エピソード30 対コルトリア王国海軍

 コルトリア王国内にロワルドの首を持って戻って来たロア一行は、ナウリ・コルトリア王直々に呼び出されていた。

「――それで?君が、ロワルド・ローレリウスの首を狩って来たのか⁉」

「ええ、帝国が我が領海と領地を荒らしたので・・・報いとしてですが――」

「そうか・・・、ロア・ヴェルモンティアよ。貴君をヴェルモンティア領の英雄という称号で称え――・・・そして、儂の娘であるカリナ・コルトリアとの婚約を」

「あー・・・、その前に。相談があって、ローレリウス帝国の名を改めてヴェルモンティア帝国としたいのですが・・・」

「・・・な、なんだと?」

「ですから、旧ローレリウス帝国を新ヴェルモンティア帝国にしたいと考えています!それに、僕が納めていたヴェルモンティア領はコルトリア王国に返上します」

 ナウリ・コルトリア陛下が口を開くと同時に「――たとえ、貴方が武力を持って止めに来ても僕は決心していますので」と、意見を言うと黙って唸った。

「・・・そうか。決めたのか・・・、それでロアよ。王都の学園はどうする気だ?」

「現役学院生としてもちろん通い続けますよ、まぁ――財力や権力よりも交流を優先したいので」

 軽く会釈をして謁見の間を出て行ったロア・ヴェルモンティア一行を、ナウリ・コルトリア王はただ見ているしか出来なかった。

「ロア・ヴェルモンティアか・・・、面白い発想を持ったヒトよのぉ」

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 屋敷に戻ったロアは、軍港に来ていた。

「諸君!これより、ローレリウス帝国は名を改めてヴェルモンティア帝国となる!そのための出港が明日の午前10時になる!家族や彼氏、知人、友人などに所在の変更を伝える事を特別に許可すると決めた。明日はヴェルモンティア領海軍ではなくヴェルモンティア帝国海軍として発足する‼今日は、全員休日扱いにする!以上だ、解散‼」

 演説台で訓示を述べ終えたロアは、軍港内に招いた領民たちに返還される事と移動の事を伝えに行った。

 領民らからブーイングの嵐を受けるだろうと予想していたロアだったが、感謝された上に激励や花束などが贈られた。

「皆さん、約80年間。お世話になりました、自分は――」

「何言っているのさ、ロア皇帝!」

「寧ろ、世話になったのは私達の方だよ」

「み、みなさん・・・」

 その日の深夜、第一移動艦隊の旗艦となる長門型戦艦1番艦長門の艦長室でロアは就寝した。

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 翌日の午前10時、ヴェルモンティア領東方にある軍港から長門型戦艦1番艦長門を旗艦とした第一移動艦隊が警笛を鳴らしながら出港した。戦艦長門、重巡摩耶、重巡羽黒、重巡足柄、軽巡阿賀野、軽巡酒匂、駆逐朝潮、駆逐吹雪、駆逐秋月、駆逐雪風、潜水伊9、潜水伊15の計12隻が順に出港する中、軍港では絶え間なく領民たちの感謝の声や紙吹雪が舞っていた。

 長門の第一艦橋では、ロアや船員たちが嬉し涙を静かに流していたその時、伝声管から報告が上がった。

〈右前方に艦影!解析結果は、コルトリア王国海軍です!〉

「戦闘班長、戦闘配置指示を出せ」

「全艦、戦闘配置!」

 警告音が鳴り響いたその時、鈍い音がした。

「――ッ、どうした!」

「王国海軍が発砲、右舷に被弾した!」

 やっぱり、コルトリア陛下の命令か・・・。

「全艦、右砲雷戦。用意!」

「――取舵、一杯!」

 波飛沫が舞い上がる中、一糸乱れない取舵を見せた後。長門の1番砲塔を始めとして正当防衛を目的とした砲戦が始まった。

「三式榴弾を装填次第、撃ち方始め」

「――撃ち方、始めぇ!」

 交互撃ち方で目標への命中率を確実に引き上げていく中、重巡や軽巡、駆逐、潜水が雷撃戦を始めて、ものの5分で敵艦隊を混乱へと導いていった。

「――ッ、左上空に王国所属の翼竜騎士ワイバーンナイトを補足!距離2万5千‼」

「左舷、対空戦闘・・・始め」

「――全艦、左舷対空戦闘用意!準備出来次第、発砲を許可する!」

 海上の王国海軍帆船が50隻にまで減ったころ、長門の機関部に被弾した事で長門の速力が17ノットにまで低下した。

「――ッ、機関部に被弾!」

「速力低下、現在17ノット!」

 その後、航行不能に陥った事で総員退艦という指示を出そうとした時、無線員が叫んだ。

「〈ワレ、コレヨリ救助ニ入ル。護衛艦隊、旗艦アサユキ〉――です」

 ロアが双眼鏡で水平線上を覗くと、太陽を背に水飛沫を上げて高速で向かってくる5隻の艦影があった。

「副長、長門艦内に退艦指示を発令。本艦は、技術漏洩を防ぐために友軍艦による水没処分とする」

「了解しました、総員。退艦!」

 搭載されていた短艇が海面に降ろされると同時に、元気よく右舷傾斜25度になった長門から離れると小破した朝潮型駆逐艦の1番艦朝潮の4本の魚雷航跡が長門の左舷腹に命中した。

「長門、水没処分完了!」

 重巡摩耶に移動し終えた長門の乗員らが、沈んで行く長野船体に向けて敬礼をしていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 戦闘が始まって5時間が経過しようとしている時、装甲帆船3隻の発見報告が上がって来た。

「主砲弾、残り僅か!」

「――ッ、敵艦隊に増援発見!艦種識別、あれは・・・装甲帆船⁈」

 その時、摩耶の近くに水柱が3本立ち上がった。

「――ッ!至近弾‼撃って来たァ!」

「・・・レコン。全艦、砲雷撃戦用意。目標、装甲帆船!一斉射撃、準備!」

 艦内に警告音が鳴り響き始めて、護衛艦隊も含めた計16隻の艦から砲撃と雷撃が始まった。

 護衛艦隊から絶え間なくハープーンミサイルやトマホークが発射されていく中、王国側の帆船や装甲帆船などの船体からは火の手が上がり始めた。

「敵艦、火災発生確認!」

「――主砲畳め、第二戦速。全艦に通達、取舵20度」

「取舵20、第二戦速。ヨーソロー‼」

 何とか戦線を離脱できたと確認したのは、午後8時頃だった。

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