第10話 ファミレス親睦会

「——で、どうして君たちがいるんだ?」


 火神と共にファミレスに来た。

 そこまではいい。

 だが、なぜか梨空と環、それに名前を覚えていないクラスメイトの女子の3人が対面に座っている。

 

「俺がそこにいる奴に頼んだんだよ。多分、鳴瀬が名前を覚えてないであろう女にな」


「あら、仮にも彼女に対してそういう言い方はどうなのかしら」


「まあまあ、そこは彼女で大切だからこそ、ぞんざいに扱うっていう特別扱いってことで1つ」


 容姿は綺麗系、声音も落ち着いた感じで、髪は右側の後頭部付近を1つに結んだサイドポニー。

 静かだが、勝気に満ちた瞳が印象的な女子だ。


 というか、彼女……?

 僕と梨空と環が揃って火神を見る。


「あー、まあ、そういうことだ。……こいつは芦原玲奈あしはられな。俺の幼馴染で彼女」


 火神は僕たちの視線一身に受け、バツが悪そうにメニューへと視線を逃した。


「幼馴染で……彼女……」


 なんか梨空が呟きながらチラチラ見てくる。

 なんだこいつは。言いたいことがあるならハッキリ言え。


「で、環はどうしてここにいるんだ?」


 義妹のことはなにか悪いものでも食べたか変な発作でも起きたってことにしてスルーし、環に話しかけた。


「梨空ちゃんと話してたらちょうど玲奈ちゃんがご飯に行こうって誘ってきたから、ついてきちゃった」


 なるほどな。

 しかし……環の奴、梨空と打ち解けるの早すぎるだろ。

 

「ひとまず注文済ませるか。話すのは食べながらでも出来るからな」


 メニューを開いて、女性陣の方へ向ける。


「先に決めてくれ。僕はあとでいい」


 隣の火神がピューっと口笛を鳴らし、ニヤリと笑う。

 

「紳士的じゃねーの」


「うるさい。普通だ、普通」


 肘で小突いてくる馴れ馴れしい火神から少し距離を空けた。

 そのまま女性陣が注文するものを決める様子をぼうっと眺めていると、


「むう……!」


 梨空がメニューを見たまま唸り声を上げた。


「どうした?」


「あ、いえ。これとこれ、どっちにしようか悩んでいて……」


 ま、そんなことだろうとは思ったけど。

 片方はドリアで片方はパスタ、どっちも期間限定の文字が踊っていた。

 どうして女子って生き物は季節だの期間だのの限定って言葉に弱いんだろうな。


「なら2つとも頼め」


「……太れと?」


「違う。が、今のは言い方が悪かった。片方は僕が食うから、半分ずつ分け合えばいいだろ」


「いいんですか?」


「ああ、元々僕はなんでもよかったしな。メニューを決める手間が省けた……なんだ、環」


 なぜか環がメニューじゃなく意外そうに僕を見てくるんだが。


「いやーもしかしてだけど、鳴瀬君って……大人しそうな見た目の割に女の子慣れしてたり? 彼女とかいたことある?」


 ビクンッと梨空の身体が跳ねた。


「いったぁ!? ……こと、ない、ですよぉ……! 陽くんにはぁ……!」


 ついで膝を机の裏にぶつけたらしく、澄まし顔のまま悶絶して環の質問に答えていた。

 すごいなこいつ、なんのプロ根性だよ。

 あとどうして君が動揺してるんだ。勝手に答えてるんだ。


「だ、大丈夫? 梨空ちゃん」


「え、ええ。大丈夫です」


「いまあなたが驚く理由、あったかしら……?」

 

 梨空の奇行に環と芦原さんがそれぞれ違ったリアクションを返す。 

 こうして見ると、見事に性格の違う3人が集まったもんだ。

 どうにかこうにかなにかしらを誤魔化そうとしている梨空を見つつ、環の問いに答えるべく、口を開いた。


「梨空の言う通り、いたことはないよ」


「交際経験がないのに、既に異性に対する気遣いムーブが仕込まれてるってこと……? なにそれ強くない?」


「鳴瀬ってちゃんとオシャレすればモテそうだよな。パッと見地味だけど、顔立ちいいし。なあ玲奈、どう思う?」


 火神の問いかけに、静かにお冷やを飲んでいた芦原さんが僕の顔をまじまじと見てくる。

 ……この人美人過ぎて妙な圧があるんだよな。

 というか、そんなにジッと見られるとさすがに恥ずかしい。

 見つめ合うのもあれで、僕はそれとなく視線を外す。


「そうね。悪くはないと思うわ」


 フッと微笑みながら、感想を述べられた。

 どうしよう、反応に困る。


「玲奈、お前色々ごちゃごちゃ考えるの面倒になって当たり障りのないこと言っただけだろ」


「……そんなことないわ。言いがかりもはなはだしいと思うのだけれど」


 葦原さんは僅かにムッとしながらも、ふいっと視線を逸らした。

 どうやら火神の言ったことは図星だったらしい。


「こいつ見た目からは想像つかないだろうけど、結構面倒くさがりなんだよ」


「へえ、ほんとにそうは見えないねー」


「だろ? まあ鳴瀬の容姿が悪くないってのは本当に思ってることだろうけどな。単に褒める言葉が色々浮かんだ結果、考えるのが面倒になったってだけだ」


 人は見かけによらないってことか。

 

「あの、皆さん……ひとまず注文をしませんか?」


 おずおずと手を挙げた梨空の言葉に、僕たちは頼むものを決めたのに注文をしていなかったことに気がついた。


「おし、鳴瀬。ドリバ行こうぜ。女子は荷物見といてくれ」


 注文を頼み終え、火神が早速立ち上がる。

 無言で頷いて、僕も立ち上がった。


「玲奈はいつものでいいだろ?」


「ええ。いつものでいいわ」


 会話だけ見たらどこぞのバーに来た常連のようなやりとりだな。

 現実はドリンクバーに行くだけだというのに。


「環は?」


「うーん……センスで!」


「色々混ぜてやろうか」


「ごめんなさい調子に乗りました! オレンジジュースでお願いします!」


「遠慮するな。最高の1品を心を込めて提供してやる」


「その込めてる心って嗜虐心とかそういうのでしょ!? ねえ、絶対そうでしょ!?」


 騒ぐ環をスルーして、ドリンクバーがある方向に向かって足を動かし始める。


「あ、陽くん、私は——」


「——いい。言わなくても分かる」


「……っ! そう、ですか」


 なんだ? 急にしおらしくなって。

 最近の梨空は本当によく分からない。


 ただニヤニヤとこっちを見る火神が不快だということは、よく分かったがな。


「君だって芦原さんの飲み物を把握してただろ。それと同じことだ」


「クリーンヒット度では全然違うっぽいけど、ま、そういうことにしといてやろうかね」


 全くもって意味が分からない。

 1人でうんうんと頷く火神を見て、ただ首を捻り、ドリンクバーに近づいた。

 

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