第4話

「今日もかっこいいなあ、輪島くん」

 四月十五日。あげはと一緒に登校すると同じクラスの輪島と鉢合わせた。あげははうっとりとした表情で彼の背中を見つめた。


 さて、あげはが自殺してしまわないように、今回はどう立ち回ろう。生物の授業中、斜め前の席のあげはの背中を観察しながら考えを巡らせる。

 前回のあげははただ輪島のことを眺めているだけだった。告白するように背中を押したら玉砕してしまって、ショックのあまり首を吊った。


「蝶はさなぎから羽化して蝶になるわけだが、さなぎの時期に寄生虫につかれると羽化せずさなぎのまま死んで──」


 その前のあげはは、輪島と友だちになって距離を縮めていったのだが、「好きな子がいるからあげはとは友だちのままでいたい」と振られ、学校の屋上から飛び降りた。その前は、確か──


「周!」

 生物の教師が額に青筋を立てながら大きな声で僕の名を呼んだ。

「ボーッとするな!今俺が説明したことを復唱してみろ」

「あー……分かりません」

「ちゃんと聞け!いいか、さなぎは……」

 教師が黒板に向き直ったのを確認すると、あげはが僕を振り返ってくすくすと笑った。


「輪島くん、やっぱりかっこいい〜」

 昼休み。あげはは教室の窓から、グラウンドで友だちとサッカーをする輪島を眺めている。

「思い切ってアピールしてみたらどうだ?」

「むりむり!恥ずかしくって喋れないよ!」

「でもただ眺めてたって何も始まんねえよ。おーい、輪島!」

「ちょっと、周!」

 今回も輪島と距離を縮めてみよう。そう決めて、僕は教室の窓から輪島に声をかけて手を振った。あげはも僕につられて小さく手を振る。僕たちに気づいた輪島が手を振り返すと、あげははとびきり幸せそうに笑った。

 そうだ、これでいい。

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