に舞っていく。

 枯れ木に花を咲かせましょう、ってね。

 え?

 どこに枯れ木があるんだ、って?


 やだな、君の左手に決まってるじゃないか。

 その干からびた左手だよ。

 しわしわの茶色になって、桜の木みたいだろ?

 指先がみるみる枝分かれして、広がってきたじゃないか。

 さあ、灰が被った。

 枝の先に蕾が膨らんで、ぽつり、ぽつりと。

 咲くぞ。

 咲くぞ。


 やあ、咲いたよ。

 満開だ。

 綺麗だねえ。


 ああ、ダメダメ。

 そんなに必死になって腕を振ったって、もう君の左手は桜なんだから。

 幻想?

 そう、幻想だよ。


 ああ、君が乱暴に扱うから、もう桜の花びらが散っていくね。

 はらり。

 はらり。


 一枚、二枚、

 四枚、八枚、十六枚


 どんどん散っていく。

 命が散っていく。


 え?

 苦しくなってきた?

 胸が苦しいかい?


 そうだね。

 桜も散ってしまうからね。

 君の両足も、すっかり黒い土の中に埋まってしまって。

 もう抜け出せないねえ。


 ねえ。

 桜の木の下には、何が埋まってる?


 うふふ。

 知ってるでしょう?


 さあ。

 もう十分楽しんだでしょう?

 幻想は、ここでおしまい。


 お代を頂戴いたしましょう。

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