第8話
《ルビを入力…》「周。わたし今日用事があるから、ばいばい!」
「ああ、わかった」
六月中旬の放課後。あげははそれだけ言うと急いで教室から出て行った。そういえば今朝、他のクラスの女友だちと最近できたばかりのカフェに行くって言ってたっけ。
あげはの背中を見送ると、日直のノートを書いている輪島が目に入った。今回も輪島と仲良くなろうと思って話しかけているけれど、ふたりきりで話したことはない。あげはの今後のためにも少し彼と話してみよう。
「輪島」
「周か。どした?」
「いや、特に用はないんだけど」
「なんだよ、それ」
輪島はおかしそうに笑った。少女漫画に出てくるキャラクターみたいな爽やかな笑顔に思わず見入ってしまった。あげはが一目ぼれする気持ちもわかる気がした。
「あれ、あげはは?」
「用事があるって先帰った」
「へえ。おまえらも別行動することあるんだな」
「そりゃ、たまにはな。僕たちのことなんだと思ってるんだよ」
「だっていつも一緒にいるじゃん。すげー仲良しだなって思う」
「……なあ、輪島はあげはのこと、どう思う?」
ふと気になったことを訊いてみる。こんなことを訊けるタイミングはもう二度とない気がしたから。
「かわいいと思うよ」
「じゃあ、」
「だけど別に好きじゃない」
「……なんで」
「他に好きな子がいるから」
体の温度が急速に失われていく気がした。輪島は少し困ったように頭を搔いた。
「周は俺とあげはをくっつけたいんだろ?悪いな、期待に応えてやれなくて」
「ああ……うん」
「申し訳ないとは思うけど、俺は俺の気持ちを大切にしたいし、こんな半端な気持ちであげはと付き合うのはあげはに失礼だろ」
「……そうだな」
輪島の言い分は正当で返す言葉も見当たらない。好きな子がいるなら、その子を大切に思うなら──
「……輪島。好きな子って、誰?」
何度繰り返しても、輪島は必ず「好きな子がいるから」と言ってあげはの告白を断っていた。毎回輪島に想われる子は一体どんな子なんだろう。あげはの恋が実るヒントがそこにあるかもしれない。
輪島は暫く視線を彷徨わせた後、覚悟を決めたかのようにまっすぐに僕を見つめた。形の良い唇が静かに動く。
「
「……え?」
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