第9話
「周。俺の好きな子は、おまえだ」
「……う、そ」
「こんな嘘つくわけないだろ」
必死に頭を回転させる。好き?輪島が?僕を?なんで?なんであげはじゃなくて僕なんだ?
「俺のこともそうだけど、あげはのためにいろいろ尽くしてあげている姿がさ、なんか、友だち思いでいいなあって。あと、あげはを見守る眼差しが暖かくて優しいんだよ。態度は素っ気ないけど、実はあげはのことすごく大事に思ってるんだろうな、いい子だなって」
呆然とする僕をよそに、輪島は熱っぽい瞳で僕の好きなところを挙げていく。
「……違う、だめだ、僕なんか、あげはの方が……」
「残念だけど、あげはのことは諦めてくれ。俺にとっては、あげはより周の方が魅力的な女の子なんだよ」
女の子。
ずっと否定して見ない振りを続けていた自分の女性性を突きつけられて、一瞬目の前が真っ暗になった。
ふと、自分の足元に目線を落とす。輪島たち男子と同じ制服のズボン。少し汚れた上履き。髪も短くて口調や一人称も男っぽくて、端から見たら男子に見えると、体育の授業以外で女子扱いされることはないだろうと、思ってきたのに。
僕は。
僕は男になりたかった。きっとあげはへの恋心を自覚したときから。女同士で結婚することはできないから、だから男になりたいと思った。だけど僕の体は僕の意に反して女らしく発達していく。膨らんだ胸、丸い尻、柔らかい肉感。そんな女の体がどうしようもなく嫌だった。
男になれなくても、あげはと結ばれることが不可能でも、それでも生涯彼女のそばにいたかった。あげはが笑顔でいられたらいい。その横に僕がいたらもっといい。例え恋人でなくても。だから輪島との恋を応援していたのに。嫉妬の業火に焼かれながら、泣き叫ぶ心の声を塞ぎながら。
なのに、どうして。
どうして輪島は、僕を女として見て、好きになったの?
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