夜
ひゅるひゅると寂しい風が吹く、真夜中の住宅街だった
街灯はちりちりと羽虫を焦がし、その足元に平べったい影を落とす
ごぽり
ごぽりと、影が泡立ち、アスファルトに染み出していく
その、生温かい泥濘から生えた青白い腕が、身をくねらせて五指で這い廻り始めた
飛び出した蛙の足が三本、四分音符を並べて撥ねていく
枯れ葉のように舞う蝶の羽は福耳の形
髪の毛でできた蜘蛛が優雅に歩いて、小さな口を開け歌い出した
ぼうむらむ
ぼうむらむ
ひりりりるらら
るらららら
街路樹の影から真っ赤に染まったバスタオルが飛び出し、ゆるゆると宙を泳いでそれに続く
雀の頭を乗せた木馬が、かたりことりと駈足を刻み
バッタの足を生やした賽子がアクロバットを繰り返す
溝のすり減ったタイヤのホイールにスピーカーが埋め込まれ、七色の光を放ちながら高らかに歌い出す
ぼうむらむ
ぼうむらむ
ひりりりるらら
るらららら
野球ボールを蹴り転がすデッサン人形
宙に浮いて涎を振りまく真っ赤なルージュの唇
生ゴミで張り詰めたビニール袋をお手玉に、恐竜のぬいぐるみが芸をする
大きな大きな足音だけが、姿を見せずについてくる
黒いもの
赤いもの
目のあるもの
口のあるもの
ぬめぬめとしたもの
ひらひらとしたもの
長いもの
震えるもの
笑うもの
泣くもの
みなが一様に歌い出す
ぼうむらむ
ぼうむらむ
ひりりりるらら
るらららら
そこのけ、そこのけ
我らが通る
どかねど通る
どかねど通る
どかずにいてくりゃありがたい
どうぞそのままお待ちになって
ぼうむらむ
ぼうむらむ
どうぞそのまま、お待ちになって
一緒にお歌をうたいましょ
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