血塊(巻一「小女野郎を恋慕事 むすめやろうをれんぼのこと」)
江戸は中橋伝馬町の辺りの菓子屋の何某の母の姪は、十二三歳の時分に、叔母に連れられて、歌舞伎芝居を見に行った。
そこで玉川千之丞を見初めてからというもの、家に帰ればその所作や恰好を真似て、小袖の裾をつまんで端折り、頭を布で包み、何とも云えない姿をしている。
初め、それを見た人たちは笑っていたが、日を重ねても止める気配がないので、これは容易なことではないようだと、人々は云い合った。
その後、姪はひたすらに、
「あな恋しや、生きててもどうしようもない我が身をどうしてくれよう」
などと、いろいろと憚られるようなことを口にするので、聞き苦しいばかりであった。
更にその後、姪の腹の中に何やら塊ができたので、外科医を招き、ひらばり(先端の尖った鍼。切開・瀉血用)でもって突き貫けば、墨色の血が流れ出てきたので、それを絞り出して捨てて、薬を塗ってやった。
段々と塊は小さくなった頃、本復した。
しかし、また日が経つと、塊は再び大きくなり、それを絞ってはまた大きくなり、ということをたびたび繰り返した。
ある人が来て云うには、
「この原因は男を想う気持ちが積もって、
さっそく媒酌を頼んで、夫を持たせたところ、快気したということだ。
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