エピソード28 モールス信号《トンツー》
夕刻、広場にテントを設営するように命じたロアは、実家から持って来ていたワインを開けて猪口に注ぎ香りを楽しんでいた。
「戦場で飲むワインは、最高だな。前世では酒に弱かったが、この世界では強いから飲み放題だな」
一気に飲み干すとお替わりで注ぐと、急に背後からベルの声がかかった。
「お兄様、何なされているのですか?」
「あ・・・、ベル」
「あーッ!また、隠れて飲酒ですか⁈」
覗き込んできたベルに手元にあったワインを見られたことで、気が付いたのか鼓膜が破れそうなほどの声量で叫ばれた。
鼓膜、終了のお知らせ。
「まったく、もう!お屋敷では私が居たから禁酒したのに、離れるとコレですか⁉呆れます‼」
「ご、ごめんって・・・。あ、ほ、ほら。一杯だけ飲むか?」
「「一杯だけ飲むか?」じゃないですよ!何度言ったら、分かりますか⁈その内、ブクブク脂肪の塊になっても知らないですからね⁉」
「わかったよ、でも。飲みたいだろ?」
「それは・・・」
「ショーガナイナ、ベル君」
猪口をもう一つ出して並々まで注ぎ、ベルに差し出すとテレを隠すためなのか一気に飲み干した。
ツンデレですか・・・。
空になった猪口を地面に置いてそそくさとテントに戻って行ったので、「はは・・・、口紅していたのか」と呟いた後、テントに戻って就寝した。
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翌朝、冷たい潮風が市街地内に吹く中、広場に集まっているのはレコンが指揮いる第二小隊60名とベルが指揮いる第三小隊60名、最後にロアが指揮いる第一小隊60名の計180名がロアの訓示を傾聴していた。
「我々、ヴェルモンティア領軍は所属しているコルホートリア王国への進行を抑制するために派兵したがあまりのクズさにもう俺の心は枯渇した。よって、これよりローレリウス帝国を降伏させるまで進軍する事に決めた!軍人たちよ、敵城を攻め落とすぞ‼そして、この戦いを収束させよう‼」
「「「はい‼」」」
すると、ロアが持っていた無線から声が聞こえてきた。
『こちらOH―1《偵察ヘリ》、城壁内を偵察して来ます』
「OH―1、こちら第一小隊長のロアだ。AC―130U《スプーキー》を要請してくれ」
『了解』
OH―1の駆動音がドップラー現象で広場上を通過していくのを見届けた後、「第二小隊は東門に行け、第三小隊。西門へ行って、通用門を確保しろ」と指示を出した。
「分かりました、お兄様」
「畏まりました、ロア様」
二人がLAVで指示した場所に向かった後、ロアは第一小隊についてこいと言うただそれだけの指示を出した。
「お前等、命では無く敵を落とすぞ!それが出来る者だけ、後ろについて来い!」
「はい!」
「それと、戦場での声は命取りだからこの書類本と
「はい!」
分隊ごとに電鍵とモールス符号の意味を書いた国語辞典ほどの分厚い書類本を手渡し終えると、MK18を装備して広場を出た。
「テストするぞ。・・・---・・・」
「えーっと、はい!SOSですか?」
「正解。次は、-・ ---・- -・-- ・-・--」
「はい!タスケテですか?」
「お見事!この通信方法ははまだこの世界にないから、
「分かりました!」
第一小隊が広場を少し抜けた場所にある教会に辿り着くと、ロアは空挺降下部隊を要請した。
「ロアだ、空挺降下を要請する。場所はローレリウス帝国中央広場から北に5キロの地点だ」
『了解、AC―130Uが間もなく空域に到着します』
「スプーキーじゃなくて、降下部隊だ!すぐに寄こしてくれ、あと補給物資も!」
『りょ、了解』
無線を切ると、電鍵で小隊に指示を出した。
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補給物資を積んだC―130Rが
「空挺降下中隊です、ロア隊長。お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。帝国南方諸島は解放できたのか?」
二日前、彼ら――空挺降下中隊に帝国領となっている
「ええ、解放しました。おかげで、ロア隊長の事を神だと言っていましたよ」
「そうか。じゃあ、作戦を話す。A《アルファ》分隊は南通りに向かい裏取りを計画しているだろう帝国兵共を地獄に落として来い」
「はい!」
「B《ブラボー》分隊、東門に居る第二小隊の援護をしろ。ああ、それと――全分隊。電鍵と書類本を持って行け。これからのヴェルモンティア軍は一味違うぞ」
「「了解!」」
第一小隊はそのまま、補給物資から弾薬やカスタムパーツなどを補給して帝国城壁に向けて前進し始めた。
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