深夜

 狭くて静かな僕の部屋に、コーヒーの薫りがふわりと広がった

 僕は世界の全てをこの部屋から追い出して

 星も見えない都会の空に、それを閉じ込めた

 塵と排ガスで汚れた窓ガラスの向こうに

 僕以外の全てがあるんだ


 冷たいガラスを指でなぞる

 FAREWELさようなら

 すぐそばの道路を走るトラックの振動が窓に伝わって、僕に挨拶を返す

 SWEET NIGHTよい夢を

 自分勝手に翻訳したその声に背を向けて、膝を抱えて座り込む


 僕の世界

 僕の国

 僕の街

 僕の部屋

 僕の掌


 どこまでも収束するようで、どこにも辿り着けない僕の行方は

 今この場所に薫るコーヒーの苦みと、確かに仕事をしている冷蔵庫の稼働音の中にあって、ほんの一時のモラトリアムに浸っている


 眠気はもう頭の後ろにあって

 それでもこのちっぽけな完全を手放したくなくて


 いつまでも、いつまでも

 僕は僕以外の全てに、背を向け続けるんだ。

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