第3話

「好き」

「……」

「大好きだった、のに」

 俯くあげはの表情はよく分からない。十一月の夕暮れ時、冷たい風が河川敷に座る僕らに吹き付ける。

 あげはの初恋が実ることはなかった。勇気を出して輪島に告白したものの、好きな子がいるからと振られてしまったらしい。

 何度繰り返しても、こういうときになんて声をかけたらいいかわからない。

「あげはにはもっといい男がいる」「次の恋をしよう」、以前そう言って励まそうとしたけれど、こんな月並みな言葉はあげはには届かなかった。

「僕を好きになってよ」……なんて、死んでも言えない。

 どんな言葉も余計に彼女のことを傷つけてしまいそうで、口にするのを躊躇ってしまう。無力な僕は、やがてしゃくりあげて泣き始めた彼女に何も声をかけられないまま、ただただ、彼女の隣に座っていた。


 翌朝、もう登校しなくちゃいけない時間なのにいつまで経っても家から出てこないあげはを不審に思って、合鍵で家へ上がると……


 自室で首を吊ったあげはと対面した。


 お経を読む和尚の肩越しに見える、笑顔のあげはの遺影をぼうっと眺めた。

 あげはの死体が目に焼き付いて離れない。ぞっとするほど虚ろな瞳だった。遺書はなかったけれど、自殺の原因は、恐らく、いや、絶対……

 結局僕は何もできなかった。またこうしてあげはを喪ってしまった。

 次こそ、次こそは──

 ネックレスの蝶を握りしめ、ぎゅっと目を瞑った。

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