第7話

「役では恋人同士になれても、現実ではそうはいかないんだね」

 誰もいない教室で、僅かに見える校庭のキャンプファイヤーの灯りを眺めながら、あげはは悲しそうに呟いた。

 文化祭でロミオとジュリエットの演劇を披露した後、あげはは輪島に告白した。ロミオ役の輪島とジュリエット役のあげはは、練習中からどんどん仲良くなっていって、いい雰囲気になって、本番も本物の恋人同士のように息がぴったりで、今回こそはうまくいったと思ったのだけど。

「好きな子がいる、か……そうだよね、わたし魅力ないし」

「そんなことない。今日のジュリエットだってすごく綺麗だった」

「じゃあ、なんで……」

「……」

 あげはの瞳が揺れる。僕は気の利いた言葉のひとつも言えなくて、彼女と一緒にゆらゆらと燃える炎を見つめた。

 その夜だった。あげはの家が火事で全焼した。実況見分の結果、あげはが家中にガソリンを撒いて火をつけたらしい。燃え盛る炎の中から救助されたときには、彼女は焼き焦げて事切れていた。

 次こそ、次こそは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る