第6話

 その日以降、夏休み中はずっとあげはと一緒に過ごした。テーマパーク、海、花火大会、カフェ巡り……あげはが行きたいところややりたいことを全部叶えてあげたかった。楽しい思い出をたくさん作れば、失恋の傷も少しは癒えると思ったから。


「楽しかったなあ、夏休み」

 夏休み最終日の夕方、ショッピングを終えて帰りの電車を待っていると、あげはが弾むような声で呟いた。

「ずっとそばにいてくれてありがとう」

「別に、礼を言われるようなことじゃないし」

「周ってほんとに優しいね。……惚れちゃいそう」

 驚いてあげはの方を向いた。夕陽を背に、あげはは微笑みながら僕のことを見つめていた。微笑んでいるのに、その表情はどこか悲しげだ。

「……あげは?」

「なんてね!嘘だよ」

 あげははいつもどおりの明るい笑顔を浮かべて茶化したけれど、今までとどこか雰囲気が違う。咄嗟にあげはの手を握った。こうして手を繋いでいないと、あげはが遠くに行ってしまいそうで怖かった。

「もー、何するの。子どもじゃないんだから」

 あげはは笑いながらやんわりと僕の手を払って歩き出した……駅のホームに向かって。


 カンカンカン、と踏切の音がけたたましく鳴る。電車が恐ろしいスピードであげはに近づいてくる。


「あげは!」

「わたしはね、蝶にはなれないんだよ」

 あげははそう言ってにこりと笑うと、ホームに飛び込んで電車と衝突した。肉片が辺り一帯に飛び散る。人々の悲鳴がそこら中から聞こえる。


 どうして。

 今回はうまくやれると思ったのに。花火大会以降、あげははずっと楽しそうに笑っていたのに。

 次こそは。何度目か分からない「次こそ」を誓って、ネックレスの蝶を握りしめた。

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