青春

 年若いストリートミュージシャンを見た

 三脚を立て、スマートホンで自分を撮影しているさまは、やけに手馴れていて

 顔は随分と子供っぽいが、今どきのアイドル顔といえばそうなのだろう

 丁寧に手入れをされたファイヤーバードを、きれいな指が撫でていく

 意外にも渋い声が、俺の知らない洋楽を歌い出した


 観客は誰もいなくて、人は春の川のようにとめどなく流れていく

 焦がしたキャラメルのようなメロディが人々の足音に絡み合い、霞となって消える

 スラっとした服を着て、すまし顔でイマドキの曲を弾くおにいちゃん

 わかるよ

 なあ、ホントは緊張してるだろ

 ホントは今すぐ背中丸めて逃げ出したいだろ

 わかるさ


 俺は彼から離れたベンチに杖を立てかけ、その端に腰を下ろした

 レンガの路はこつこつと良く音が鳴る

 皺だらけの指先で、植え込みの葉を叩いた

 シンバルの音が頭の中に弾ける

 少し抑えめのリズムが体を支配していく

 初めて聞くが、いい曲だ

 ベンチの縁でビートを刻み

 錆びついた脚をキックする


 誰にも聞こえないセッション


 体に青い炎が灯り

 ファイアーバードが駆け抜ける天に向けて火の粉を散らす

 フレーズが巡るたび、色彩が増していく

 高音が駆け抜け、透き通っていく

 俺のビートがそれを下から持ち上げて、さらに遠くへ


 どこまでも

 どこまでも遠くへ


 情熱も、プライドも、我儘も、悔しさも、恥ずかしさも、全て抱えて


 飛んでいけ、若者よ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る