駆け落ちの代償(巻四「主人の娘と家来密通の事 しゅじんのむすめとけらいみっつうのこと」)
水戸の桜井何某の娘は隠れなき美女であった。
十四、五歳の時分、家来の若党に美男がいたのだが、彼に懸想して、忍び忍び互いに通い合っていた。
親はそのことを知ってか知らずか、娘を他の男に縁付けようとした。
このことを聞いた女は、若党の男にすがりついて、
「
そう云ってひどく嘆き悲しんだ。
男は色々と云って宥めたのだが治まる様子もないので、終に中遣いの女と三人だけで忍び出て、行先もわからぬ道行きだと云ってまごつく女の手を取って、引き立てながら、湊の方へと向かったのだった。
親たちは驚いて、四方に追手を放てば、
「今は地に潜り、天を翔ける他に追手を逃れる術はない」
男はそう思って、逃げる道中、松山に分け入って、娘と中遣いの女とを刺し殺すと、娘の肌身から金子を奪い、後を晦まして行方知れずとなった。
娘の愚かさによって不義の悪趣に引き入れられたとしても、男は本心の道さえ守っていれば、なんぞこのような乱行には及ばなかったはずである。
主を犯すだにあるまじきものを、あまつさえ命を奪われ、金を奪われたのは、ひとかたならぬ災禍ではないか。
この世だけでなく後世までも、五逆十悪劔の山の嶺高く、未来永劫阿鼻地獄の底へ堕ちることであろう。
恐れるべし、慎むべし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます