第2話
「周ってホント朝弱いよね。毎日、今日こそは遅刻するんじゃないかってハラハラしちゃう」
「だったら先に行けばいいのに」
「もー、またそんな意地悪なこと言って。あ、数学の宿題やってきた?ちょっとわかんないところがあったんだよね〜」
学校へ向かう道中、あげははいつも通りとりとめのない話をぺらぺらと話し続ける。
あげはと僕は家が隣同士の幼馴染だ。生まれた時期も近くて、家族ぐるみで仲良くなって、高校二年生の今に至るまでずっと同じ道を歩いてきた。物心ついたときにはあげはがそばに居るのが当然のことになっていて、これから先の人生もあげはと共に歩むのだと思っていた。平凡だけど幸せな毎日を送っていた。
まさか、こんな日常が打ち砕かれるなんて思ってもいなかった。
「あ、輪島くん!おはよう!」
「おー、おはよ」
校門をくぐったとき、あげはが一人の男に手を振った。僕たちと同じクラスの輪島だ。
「えへへ。おはようって返してくれた」
「……よかったな」
「うん!はあ……今日もかっこいいなあ」
先を歩く輪島の背を見つめるあげはの頬はほんのりと色を帯びていて。僕は何度目かの胸の痛みに顔を顰めた。
あげはは輪島に恋をしている。入学早々に、イケメンで目立っていた彼に一目ぼれして以来、毎日輪島を眺めてうっとりしていた。二年生に進級して同じクラスになった今は、こうして毎日彼女なりにアピールをしている。隣に居る僕の気も知らずに。
僕はあげはのことが好きだ。いつから恋心を抱いていたのかはわからないけれど、彼女を守って生きていきたいと思った日のことははっきりと覚えている。
中学三年生の秋だった。あげはの両親は交通事故に遭って帰らぬ人となった。あげははふたりの葬式のとき、ぴんと背筋を張って、涙ひとつ流さず気丈に振る舞ってみせた。その様があまりにもしっかりしていて、「こんなにしっかりした子ならひとりでも生きていけるだろう」と親戚一同は彼女を引き取ろうとしなかった。
葬式が終わって、親戚たちが皆帰った後、ひとりぼっちになったあげはは僕に抱きついてようやく堪えていた涙を流した。
明るくてかわいらしいのに、なんて不器用なんだろう。なんていじらしいんだろう。
僕の肩に顔を埋めて泣き続けるあげはをぎゅっと抱きしめた。
あげはのことを守ってあげたい。その涙を拭ってあげたい。ずっとあげはが笑顔で居られたらいい。笑顔のあげはの横に居るのが僕だったらもっといい。
そうだ、僕は、あげはのことが……
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